2022年10月9日 樸句会特選句
道聞けば暗きを指され烏瓜
古田秀
谷間の集落だろうか。目当ての場所を道端の人に聞くと、「この奥だよ」と指差して教えてくれた。みれば山肌の迫る切り通し。烏瓜がゆうらり一つ垂れている。早くも山すそには夕闇が迫って。谷間の薄い秋夕焼を一身に凝らせたような烏瓜の朱。夏の夜には純白のレースをひろげていたのに、なぜお前はそんなにも変わってしまえるのか。作者には焦燥感があるらしい。このままでは「朝に道を聞かば夕べに死すとも可なり」(『論語』里仁)の逆になるかもしれない。不安感が、黒く沈んでゆく山の闇を背にした烏瓜になまなましいほどの存在感を与えている。
(選 ・鑑賞 恩田侑布子)
(選 ・鑑賞 恩田侑布子)