令和2年8月2日 樸句会報【第95号】
Withコロナの時代、リアル句会が復活して4回目です。県外の連衆は来館制限されているため少人数でしたが熱い議論となりました。
兼題は、「髪洗ふ」と「裸」です。
◎特選1句、○入選2句、原石賞1句を紹介します。
photo by 侑布子
◎ 特選
ラ・クンパルシータ洗ひ髪ごとさらはれて
田村千春
特選句についての恩田の鑑賞はあらき歳時記に掲載しています
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○入選
立ち漕ぎの踵炎昼踏み抜きぬ
山田とも恵
自転車で出発。思わず立ち漕ぎをして急ぎます。心が逸り、炎昼も汗も眼中にはありません。私はそこに行く。まっしぐらに行くのです。もう、心は向こうにあるから。そのとき、です。炎天を踏み抜いた、底が抜けた!と思ったのです。映像を即物的に「立ち漕ぎの踵」に絞ったことが奏効しました。座五の「踏み抜きぬ」で、踵がリアルに異界に突き抜けた感じが出ています。
(恩田侑布子)
【合評】
- 暑さの激しさと立ち漕ぎで踏み抜くという動きの強さとがマッチしている。
○入選
裸子の羽あるやうに逃げまはる
前島裕子
ひとは赤ん坊から幼児期に移行するほんのひととき、肩甲骨のあたりに透明な羽をつけます。まだいちども強い日光にさらされていないやわらかな肌。ふくふくした手足のくびれ。その子をバスタオルを拡げて捕獲しようとする母の、なんというしあわせな一瞬。
(恩田侑布子)
【合評】
- 逃げまわっている子どもの動きが見えるよう。裸であることで楽しさが増すような。
- 子どもの貝殻骨はよく動く。その光景がよく見えます。
- 「羽あるやうに」がいいですね。幼児の肩甲骨は天使の羽に擬せられますから。
【原】裸子や目に羊水の波頭
見原万智子
おかあさんの胎内の羊水にただよう胎児を裸子とみた着眼にインパクトがあります。ただ「波頭」はどうでしょうか。強すぎませんか。推敲はいろいろ考えられますが、たとえば一例として次のようにすると、羊水と母なる海とがダブルイメージとなり、内容にふくらみがうまれそうです。
【改】はだか嬰よ目に羊水のしじら波
(恩田侑布子)
【合評】
- 羊水を海に喩えたのですね。精神分析の世界のようにも思えます。
- 「生まれたての赤ちゃんの目を覗き込んだら、羊水の波頭が見えた」という風に読みました。なんだか本当の波の音も近くで聞こえているような気もします。とても詩的な光景だと思います。羊水の波頭っていいなぁ…。
披講・合評に入る前に、恩田から本日の兼題の例句が板書されました。
裸
伸びる肉ちぢまる肉や稼ぐ裸
中村草田男
はだかではだかの子にたたかれてゐる
山頭火
海の闇はねかへしゐる裸かな
大木あまり
髪洗ふ
洗ひ髪身におぼえなき光ばかり
八田木枯
洗い髪裏の松山濃くなりぬ
鳴戸奈菜
髪洗ふいま宙返りする途中
恩田侑布子
風切羽放つごとくに髪洗ふ
恩田侑布子
サブテキストとして、恩田がSBS学苑で指導している「楽しい俳句」の会員の句(2020年5月1日静岡新聞掲載)を読みました。
連衆の共感を集めたのは以下の句でした。
春の雨知らぬ男の傘がある
美州萌春
歌がるた公達の恋宙を跳び
都築しづ子
春の雨窓に小さき鼻の跡
活洲みな子
鉄瓶の湯気やはらかし女正月
石原あゆみ
[後記]
やっぱりリアル句会に勝るものはないようです。合評における言葉のやりとり(ときに応酬)が次々に化学反応を起こし新しい世界が現出していく様は、まさに「句座を囲んでいる」ことを実感させるものでした。特に今回は身体に即した兼題でしたので、連衆の生活の一端が垣間見え、大いに盛り上がったのです。恩田も全体の講評の中で「選評にはおのずと異性観や恋愛観があらわれ、愉快な句会でした」と述べています。そうか、おのれの異性観・恋愛観を振り返る契機としての句会でもあったのだな…いやまだこれから異性観などを変えることができるのかもしれないなぁ…などと独りごちた筆者でした。 (山本正幸)
次回の兼題は「天の川」「門火(迎火、送火)」です。
今回は、◎特選1句、○入選2句、原石賞1句、△2句、ゝシルシ3句、・13句でした。
(句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)
8月26日句会 入選句 兼題「天の川」・「門火(迎火、送火)」
○入選
天の川みなもと辿る野営かな
金森三夢
それきりのをんな輪切りの檸檬かな
古田 秀
photo by 侑布子