令和元年11月10日 樸句会報【第80号】
11月初回の句会です。この時間、東京では碧天のもと、即位を祝うパレードが催されていました。
兼題は「立冬」と「ラグビー」です。
入選句と原石賞2句を紹介します。
○入選
補聴器を厭ふ母なり冬日向
山本正幸
母は長寿を賜った。代わりに耳は遠くなり、家族が会話に困るほど。「お母さん補聴器つけようよ」他のことには従順なのに、なぜか補聴器には耳を貸さない。いままでずっと自然体で生きて来たように、これからも齢相応でいいと思っているよう。日だまりにくつろぐ母を見やる作者の清雅なまなざし。慈しみの感情には、誇り高き母への尊敬の念すら混じっている。冬日向の浄福である。(恩田侑布子)
合評では
「補聴器はどうしてかみんな嫌がるようです。このお母さんもそうなんでしょう」
「“なり”が気になった。ちょっと強い感じ。“なり”を使わずに詠ったほうがいいのでは?」
などの感想、意見が出されました。(山本正幸)
【原】早朝の短き電話冬に入る
天野智美
早朝に鳴る電話は「不吉な電話」か「よくない報せ」にちがいないと、句座でこの句を採られた方は電話内容をマイナスイメージに受け取りました。そのような思わせぶりな意味内容にしてしまうと句柄が小さくなりがちです。単純に、朝早く電話があり、すぐ切れ、寒さにぶるっと来た瞬間の感覚の良さを活かしたいと思います。そこで、
【改】あつけなき朝の電話や冬に入る
こうすると情緒がもつれません。スッキリ乾いた初冬の朝が端的に現れます。(恩田侑布子)
連衆から
「早朝の電話とは、あまりいい知らせではないことを想像させます。私も両親が田舎にいて、朝方に電話が鳴るとドキッとします」
「“短き”とは会話が短いだけでなく、呼出し音の短さかもしれない。いい電話ではなく、出ても用件だけ。いろいろ思いをめぐらせる句ですね」
などの感想がありました。(山本正幸)
【原】寒晴れや荒ぶるトライ大地待つ
萩倉 誠
兼題の「ラグビー」は、テレビ観戦が多いだけにゲームの一コマに終始しがちでした。この句は真っ青な冬空をいきなり打ち出し、中七の「荒ぶるトライ」へとラグビーの王道の展開を見せる力があります。ただし「大地待つ」は窮屈なので、「地が待てり」としてみましょう。
【改】寒晴や荒ぶるトライ地が待てり
下五のイ音の上下にリズムが引き締まり、中七までのア音が一層華やかになります。さらに全体五音のラリルレロ行までが、歯切れ良い音楽を奏で出します。(恩田侑布子)
今回の兼題の例句が恩田によって板書され、それぞれ短評がありました。
冬来たる平八郎の鯉の図に
久保田万太郎
冬となる風音夜の子にきかす
古沢太穂
ラグビーボールぶるぶる青空をまはる
正木ゆう子
ラガーらのそのかち歌のみぢかけれ
横山白虹
ラグビーの音なき画面雨しぶく
行方克巳
[後記]
ラグビーのワールドカップ日本大会が盛り上がりを見せ、その余韻が列島に残っているようです。今回の兼題でもあり、句会の議論にも熱が入ります。「楕円球を高く蹴り上げる」内容の投句に対して、「これは完璧に成功したキックですね」との評がありました。ラグビーの見巧者にはそこまでわかるのだと感じ入った筆者です。これも十七音に凝縮された俳句の力かもしれません。
次回兼題は、「冬の蝶・凍蝶」と「マスク」です。(山本正幸)
今回は、入選1句、原石賞2句、△4句、✓シルシ6句、・3句でした。
(句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)