
開催間際でのご案内となってしまいましたが、
3月24日(金)19:00~
神保町 ブックカフェ二十世紀にて、
恩田侑布子最新句集『夢洗ひ』の出版記念トークショー&パーティーが開催されます。
和気あいあいとした堅苦しくない会ですので、
どうぞお気軽にご参加ください。 ==============
『夢洗ひ』出版記念トークショー&パーティー
日時:平成29年3月24日(金)
19:00~21:30
場所:神保町 ブックカフェ二十世紀
住所:東京都千代田区神田神保町2-5-4
開拓社ビル2階
お問い合わせ・ご予約:TEL: 03-5213-4853
メールアドレス:jimbo20seiki@gmail.com
ホームページ:
http://jimbo20seiki.wixsite.com/jimbocho20c
==============

桃の節句の句会。兼題は「紅梅、和布」です。
句会会場近くの駿府城公園に紅葉山庭園があります。ちょうどいま、飛び石伝いに梅林を散策して香りにうたれることができます。 高点句を紹介していきましょう。 朝日入る一膳飯屋わかめ汁
佐藤宣雄 恩田侑布子の入選句で、合評では、
「生活感のある句だ。夜勤を終えてくつろぐ肉体労働者の姿が浮かぶ」
「“朝日入る”という上五がいい。作者の感性に共感した」
「学生街の一膳飯屋を想像した。都会の一隅の光景」
「独り者だろう。“朝日入る”が効いている。小さな開放的な店の景がくっきりしている。月並みでない面白さがある」
などの感想、意見が出ました。
恩田は、
「みなさんの鑑賞がいい。シッカリ書けていて、曲解されることのない句でしょう。安サラリーマンや学生が気軽に寄る店。あたたかい元気なおじちゃんおばちゃんが迎えてくれる。上五が清々しく、飾り気がない。和布の兼題で、浜辺ではなく店をもってきて成功している。平易な言葉が使われており、いろいろな人の想像力を掻き立てることができた」
と講評しました。
紅梅や進む病状月毎に
樋口千鶴子 恩田侑布子の入選で、合評は
「深刻な病気の状況であろう。現代社会では、安楽死など死をめぐる議論がいろいろある。人工呼吸器を着けたらもとに戻れない。大変な気持ちを抑えて句にしている。それを紅梅と対比させている」
との共感の声がありました。
恩田は、
「“紅梅”が効いている。紅梅はうつくしいが、むごさや残酷さも併せ持つ。他の植物では中七以下を受け止めきれないだろう。あえて感情を押し殺して事実のみを述べた。そぎ落とされた表現が共感を呼ぶ」
と講評しました。
色褪せてなを紅梅の香を残し
樋口千鶴子
「近くの公園に白梅と紅梅が咲いている。紅梅は白梅に比べて少し重い。しつこさもある。この句は、まだまだどっこい生きているぞという心意気がベースにあると感じた」
との感想が聞かれました。
恩田は、
「千鶴子さんはいつもものをよく見ている。誠実な眼差しが感じられる。白梅の潔い散り際に比べて、紅梅は白っぽく色が抜けたり、逆にくろずんだりして縮れて落ちる。ここでは香りに注目したのが良い。昔の人は香りの高い植物を愛好し、自分の生きる鑑とした。この句は散文のようだが、内容が良く、下五に実がある。紅梅のありように自分を重ねた。一生を見つめて一瞬を詠むのが俳句」
と講評しました。
紅梅の髪にかざして自撮りして
久保田利昭 「~して~して、という軽快感がよい」
「髪に花をかざす習慣は昔からあったが、“自撮り”で新しさが出た」
などの感想。
恩田は、
「軽いタッチの句。紅梅とこの女性の自己愛(ナルシシズム)がつり合っている。白梅ではこうはいかない。季語が効いている」
と講評しました。
風に老い飛沫に老いぬ和布採
伊藤重之 「“老い”のリフレインが効いている。和布採りの一情景と一老人の生き方が重なる」
との感想。
恩田は、
「対句をいいと思うか、鼻につくかで評価が分かれる。ちょっとカッコつけすぎているところのある句だ」
と講評しました。
[後記]
今回の句会で恩田が強調したのは「よく見る」ということでした。
よく見る(視る)とは、ただ網膜という器官に像を写すのではなく、意識と五感を総動員しなければいけないことを痛感。
次回の兼題は「古草」「春障子」です。(山本正幸) 特選 紅梅を仰げるあぎと娶りけり
山本正幸
濃艶である。紅梅を仰ぐ女性の透けるような白い肌の顎から喉もと、首筋がみえてくる。こんな美しい女を我妻にしたのだという男の満足感と、ある種の征服感まで感じられる。白い喉のなめらかさに負けず、紅梅はいっそう黒々と濃く中天にこずむ。性愛の烈しさが匂う。「あぎと」に焦点を絞って、紅梅の紅と対比させた技法が巧みである。講座では、「娶りけり」はジェンダーギャップのことばで不快、という意見も出た。たしかにそう。しかしそれがわたしたちの蓄えてきた「言語阿頼耶識」であることも事実。時に、性愛の場は平等をよろこばない。さくらよりも肉感的なエロスを匂わせる紅梅がふさわしい由縁。
(選句・鑑賞 恩田侑布子)

