9月9日 句会報告と特選句

平成30年9月9日 樸句会報【第56号】

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                     photo by 侑布子

九月第1回、重陽の句会です。
特選1句、入選1句、△1句、シルシ4句、・11句という結果でした。
兼題は「当季雑詠(秋)」です。
特選句と入選句を紹介します。

(◎ 特選 〇 入選 【原】原石 △ 入選とシルシの中間
ゝシルシ ・ シルシと無印の中間)

                        
◎馬鈴薯をふかしゲバラの日記読む
            芹沢雄太郎

(下記、恩田侑布子特選句鑑賞へ)

                             
〇酔ふことが恥ずかしいのさ星月夜
             萩倉 誠

合評では、
「作者は本当は恥ずかしいとは思っていないのでは?“さ”の軽さがいい」
「一人で飲んでいる。秋冷のなかできっと美味しいのでしょう」
「好きな女性のいる宴会で、変なところを見せたくなくて、酔い覚ましに外へ出て星空に言い訳をしているような感じ」
「人生を軽く生きている。斜に構えて、適当に楽しんでいるみたい」
「面白い発想。どこで飲んでるのか。小料理屋かな?外は満天の星」
「昔ワタシは無茶苦茶呑みましたよ。恥ずかしいくらい」
「バルコニーに一人居て、酔ってはいないのでは?」
など、自分に引き付けた様々な感想が述べられました。
恩田侑布子は、
「初々しい息遣いに賭けた句じゃないですか。“うぶ”な感じが良い。でも一人でいるのか?異性がいるのか?・・・どういう場面かよく分からない。ほわーんとしたデリケートな良さ。星月夜の景色が広がり、澄んだ秋の気配があります」
と講評しました。

=====
入選には至りませんでしたが、「牝鹿」を題材に詠んだ投句がありました。
「鹿」を詠んだ有名な句として、恩田から次の句が紹介されました。
 雄鹿の前吾もあらあらしき息す
            橋本多佳子

また、俳句の基礎教養として、明治生まれの大物女流俳人四人の名が挙げられました。
 橋本多佳子
 中村汀女
 星野立子
 三橋鷹女
名前の頭文字をとって「四T」と呼ばれ、多佳子も汀女も杉田久女がいなければ世に出なかったとの説明がありました。
この中で、橋本多佳子が(どういうわけか)特に男性に人気があるとのことでした。

[後記]
今回、連衆の最高点を集めた句が恩田の特選になり、いつにも増して盛り上がりを見せた樸俳句会でした。
「当季雑詠」といっても秋の季語は数多あります。筆者が常用している『合本 俳句歳時記 第四版』(角川学芸出版)には秋の季語として511語収載されています(植物の季語が一番多く190語)。その中で複数の連衆に選ばれたのが、「秋の蝶」「星月夜」「秋の風」「鳥渡る」「虫の声」でした。親しみやすい季語、作りやすい季語があるようです。
次回兼題は、「野分」と「草の花」です。   (山本正幸)
            

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                              photo by 侑布子

特選

  馬鈴薯をふかしゲバラの日記読む
      
                芹沢雄太郎

 
 とっさに浮かんだのはゲバラの髭面の写真ではなかった。一枚の薄暗い絵。ゴッホの「ジャガイモを食べる人 々」だった。貧しい農民たちがランプの光の下で背なかを丸めてふかし藷を囲んでいる絵。肌寒い土間で、藷を差し出す人間のぬくもりのようなものが胸に来た。ジャガイモはゲバラの生きて死んだ南米が原産地で、ふかすというもっともシンプルな食べ方は革命家の日常そのものを思わせる。作者は日記を読みながら、生き方にまで深く共鳴している。まるで、薄暗い土間で一緒に熱 々の馬鈴薯を頬張るように。
 ゲバラについては、キューバ革命の成功者というくらいしか何も知らなかった。顔のTシャツも映画もみたことがない。句会で樸の仲間が、目をきらきらさせて学生時代の思い出と一体になったゲバラを語り出した。半世紀前、若者の間で神のような英雄であったことに驚いていた。作者も団塊世代かと思いきや、三四歳の雄太郎さんであった。いわば「見ぬ世の人の」日記に、全身が運ばれる旅をしているのだ。秋気の迫る夜更け。熱い馬鈴薯のくぼみはエア ・ポケットなのか。技法上は引用句の範疇に入るが、認識 ・感情 ・体感が渾然と珠のようになった熱い句である。
 死を予感したゲバラが子どもに残した手紙の一節もいい。
「世界のどこかで誰かが被っている不正を、心の底から深く悲しむことのできる人間になりなさい。それこそが革命家としての、一番美しい資質なのだから」  
       (選句 ・ 鑑賞 恩田侑布子)

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