9月25日 句会報告

令和元年9月25日 樸句会報【第77号】

9月の最終週だというのに、「暑い」という声があちこちから聞こえた日の句会でした。
兼題は「秋刀魚」と「“音楽”に関する句」。

入選句と原石賞2句、△1句を紹介します。

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                     photo by 侑布子

〇入選
 免許証返納せむか秋刀魚焼く
               山本正幸

運転も、秋刀魚を焼いて食べるのも作者の何十年の日常生活であった。この秋、秋刀魚を焼きながらふと思う。高齢者が幼子の命を奪う痛ましい事故がよく報じられる。おれも免許証、そろそろ返納するほうがいいのかな。免許証も秋刀魚もふだんの暮らしの象徴である。その一方を手放すことになる未知の日々が近づく。この戸惑いは古希を迎えた作者の健やかな良心を証明していよう。秋刀魚を焼く煙が秋思もろとも燻して腸までほろ苦く美味しそう。(恩田侑布子)

「“免許証の返納”という社会的なことと“秋刀魚焼く”という生活のこととの取り合わせが非常にうまい」「秋刀魚の本質をとらえている」「時事的すぎませんか? 川柳のよう・・」などの評が聞かれました。
作者は、「この句を家人に見せたら、アナタは焼いたことないでしょ、と言われたので、‟秋刀魚食ふ‟にしてみた。でも句としては“焼く”のほうが良いと思い、もとに戻しました」と語りました。(猪狩みき)
 
 
 
原石賞の二句について、恩田が次のように評し、添削しました。

【原】 太陽の塔の背中や穴惑
             芹沢雄太郎

 改1 太陽の塔をそびらに穴惑
 改2 太陽の塔のしりへや穴惑

ユニークな俳句。ただ、原句は「背中や」がもんだいです。太陽の塔の背中に蛇が張り付いているように読めてしまう。穴惑は冬眠のため地中に潜る寸前ですから距離感がほしいところ。いろいろな変え方がある。[改1]はひとまず距離感が出る。[改2]にすると、蛇は、岡本太郎の造形した太陽の顔をみることなく冬眠に入る。穴惑が不思議な実存感をもって太陽の塔と拮抗を始めよう。 (恩田侑布子)
 
 
 
【原】 無職なり瓢にサティ聴かせをり
               山本正幸

 改1 無職なり瓢にサティ聞かせつつ
 改2 職引いて瓢にサティ聞かせをり

原句は「なり」「をり」が障る。上五をそのまま残すならば[改1]のように下五は「聞かせつつ」と柔らかに終わりたい。下五を残すならば[改2]のように上五は「職引いて」とし、サティの曲の軽やかさを生かしたいところ。
(恩田侑布子)

今回の最高点句でした。「“無職”“瓢”“サティ”の3つのつながりがおもしろい」「瓢を見ながらひとりの時間を楽しんでいる感じが良く出ている」「上五の大胆さがいいのか、それとも乱暴なのか?」「定年退職ではなく“職なし”と読んだ。若い人なのかも」という連衆からの評でした。
(猪狩みき)

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                     photo by 侑布子

 
 △ いわし雲ブリキの笛を旅の友
             見原万智子

作者の弁を聞くまでアイルランドの笛とはわからなかったが、安価で親しみ深い銀色の笛が愛らしく感じられた。一人旅で帆布の旅鞄などにしのばせたそれを、さりげない山鼻や岬の尖などで吹く健康な作者像が彷彿とする。爽やかなロマンのある俳句。 (恩田侑布子)

合評では、「どんな旅? ひとり旅? いろいろ想像させる。情感があります」「細い雲と旅の長さがオーバーラップする」などの感想がきかれました。(猪狩みき)
 
 
 
今回の題の名句ということで恩田からいくつかの句の紹介がありました。連衆に人気だったのは

 暗室の男のために秋刀魚焼く
               黒田杏子

 江戸の空東京の空秋刀魚買ふ
               攝津幸彦

 火だるまの秋刀魚を妻が食はせけり
              秋元不死男

 
などでした。

[後記]
今回の題は、私には難しく感じられる題でした。何が「難しさ」をもたらすのかはっきりしないのですが、自分にとって作りやすい題とそうではない題があることがわかり、そのことを興味深く思っています。
‟内容と表現が合っているか”のレベルまで考えられるようになりたいものだと思います。まだまだ道は遠そうですが。

次回兼題は、「水澄む」と「葡萄」です。
(猪狩みき)

今回の結果は ◯1句 【原】2句 △2句  ゝ9句。
(句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)

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