1月25日 句会報告

平成31年1月25日 樸句会報【第64号】

新年第二回目の句会です。
兼題は「水仙」と「“寒”のつく季語」。
 

20190125 句会報用1-1
 (安倍川橋の冬茜)           photo by 侑布子

 
 
○入選
 足先に闇すでにあり寒茜
               松井誠司

合評では
「たしかに寒茜はすぐに暗くなってしまいます」
「闇が来ている、という作者の気づきがいい」
「夕刻の時間の経過とともにあたりの色の変化も感じさせます」
「“足元”ではなく“足先”にしたのがよいのでは」
などの感想が述べられました。
 
恩田侑布子は
「“すでにあり”という措辞を俳句に活かすのは難しいが、この句ではよく効いています。“足先”という語におのれの行方を重ねている。真っ暗になっていく情景に自分が進んでいく先のことを想っているのです。晩年や死のことも見据えた心象がよく描けており、実感のある句です。昔、連句をおそわった草間時彦先生の代表句のひとつに“足もとはもうまつくらや秋の暮”があります。でも季節も違いますし、足もとは佇む感じ、足先は行く末を暗示しますから類句とはいえないでしょう。いい句です」
と講評しました。
 

 
 
 
○入選
 わしわしと湯気もろともにもつ煮込み
               萩倉 誠

合評では
「“わしわしと”がいい感じ。もつ煮込を食べている実感がある」
と共感の声。
恩田は
「オノマトペが素晴らしく効いていて、“もつ煮込み”を引き立てています。庶民の生活のエネルギーを感じます。ガッツある主婦が大家族のために厨房でもつを煮込んでいる姿でしょうか。煮ているのではなく、食べている情景ならば“み”は不要です。もつ煮込みそのもののリズム感で愛誦性もありますね」
と評しました。

 
 
【原】海風と香もかけのぼる野水仙
               松井誠司
 
合評では
「斜面に群れて咲く水仙の光景が目に浮かぶ」
「“かけのぼる”という擬人化がどうでしょうか」
と感想や疑問がありました。
恩田は
「“海”と“野”がわずらわしい。海というからには野にある水仙に決まっています。“かけのぼる”はいいですね。青空が余白に広がっていきます。“と”も推敲したい」と述べ、次のように添削しました。
 
【改】海風に香もかけのぼり水仙花
 
 
 
 
【原】喪の帯をとくや水仙香をほどく
              村松なつを
 
合評では
「女性の喪服には魅力があります。行事が一段落し、ふっと気持ちにゆとりが出たときに水仙の香に気付いた」
「色っぽさに負けて・・(思わず採りました)」(ここまで評者は男性)
「えーっ!色っぽさなんて感じませんよ。ひとつの儀式の緊張感が取れて、水仙のかおりに気がついた瞬間を詠んだのでしょう」(と、女性の評者)
「“香をほどく”という言い方があるのか」
「いや“ほどく”は新鮮ですよ」
「“とくや”と“ほどく”がいかがなものか。“匂ひたつ”くらいのほうがいいのでは」
と感想・意見が飛び交いました。
 
恩田は
「“香をほどく”は鮮度があっていいです。問題は“とくや”の勇ましいリズムに句の内容が合わないことです。杉田久女の代表句(花衣ぬぐや・・)にインスパイアーされたのでしょうか。もう少し力を抜いて、おだやかな表現にしたい。“香をほどく”に焦点を当てましょう」と評し、下記のように添削しました。
               
【改】喪の帯をとけば水仙香をほどき
 
 
 
                                
今回の兼題の例句が恩田によって板書されました。
「松本たかしの句については、直喩はこれくらい飛躍しないと働かない。“水仙”と“古鏡”に橋を架けることによって詩の世界が現出している。また昨年逝去された宇佐美魚目の句は、作者の高潔な精神の佇まいまで描き切っています」と、解説がありました。

 水仙の花のうしろの蕾かな
               星野立子

 水仙や古鏡の如く花をかゝぐ
              松本たかし

 水仙を巖場づたひにはこぶ夢
              宇佐美魚目

 極寒の塵もとゞめず巌ふすま
               飯田蛇笏

 寒の月白炎曳いて山をいづ
               飯田蛇笏

 涸れ瀧へ人を誘ふ極寒裡
               飯田蛇笏

 大寒の一戸もかくれなき故郷
               飯田蛇笏

 寒月や貴女のにはとり静かなり
               攝津幸彦

合評のあと、注目の句集として宇多喜代子第八句集『森へ 』が紹介されました。
恩田は次の七句を佳句として挙げました。

 透明の傘の八十八夜かな
 
 白足袋の白にこころを従えて
 
 つらなりて石鹸玉にもこの重さ
 
 恩師みな骨格で立つ花野かな
 
 春寒や正岡子規の大頭
 
 永き昼硯の川を渡りゆく
 
 夏木立先生のこと一入に
 
 

20190125 句会報用2-1
 (安倍川右岸から仰ぐ冬の夕富士。恩田の原風景です)
                     photo by 侑布子

 
                   
[後記]
投句の不調もなんのその、合評は侃侃諤諤、丁丁発止。バレ句に近いものもあったりして、爆笑することも度々。句会が了ったのは会場の借用時間ギリギリの午后5時でした。今年も熱く和やかな樸俳句会です。
恩田は「今日は理屈の通った、頭でつくったような句がちょっと目立ちました。理屈から出てくる擬人化は句を安っぽくしてしまいます。理屈で意味は通っても、そのとき“詩”は消えます。また、季語と合っていない句や予定調和的な句も散見されました」と少々苦言を呈しました。
この指摘はまさに今回の筆者の投句に当てはまり、自らの句作と選句を省みながら帰途につきました。
次回兼題は、「下萌」と「梅」です。(山本正幸)
 
今回は、○入選2句、原石賞2句、△2句、ゝシルシ10句とやや低調でした。
(句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)

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