樸俳句会代表・恩田侑布子の第五句集『はだかむし』がこのほど、角川書店より刊行されました。奥付にある初版刊行日11月7日は久保田万太郎の誕生日、生誕133年の節目にあたります。この句集は、恩田が深く敬愛する万太郎へのオマージュでもあるのでしょう。
第四句集『夢洗ひ』(芸術選奨文部科学大臣賞受賞)から6年。2016年夏から2022年春までの作品から、371句を自選したものです。後半期のほとんどはコロナ禍ですが、恩田はこの間、自ら「天空の書斎」と呼ぶ自然豊かな自宅周辺を歩き、水音を聞きながら句作や選句にはげんだといいます。いくつもの川、石河原、小瀧、岩場。多くの俳句が「こうして水ほとりに生まれた」(あとがきより)のでした。
自然と一体化し、日本文学の美しさを潤いある言葉に溶かしこむ恩田の感性は、
足もとのどこも斜めよ野に遊ぶ
たましひの片割ならむ夜の桃
よく枯れてかがやく空となりにけり
などの掲載句にも表れています。また、フランスや中国への旅を踏まえた
ブロンズの冬日セーヌに置いて去る
星屑に吊られてありぬハンモック
などの海外詠、ロシアのウクライナ侵攻を受けた
筍であれよ砲弾保育所に
といった戦争詠にも、その温かな人となりや、豊かで鋭い想像力がうかがえます。
句集名は、中国前漢の『大戴礼記(だたいらいき)』に拠りました。恩田によれば、はだかむしとは、毛も羽もない素っ裸の虫、それも陰陽のまじりけのない精を受けて生まれる人間のことだといいます。
うちよするするがのくにのはだかむし
が末尾にあります。
恩田は今年4月、春秋社から『渾沌の恋人 北斎の波、芭蕉の興』を出版し、各紙誌の書評で高い評価を受けました。それに続く今年2冊目の著書が、この第五句集です。句作に、指導に、講演に、著書出版にと、ますます旺盛なエネルギーをみせる恩田の魅力がいっぱい詰まった句集『はだかむし』。ぜひお手にとってお読みください。
(樸編集長 小松浩)