20201126 SBS学苑パルシェ「楽しい俳句」講座
特選句
小春日やけんけんぱッの◯の中
石原あゆみ
一年のうちで小春日和ほど空も日光も清雅な日はありません。冬の寒さが間近なのに春のようにほのぼのと暖かで、ひすいの空はどこまでも青く澄んでいます。音韻的にも華やかなA音五つに、回転するR音のハル、マルが愛らしい軽快なリズムをかもし出し、フリルのスカートの女の子が足を開いたり閉じたりして進む様が思い浮かびます。それは、けんけんぱの遊びさながらの小さな音楽です。作者は自身の少女時代を重ね、永遠だったような束の間だったような冬麗の一日を惜しみます。憂いを知らない一人の幼女が、いま◯のなかに片足立ちしています。漢字の丸や円ではなく、地面に描いた◯をそのまま句中に置いたことで、幾つもの◯がつながる空地が目の前に浮かび、そこに幻の少女が立ち現れます。一読忘れがたい愛誦性もあり、小春の屋外にはずむ可憐な少女の四肢は匂うばかり。小春日の季語は落ち着いた渋めの句が多いものです。その点でも特筆される秀句です。
(選 ・鑑賞 恩田侑布子)
(選 ・鑑賞 恩田侑布子)