2月2回目の句会が行われました。
今回の兼題は「寒晴」「春を待つ」。
静岡から望む富士山はすでにあたたかさを帯びているようで、春の訪れを感じました。 まずは今回の高得点句から。 春を待つテトラポットの隙間かな
佐藤宣雄 恩田侑布子入選句。
「テトラポットとは危険なところに積まれていると聞いていたので、怖いイメージを持っていた。その隙間に春を感じた作者の着眼点が面白い」
「恋の予感を感じる。テトラポットの上に若い人が佇んでいるイメージ」
というような、砂浜などではなく“テトラポットの隙間”に着眼点を置いたところに面白さを感じた方が多かったようです。
恩田侑布子からは
「“テトラポット”という語呂は愛らしい。ただ、情景を思い浮かべると寒々しい。そこに意外性はある。が、下五の“隙間かな”が宙づりになってしまっている。無機物のなかにどんな有機物が隠れているのかがわかれば、さらに面白くなる」と講評しました。
初富士や絹麻木綿翻り
藤田まゆみ 恩田侑布子入選句。
「正月の空の色が見えてくる」
「織物工場でも作者は見たのかな?富士山の雪の白さと、その前で翻る反物の色彩が鮮やかに見えるよう」という意見が出ました。
恩田侑布子は
「富士山の雪を絹・麻・木綿に見立てたのだと思った。天候によって同じ雪でも姿は変わる。その姿を布の種類で表現したことが良いと思った」と講評しました。
寒晴や婦唱夫随の土手歩き
西垣 譲 恩田侑布子入選句。
恩田侑布子は
「本来は“夫唱婦随”。夫と妻の位置が逆ですね。この季語が“秋晴”だったら甘くなりすぎてしまうが、“寒晴”としたところが良い。また、“土手歩き”というところも年配のご夫妻のぶっきらぼうさが出ていてこれまた面白い。」と講評しました。 寒晴れやダブルバーガーがぶり食い
萩倉 誠 恩田侑布子入選句。
「母と娘がハンバーガーを食べている風景が思い浮かんだ。幸せな親子のちょっと特別なひと時を感じた」
「中七から下五への濁音の連打がとっても効いている」
という感想が出ました。
恩田侑布子は
「一見無内容で行儀が悪い。しかも現代仮名遣いでドライに書かれている。読み下すと、なんだか空しいような、嗚咽が潜んでいるような感じだ。ポールオースターの小説のような虚無の底知れなさをちょっと思った。一人でがぶり食いする視線の先にある冬の青空の虚無感。濁音が続き、ストリートミュージシャンの音楽のような個性的な句」と講評しました。
今回の句会では難読漢字の句が多く、非常に興味深かったです。例えば「蕪穢(ぶあい)」や「蛾眉(がび)」「漫ろ(そぞろ)」などです。普段あまり目にしない言葉を知るのはとても勉強になります。が、難読漢字の力に引っ張られて句の世界観が狭くなってしまう、という意見もありました。
気に入った言葉を使う際には、その言葉の力を最大限生かせる寝床を調えて句作したいと思いました。
次回の兼題は「春の闇」「ものの芽」です。兼題の季語も春へと移りますよ!(山田とも恵)

樸俳句会代表の恩田侑布子第四句集『夢洗ひ』が、 平成28年度(第67回)芸術選奨(文学部門)文部科学大臣賞 を受賞しました!
樸俳句会一同お祝い申し上げます。 ≪文化庁HP≫
http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/2017030801.html ≪平成28年度(第67回)芸術選奨受賞者一覧≫※PDFファイルが開きます。
http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/pdf/2017030801_besshi.pdf 【恩田侑布子受賞コメント】 今回の芸術選奨(文学部門)文部科学大臣賞は、野ネズミには身に余る賞です。
「もっとがんばれ!」と叱咤激励していただいたものと感謝しております。
いままで出会ったすべてのひとにも自然にも、頭を深く下げてお礼をいいたいです。
死者にも、逢えなくなったひとにも。 十代の苦しい日々、自然の美しさ、文学の言葉がこころを支え潤してくれました。
眠る時、白秋や、光太郎や、謡曲の詞章に慰められて寝入りました。
どんな睡眠薬よりも、日本文学の美しさが安らぎをあたえてくれました。 「夢洗ひ」の一句を、どこかでふと口遊んでくださる方がいらしたら、それが俳人として最高の勲章です。 心からの感謝をこめて。
2017年3月 恩田侑布子 『夢洗ひ』芸術選奨文部科学大臣賞受賞への祝詞 今回の芸術選奨文部科学大臣賞受賞は樸俳句会として喜びに堪えません。会員にとりましても今後の句作の大きな励みになることです。
恩田侑布子は「師系」を持たず(文部科学省の授賞理由の冒頭に記されています)、また、いわゆる「主宰」ではありません。すなわち、樸俳句会は「結社」ではなく、句会は自由で闊達な談論が真骨頂です。この風通しの良い「双方向性」は得難いものと思います。筆者は、連衆の口角泡を飛ばす議論とともに、投句についての恩田の講評と鑑賞の深さ、広さに接することを楽しみに参加しております。「鑑賞」を超えて、日本文化や思想にまで踏み込んでいくことにわくわくします。
『夢洗ひ』所収の句からは、恩田の豊かな感性と深い思索の裏付けを感じ取ることができます。恩田は、「俳句は韻文」「理屈から離れること」「体性感覚を大事に」等をつねに強調します。そのような恩田の熱のこもった句会でのレクチャーが本ホームページを通して読者の皆様に少しでも伝わることを願っております。 樸俳句会編集委員 山本正幸
代表・恩田侑布子。ZOOM会議にて原則第1・第3日曜の13:30-16:30に開催。