2022年10月9日 樸句会報 【第121号】
今回は樸俳句会にとって2度目のzoom句会でした。初めてzoom句会に挑戦した前回(9月4日)より滑らかに進めることができました。静岡県外や外国の参加者も出入り自由のグローバルなzoom句会、じかに顔を合わせて場の空気感を味わいながら楽しむリアル句会、どちらにも良さがありますね。コロナ禍の思わぬ副産物ではありますが、こうしたハイブリッド型が新しい時代の句会のかたちになっていく中、樸はその先頭に立っているのかもしれません。なんとなく浮き立つそんな気分を反映してか、今回は入選句はない代わりに特選句が3つも出るという、華やぐ会になりました。
兼題は「後の月(十三夜)」「烏瓜」「荻(荻の声・荻の風・荻原)」です。
特選3句を紹介します。
◎ 特選
しやうがねぇ父の口真似十三夜
見原万智子
特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「十三夜」をご覧ください。
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◎ 特選
道聞けば暗きを指され烏瓜
古田秀
特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「烏瓜」をご覧ください。
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◎ 特選
荻の声水面に銀の波紋寄せ
金森三夢
特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「荻」をご覧ください。
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今回の例句が恩田によって紹介されました。
遠ざかりゆく下駄の音十三夜
久保田万太郎
目つむれば蔵王権現後の月
阿波野青畝
麻薬うてば十三夜月遁走す
石田波郷
掌の温み移れば捨てて烏瓜
岡本眸『冬』
虹の根や暮行くまゝの荻の声
士朗(江戸中期、名古屋の医者)
空山へ板一枚を荻の橋
原石鼎
【後記】
9月から樸に加えてもらった新参者ですが、千葉県在住にもかかわらずzoomのおかげで既に2度も句会に参加できて、とてもありがたいと思っています。
ずいぶん前のこと、ある雑誌で英国在住のピアニスト内田光子さんが、自分にとっての日本語は『おくのほそ道』が読めさえすれば十分、という趣旨のことをおっしゃっていました。それを読んだ時は、ドイツ語や英語が生活言語となった世界的音楽家が母国語である日本語の調べを芭蕉に聴くなんて、すてきな話だなと思っただけでした。それが、自分も恐る恐る俳句を作り始め、樸の句会に参加することで、内田さんのあの時の言葉がよみがえってきたのです。俳句という韻文が持つ象徴性と、洗練されたピアノの響きには、共通するものがあるということでしょうか。自分の感動を他者に伝えようとする時、それを韻律に乗せる最もふさわしい器、すなわち言葉や音を、俳人も音楽家も命をかけて模索しているのでしょう。俳句を作る人にはあたりまえのことかもしれませんが、たったひとつの文字が句の印象やリズムをがらりと変えてしまうということを、今回の句会で強く感じました。
句会とは、素晴らしいコミュニケーションの場ですね。互いに尊重しあいながら、自分の心の中の思いを率直に吐き出せる貴重な空間を、これからも大事にしていきたいと思います。句会の白熱する討議に夢中で、合評を記す余裕がありませんでした。ここまでお読み頂いた貴方様も、次はぜひ、樸のZoom句会をご体験ください。
(小松浩)
今回は、◎特選3句、✓6句、・8句でした。
(句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)
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10月26日 樸俳句会 入選句紹介
○入選
秋の蝶母は娘に還りゆき
活洲みな子
【恩田侑布子評】
二度童という言葉がある。本人は気づいていないのが童たる所以。この句の母は、娘時代の華やかな思い出にしょっちゅう還ってゆくらしい。一番自分が輝いていた時代のことを繰り返し繰り返し口にする母と、庭先を無心に飛ぶ秋の蝶が重なる。連用形での終止が、母と秋蝶の行く末を想像させる。優しさはかなしみなのだ。