2021年3月7日 樸句会報【第102号】
2021年弥生の句会は、コロナの影響などにより今回もリモート句会となりました。
兼題は「目刺」「踏青」「春の月」です。
特選1句、入選2句を紹介します。
◎ 特選
目刺焼くうからやからを遠ざかり
見原万智子
特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記(目刺)をご覧ください。
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○入選
可惜夜の添寝をつつむ春の雨
萩倉 誠
【恩田侑布子評】
「添寝」からすぐ赤ん坊の添い寝を思いましたが、そうではないようです。
男女、しかも夫婦ではない恋人同士のようです。それでなければ「可惜夜の」措辞が生きてきません。久々に逢えた愛しい人のとなりで、ただしめやかな春の雨音につつまれてそのひとの眠りを見守っています。春雨とはちがう「春の雨」の微妙な情調が一句全体をひたしています。
【合評】
- しっとり感。
- 詩情あふれる句。最初はなぜ「可惜夜や」としなかったのかと思いましたが、ここに切れを入れると上五の存在感が強くなりすぎ、季語の影が薄くなってしまうのかも知れません。そう考えると、掲句の方がより良い形だと思えました。
○入選
春の月財布も軽き家路かな
島田 淳
【恩田侑布子評】
省略の効いた句です。さらに、ふつうは失敗しやすい「も」がこの句ではめざましく活きています。「財布も」の「も」に感心しきりです。「財布の」とした場合と比較してみると違いは歴然です。「も」の一字によって作者の足取りも心も軽いことが余白にうかがえます。ほろ酔いの一杯機嫌で家路につく軽やかな満足感。何より素晴らしいのは、おおらかな春の月にみあう恬淡な心境が垣間みえることです。
【合評】
- 分かりやすい句だが、思わず頬が緩む。長い冬が去り、やっと訪れた春の宵は何となく心が浮き立ち、思わず衝動買いに走る楽しさ。気が付けば散財により軽くなってしまった財布にも溢れる満足感。
学びの庭
恩田侑布子
リズムは俳句のいのちです。なぜなら俳句は韻文だからです。事務文や日記や小説や評論などの散文は、意味の伝達をなによりも第一に考えます。いっぽう、韻文では、内容と調べは不即不離です。ことに、現代短歌が昭和後期から趨勢として口語散文化へ傾斜してゆき、いまや俳句が日本の韻文の最後の砦ともいうべき状況になりつつあります。わたしたち俳人は韻文としての俳句の固有性と可能性にこれからも果敢に挑戦しつづけて参りましょう。
『去来抄』の名言のひとつに「句においては身上を出づべからず」があります。頭だけの句、想像だけの句、教養にものをいわせた句ほど弱いものはありません。自然、社会、人間という現場のただなかで全人的な俳句を志していきたいものです。
[後記]
個人的な感覚ですが、どこかへ出かけて吟行したとき、その場で句を詠むよりも数日経過してそのときのことを思い出しながらの方が、俳句としての言葉が出てくるような気がします。目の前のものを俳句という型に当てはめてどう詠むかという技術論・形式論ではなく、自分の心に何が引っかかり、本当は何を詠みたいのか、いわば感動の芯のようなものを見つめ返す契機になるからかもしれません。恩田代表の「学びの庭」にもあるように、「自然、社会、人間という現場のただなか」に立ち、本当に詠みたいものは何なのかを問うことから、感動やそれを伝える言葉が生じるのかもしれません。(古田秀)
今回は、◎特選1句、〇入選2句、△8句、ゝシルシ15句、・6句という結果でした
(句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)