平成30年7月27日 樸句会報【第53号】
七月第2回の句会です。記録的な酷暑(埼玉熊谷で41.1℃)のためか今回はやや低調。
特選・入選ともになし。原石賞2句、△1句、シルシ4句、・5句という結果でした。
兼題は「山開き」と「夏越」です。
原石賞と△の句からそれぞれ1句紹介します。
(◎ 特選 〇 入選 【原】原石 △ 入選とシルシの中間
ゝシルシ ・ シルシと無印の中間)
【原】人類のつけ噴き出して炎暑かな
樋口千鶴子
合評では、
「これはすごい句と思った。こういうことを俳句にすることは大切ではないでしょうか。“つけ噴き出して”に温暖化の進んでいることへの人間の反省が込められている」
「CO2の問題。理屈を感じました」
「“つけ”としたことで川柳ぽくなったのでは?」
「“炎暑”は人間の罪なのですか?」
「こういった重目のものは好みではありません」
などさまざまな感想、意見が述べられました。
恩田侑布子は、
「わたしたち現代社会が直面している題材を俳句に詠うことは大切なこと。現代社会の困難・矛盾に対する姿勢がないと地獄の裏づけのない「屋上庭園の花鳥諷詠」になってしまいます。きれいな句にまとめようとしていないところが良い。ただし、“つけ”にまだ理屈がのこっている。損得勘定の次元を引きずっているのが惜しいです」
と講評し、次のように添削しました。
人類の業噴き出せる炎暑かな
「人間の罪業の深さへの内省を誘います。文学的になり、心の深さが出ませんか」
と恩田は問いかけました。
△形代を納めてバーの小くらがり
伊藤重之
本日の最高点句でした。
「ハードボイルド小説風の孤独感があり、いい雰囲気」
「“形代”と“バー”の落差が面白い」
など連衆の感想がありました。
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投句の合評と講評の後は、金曜日の句会の定番となった「野ざらし紀行」講義の四回目です。以下、筆者のまとめと感想です。
伊勢の外宮に詣でると峯の松風が芭蕉の身にしみます。
みそか月なし千とせの杉を抱あらし
この句は「峯の松風」をうたった西行の歌を踏まえている。また、この句のあらしは、『荘子』の斉物論篇で名高い地籟としての風をふくんでいるという説があるとのことでした。
本日の恩田の講義から、芭蕉における荘子や西行の影響の大きさが分かりました。また、神仏習合の思想(本地垂迹説が人々の心にある)についての説明も恩田からあり、日本文化に対する芭蕉の幅広く深い教養に感じ入った連衆でした。
[後記]
いつもより少人数での本日の句会は、外の猛暑にも負けない?熱い論議。特に原石賞の「炎暑」の句については様々な意見が出されました。人類の将来に関する悲観論、CO2削減に応じない大国のエゴ、逆に地球は氷河期に向っているとの学者の意見等々‥。
社会問題を題材にした俳句についての議論は、発言者の思想や社会認識の一端に触れることができて、筆者としては興味深いものがあります。
次回兼題は「鬼灯」と「海(を使った夏の句)」です。(山本正幸)