10月20日 句会報告と特選句

10月2回目の句会が開催されました。雨続きの今秋ですが、静岡はこの日晴れ間が見え、暖かな日差しが差し込んでいました。

20171020 酒
                     photo by 侑布子

本日の兼題は「酒」。お酒を楽しまれる方が多い樸俳句会。実感のこもった俳句が多く盛り上がりました。高得点句を中心にご紹介してまいります。

(◎ 特選 〇 入選 【原】原石 △ 入選とシルシの中間
ゝシルシ ・ シルシと無印の中間)

◎一葉忌縦皺多き爪を切る
             杉山雅子

(下記、恩田侑布子の特選句鑑賞へ)

                           
◯隣室は数学を吾は新酒を
            藤田まゆみ

合評では、
「数学の難しい問題に挑むワクワク感と、新酒を飲むワクワク感。別々の部屋にいるのに静かなワクワク感が共通している」
「論理的な思考と、感情的な楽しみが隣り合わせになっている面白さのある句」
という感想が出ました。
恩田は、
「ユニークな内容に句またがりの破調が合っていて面白い。隣では数学の難問に取り組んでいる子ども、わたしはへっちゃらで新酒を傾ける。秋の夜長にそれぞれの楽しみがあっていい。型にはまらない個性的なのびのびとした俳句で楽しい」
と評しました。

20171020 酒2
                     photo by 侑布子

◯深酒を洗ひ流すや天の川
            久保田利昭

合評では、
「酒飲みの心境がよく詠まれている。きれいな星空を見て、ちょっと反省することってあるよね」
「サラッとした句。ヒヤッとした夜の空気を感じる」
恩田は、
「酒豪はやることが大きい。深酔いして夜更け家路につくとき、天の川の下で酒気を洗い流すという。恩田は天の川で夢を洗う「夢洗ひ」でしたが久保田さんは酒を洗う「酒洗ひ」。してみると天の川はミルキーウェイじゃなく、どぶろくどくどくでしょうか」
と評しました。

 
◯良寛のいろは一二三や草の花
             伊藤重之

 この句は恩田のみ入選で、ほかは誰も点を入れませんでした。
その理由として「あまりにも上手」「良寛にもたれかかってしまっていると感じた」というような意見が出されました。
恩田は、
「良寛に“いろは”“一二三”の双幅があって名高い。良寛の手跡のやわらかさと草の花が絶妙な配合で上手い句。欲をいうと技術力で書けてしまったような、どこか肉声から遠い感じのするうらみもある」
と講評しました。

        
[後記]
 秋の季語には「酒」を含むものが多くこの兼題となりましたが、想像以上に幅広いお酒の種類が句に登場し、いつも以上に自由な明るい句会となりました。お酒は感情に直結する飲み物なので、句が思い浮かびやすいのかもしれません。飲めない筆者としては、羨ましい気持ちになりました。次回の兼題は「身に入む」「林檎」です。(山田とも恵)

20171020 一葉忌
                     photo by 侑布子

             

特選   
   一葉忌縦皺多き爪を切る   
                 杉山雅子

 縦皺の爪は老化現象といわれる。雨の降るような手足の爪を久しぶりに切る。気づけば今日は二十五歳で死んだ樋口一葉の命日十一月二三日。いつの間にか一葉の何倍も年を重ねてしまった。桜貝のような爪であった一葉のうら若い肉体を蝕んだ結核、病のなかではげしく才能を燃焼させて書き綴った不滅の文学作品、そして我が八十路の来し方をこもごも重ねみる。
 一句の良さは対比された文学者一葉と私の命との等価性にある。どちらもずっしりと重く、その価値に軽重はない。冬の深まりにこの世に生きる悲しみを分かち合い人の世の不思議な運命を思う。
(選句 ・鑑賞 恩田侑布子)

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