恩田侑布子講演レポート

(第46回現代俳句講座 10/29 ゆいの森あらかわ)

演題
『渾沌の恋人ラマン 北斎の波、芭蕉の興』より、名句そぞろ歩き

◇主催:現代俳句協会 共催:荒川区
◇日時:2022年10月29日(土)13:30~16:45
◇会場:ゆいの森あらかわ「ゆいの森ホール」
◇講師:「軸」代表・秋尾 敏、「樸」代表・恩田侑布子 

10月29日(土)、東京都荒川区のゆいの森あらかわ・ゆいの森ホールで現代俳句協会主催の第46回現代俳句講座が開かれ、樸俳句会代表・恩田侑布子が「『渾沌の恋人ラマン 北斎の波、芭蕉の興』より、名句そぞろ歩き」と題して講演しました。
当初は9月24日の予定が、静岡にも大きな被害をもたらした台風で中止となり、延期されていた講演です。一転して素晴らしい秋晴れとなったこの日は、首都圏を中心に俳句愛好者や恩田ファンらがたくさん聴講し、「俳句は目に見えないもの、耳に聞こえないものに思いをはせる」という恩田のメッセージを心に留める1日となりました。
「興」と「入れ子」という説で日本文学に新たな地平を切り開いた恩田の近著『渾沌の恋人』は、各紙誌の書評で高く評価されていますが、開会挨拶に立った現代俳句協会の中村和弘会長も「日本文学をグローバルな視点で体系的に分析・集約した本であり、感動した。文体が素晴らしく、小説を読むようで思わず引き込まれた」と賛辞を送りました。恩田は、全身を揺さぶられた高校時代の名句との邂逅などに触れながら、「歳はとっても俳句はやまぬ、やまぬはずだよ先がない」の都々逸で会場を笑わせ、なごやかな空気の中で講演は進みました。
近著の内容に沿ったこの日の講演は、芭蕉、蕪村に始まり北斎の浮世絵、中国の詩経、フレーザーの金枝篇、タイラーのアニミズム、ピカソのキュビスムに至るまで、古今東西縦横無尽の視点から文学としての俳句の奥深さを再発見する旅、とでも言うべきものでした。聴き手にとってはまさに豊潤なひとときで、本を読んだ人は著者と俳句の魅力を再確認でき、未読の人は手にとってすぐ読んでみたくなったことでしょう。
とりわけ、恩田が「雲の峯幾つくづれて月の山」をはじめとする芭蕉や蕪村らの名句や若い時から心酔してきた蒲原の詩「茉莉花まつりか」を、ゆっくりと歌うように詠みあげる場面では、上質の朗読劇を聴くような心地よさが会場を包みました。俳句を始めて3年になるという聴衆の女性からは「ああ、俳句ってやっぱり詩なんだな、と感動しました」という声が寄せられました。あっという間の1時間余りでした。
恩田に先立って、「軸」主宰の秋尾敏氏が「桜井梅室の系譜—知られざる十九世紀俳句史」をテーマに講演し、軽妙な語り口で楽しませました。

(樸編集長 小松浩)

講演1029_1

縦横無尽な視点から俳句の奥深さに迫る

 
講演1029_2

近著『渾沌の恋人』を手に

 
 

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