平成30年3月4日 樸句会報【第44号】
彌生三月第1回。少し窓を開け、春風を呼び込んでの句会です。
特選2句、入選2句、△3句、シルシ8句という実りゆたかな会でした。
兼題は「踏青」と「蒲公英」です。
特選句と入選句を紹介します。
(◎ 特選 〇 入選 【原】原石 △ 入選とシルシの中間
ゝシルシ ・ シルシと無印の中間)
◎合格や不合格あり春一番
久保田利昭
◎「ヤバイ」ほろ酔いの 掌が触れ春ぞめく
萩倉 誠
(下記、恩田侑布子の特選句鑑賞へ)
〇蒲公英を跨ぎ花一匁かな
芹沢雄太郎
合評では、
「かわいらしい句。思い出かな?こういう句は大好きです」
「かわいい。“花一匁”にノスタルジアが感じられる」
「うまくまとまってはいる。“跨ぎ”がもっと能動的であれば採りましたが」
「あちこちに咲いているたんぽぽは“跨ぐ”には小さすぎませんか?子どもの歩幅と一致しないような気がして・・」
などの感想が述べられました。
恩田侑布子は、
「一読して、たんぽぽと花いちもんめは即きすぎかとも思った。でも花いちもんめの歌を思い出すと、“あの子がほしいあの子じゃわからん”と、浪のように手をつないで歌いながら、鮮やかな黄の蒲公英をひょいとまたぎ越す子どもの無邪気さが感じられた。子ども時代の余燼がまだ身のうちに残っていなければつくれない俳句。若草と蒲公英。その上にゆれる赤いスカートや半ズボンの戯れは春日の幸福感そのもの」
と講評しました。
〇犬矢来こえて行くべし猫の恋
林 彰
合評では、
「“犬矢来”ってなんですか」
「市内では見かけないですね。よく言葉を知っている作者ですね」
との質問や感想。
恩田侑布子は、
「“矢来”は遺らいであり、追い払う囲い。竹や丸たんぼを荒く縦横に組んでつくるもので“駒寄せ”と同義。犬のションベンよけ、埃よけともされ、最近は和風建築の装飾化している。この“犬矢来”という死語になりかけた措辞を活かした手柄。しかも犬なんかに負けるんじゃないぜ、猫の恋よ、の思いも入ったところに俳諧がある」
と講評しました。
投句の講評の中で、今回の兼題について例句の紹介と鑑賞が恩田侑布子からありました。
来し方に悔いなき青を踏みにけり
安住 敦
たんぽぽや長江濁るとこしなへ
山口青邨
蒲公英のかたさや海の日も一輪
中村草田男
[後記]
本日は「静岡マラソン」の日。走り終えたランナーたちとすれ違いましたが、みな爽やかな感じ。達成感・充実感があるのでしょう。句会のあとの連衆も同じような表情をしているのかもしれません。
次回兼題は「菜飯」と「“風”を入れた一句」です。
(山本正幸)
合格や不合格あり春一番 久保田利昭
大方のひとにとって人生の始めの頃の喜び哀しみは受験にまつわることが多い。同じクラスでいつも軽口を叩きあっては笑いこけていた友人が、高校受験や大学受験で一朝にして合格者と不合格者の烙印を押されてしまう。それを春一番の吹き荒れる様に重ねた。この春一番はまさにこれから二番三番とかぎりなく展開する嵐の道のりを暗示する。それが合格やの「や」であり不合格「あり」である。が、いずれにせよまばゆさを増す春のきらめきのなかのこと。泣いても笑っても船出してゆく。さあこれからが本番だよと作者は懐深くエールを送る。
「ヤバイ」ほろ酔いの 掌が触れ春ぞめく
萩倉 誠
独白をうまく取り入れた冒険句。句跨りだが十七音に収めた。ほろ酔いの掌は思わずどこに触れたのか。手と手かしら?もしかしたら胸元にタッチ?「ヤバイ」。よこしまな関係になりそう。一瞬のたじろぎ、期待、春情。交錯する感情が生き生きと伝わってきて面白い。なんといっても座五の「春ぞめく」が出色。①群がり浮かれて騒ぐ。②遊郭をひやかして浮かれ歩く。の辞書にある語義に身体感覚が吹き込まれ、それこそザワザワ身内からうごめくよう。
(選句・鑑賞 恩田侑布子)