8月4日 句会報告

令和元年 8月4日 樸句会報【第74号】

猛暑日が続く八月最初の句会。暑さのためか欠席者がいつもより多くちょっとさびしい句会になるかと思いましたが、始まれば熱のある楽しい句会となりました。
兼題は、「夕焼」と「祭」です。

 今回は原石賞1句と△2句を紹介します。
 

20190804 祭
                     photo by 侑布子

                  
【原】はらつぱに忘れものあり夕焼かな
               田村千春
 
【改】はらつぱに忘れものある夕焼かな
 
 
「はらつぱ」というなつかしい措辞は、万人の胸に郷愁を呼び起こす。そこに少女は大事なものを忘れて来てしまった。石けり遊びでいつも使うお気に入りの石だったかもしれない。人にはどうでもいいものだが、自分にはかけがえのないものが大人になった今もある。それは少女の日の忘れもののように、胸の底に夕焼けと一緒に住んでいる。 遠い街でふと夕焼を見上げても、その下でいまも自分を待っているような気がして胸がうずく。 この句の忘れものは、昔と今とがダブルイメージになっているところがいい。作者の永遠の忘れものなのだろう。
 俳句初心者の作者は、切字「かな」の使い方に通じず、中七を「あり」と終止形で切ってしまい、「忘れ物」と「夕焼」がばらばらになってしまった。
 連体形の「ある」にすればすべて解決する。 句頭の「はらっぱ」から「夕焼」まで一気につながり、句末の「かな」で、そこまでに撓められた圧力が一挙に放出され、夕焼けが大きく広がってくれる。           (恩田侑布子)
 
 
 合評では「一日の終わりの夕焼けのもつかなしみと”忘れもの”が重なる」「逆に、“忘れもの”と “夕焼”のさみしさが即き過ぎのような気もします」「ぽつんと残っているものの感じが書けている」などの感想がありました。    (猪狩みき)

                             
切字「かな」を使った芝不器男の名句が恩田から紹介されました。 
 
 この奥に暮るゝ峡ある柳かな
               芝不器男

 南風の蟻吹きこぼす畳かな
               芝不器男

 あなたなる夜雨の葛のあなたかな
               芝不器男

                                                        
 △ 小遣ひを残して帰る祭の夜
               島田 淳
 
 子供のころ、お祭の日は親から特別なお小遣いがもらえた。チャックのお財布を握りしめて、参道の夜店や神社の境内を見て歩く。でもこの子はあれもこれもとすぐ使ったりしない。「もったいない。あとは貯金しよう」と決めて、暗くなった夜道を帰っていく。誰にもある子ども時代のさりげない体験を掬い取ったよさ。いじらしく思慮深い子どもは、その後どんな人生を歩いていくのだろう。「祭かな」だと他人事めいてしまうが、「祭りの夜」としたことで実感がこもった。               (恩田侑布子)
 
 本日の最高点句でした。「よくある光景だが、その光景を句としてよくすくいあげている」「こども時代を思い出した。こどもの気持ちがよく出ている」「帰り道の暗さ、心細さが感じられました」という評でした。      (猪狩みき)
 
 
 
 △ 外れなき籤引き待つや氷水
              芹沢雄太郎

 かき氷をガリガリ手動で掻いてくれるおばさんのいる店。狭い店内で、子どもどうしぎゅうぎゅう坐って、氷いちごや、氷レモンを食べる。赤や黃に染まった口でふざけあう。今日はおまけのくじ付きだ。何か当たるよ。飴かもしれないけど、車のおもちゃかもしれない。楽しみ。氷水のチープさが横丁に住みなすよろこびと合っている。「外れなき」の句頭が心地よい。(恩田侑布子)

 合評でも、「こどものわくわく感」「こどもの喜び、うれしい感じ」「ハズレがないんだ!という安心感」がよくあらわされているという意見が多くでていました。   (猪狩みき)
 
 
 
今回の兼題の例句として恩田が板書したものは以下の句です。

 夕焼て指切りの指のみ残り
               川崎展宏

 夕焼の金をまつげにつけてゆく
              富沢赤黄男

 夕焼のほかは背負はず猿田彦
              恩田侑布子

 
 肉塊に沈没もする神輿あり
              阿波野青畝

 神田川祭の中をながれけり
             久保田万太郎

 祭笛吹くとき男佳かりける
              橋本多佳子

 老杉の根方灯ともす祭かな
              恩田侑布子

 
 
                          
 合評の後は、中嶋鬼谷、行方克巳、小川軽舟 各氏の最近の句集から抄出した36句(12句×3)を読みました。三人の句風の違いから、自分たちは俳句で何を書くのか、書きたいと思っているのかという話題になりました。
 連衆の点を多く集めたのは次の句でした。

 西行忌花と死の文字相似たり
               中嶋鬼谷

 都鳥水の火宅もありぬべし
               行方克巳

 雪降るや雪降る前のこと古し
               小川軽舟

           
[後記]
原石賞句の鑑賞で、恩田先生が切れ字「かな」について書いています。切れ字によって句のリズムや間、言葉の圧が変わっていくことがわかります。「切れ字の役割」というような学習をするだけでなく(この学習も足りないのですが)、実際に使って作句すること、良い句を多く読んで感覚を得ることが大切であることがわかりました。
 次回の兼題は「盆」「夜食」です。     (猪狩みき)
 
 
今回は、 特選、 入選ともなく、 原石賞2句、 △3句、ゝシルシ3句、・7句でした。
(句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)
 
なお、7月7日と7月24日の句会報は、特選、入選、原石賞がなくお休みしました。
                   

20190804 夕焼
                     photo by 侑布子

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