2023年1月25日 樸句会特選句
冬ごもり硯にとかす鐘のおと
益田隆久
山寺でつく鐘の音を、作者は硯の陸で墨を磨りながら聞いています。漆黒の濃墨が硯海の水に放たれてひろがりゆくさまに、おりしも梵鐘の余韻が重なり、それを「硯に溶かす」と感じたところ、じつに素晴らしい感性です。山寺は明六つ暮六つと鐘を突くことが多いので、きっとこれは、時の経つのも忘れて書に親しんでいた作者に聞きとめられた夕鐘でしょう。明窓浄几のこころもちのゆたかさ。
(選 ・鑑賞 恩田侑布子)
(選 ・鑑賞 恩田侑布子)