2023年10月21日 樸句会報 【第133号】 秋の吟行句会。本日は滅多に見られないほどの秋晴れに恵まれました。 藤枝市岡部町朝比奈地区に戦国時代から伝わる、朝比奈大龍勢を見に行きました。 ここは、俳人の村越化石さんの生誕地です。 また、大龍勢のすぐ隣の休耕田ではコスモス畑が見頃を迎えておりました。 茶室瓢月亭がある玉露の郷、昆虫館、あさぎまだらの乱舞、村越化石さんの句碑など素材が満載の吟行となりました。 「句友あり金木犀の香の中に」(恩田先生の句) 今日ほど、「句友あり」という喜びを実感したことはありませんでした。 「先駆けの子らの口上天高し」(前島さんの句)(本日の最高点句) 会場のどよめき、一体感、感動の瞬間。 「大龍勢龍の鱗は里に降り」(活洲さんの句)(本日の次点句) 四方八方に飛び散る生きているかのような赤青黃の龍たち。鱗と見立てた美しい落下傘や紙吹雪、この地と人々への豊祝。 特選3句 入選3句 △5句 レ14句 ・2句 計27句(出句は計50句) ◎ 特選 大龍勢龍の鱗は里に降り 活州みな子 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「大龍勢(花火)」をご覧ください。 ↑ クリックしてください ◎ 特選 露の玉点字の句碑に目をとづる 益田隆久 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「露の玉」をご覧ください。 ↑ クリックしてください ◎ 特選 岡部町、大龍勢 先駆けの子らの口上天高し 前島裕子 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「天高し」をご覧ください。 ↑ クリックしてください ○入選 秋の苔弱き光をこはさぬやう 天野智美 【恩田侑布子評】 繊細な感受性がとらえた「秋の苔」の本意。岡部の玉露の里に建つ茶室瓢亭うらの山かげは、ささやかな万葉植物園の趣。藤袴とあさぎまだらの楽園をプロローグとして、林間に一歩ふみ入るや、冷やかな苔のしじまの小道になる。無造作に置かれた庭石にも苔がみっしり。「弱き光をこはさぬやう」といいさしたデリケートな句形と調べは内容と協奏し、ピアニッシモのひかりを漂わす。 ○入選 大龍勢花笠受くる秋の水 天野智美 【恩田侑布子評】 龍勢の打ち上げ会場を途中で引き上げ際、本日最高と思われる高さへ上り、長い空中遊泳を果たした一本の竹竿が薄桃色の落下傘を広げてゆらめくように舞い降りてきた。これは、その長細い竹の尾が恥じらうように秋の川面に触れる瞬間である。秋真澄の空と水との間に、村人が丹精して作った花笠が舞う。天、水、人がかたみに照らしあう思いがけない静けさ。 ○入選 秋うらら桂花の菓子を頬張れば 佐藤錦子 【恩田侑布子評】 木犀の花びらをいっぱい摘んで酒にしたのが桂花酒。香り高い酒を紅茶に滴らすのもいいが、漬けた花びらをこんもりとマフィンの上によそって食すのもいい。今回は吟行会場まで、未知の水素自動車で送迎してくださる仲間に恵まれ、恩田には、句友のみんなに配るマロン入り蒸しケーキを作る余裕が生じた。これもこじんまりした会だからできること。それを頬張って「秋うらら」とよろこんで下さる佐藤錦子さんの贈答句に感激した。贈答はよろこびの連鎖をひき起こす。これも現場でのナマの楽しい交流があればこそ。 【後記】 準備段階から藤枝在住の3人で何度も集まりました。 友情と結束が深まったことは大きな収穫です。 65歳過ぎてから新たな友人が出来たことは人生の僥倖です。俳句のお蔭です。 顔を見合わせてやる句会とZOOMでは情報量が全然違います。 ノンバーバルコミュニケーションの情報は大事です。 つまり顔の表情、しぐさ、声の波動の情報など。 帰りの車内でも、「吟行句会っていいね」という話で盛り上がりました。 遠方からの参加は大変ですが、それに見合う以上の収穫があります。 欠席された方も次回はぜひご参加下さい。 (益田隆久) (句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です) ==================== 10月9日 樸俳句会 兼題なし、当季雑詠のみの句会でした。 入選1句、原石賞1句を紹介します。 ○入選 うそ寒や喉のんどにのこる無精髭 活洲みな子 【恩田侑布子評】 感覚が利いている。朝は喉元の髭を剃り残したことに気づかなかったが、今気づいた。その時ふいに、この秋になってはじめて身に沁みる寒さを感じた。ルビが「のみど」なら、いっそう調べが内容にマッチします。 【原石賞】天空は豊饒の海鰯雲 岸裕之 【恩田侑布子評・添削】 入選で採られた林さんの解釈「夕空の風景として素晴らしい」という発言から、急に、句頭を一字変えさえすれば、たまゆらの代赭色の豊饒感が眼前に迫ってくることに気付かされました。 【添削例】夕空は豊饒の海鰯雲
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あらき歳時記 天高し
あらき歳時記 露の玉
2023年10月21日 樸句会特選句 露の玉点字の句碑に目をとづる 益田隆久 地水庭園に茶室瓢亭が建つ玉露の里の入り口には、町内に生まれた村越化石の句碑がある。石彫家、杉村孝の思いのこもった大岩の亀裂は、母が子を抱えるようにも、子が母と引き裂かれる悲しみのようにも見える。〈望郷の目覚む八十八夜かな 化石〉と彫られた側面には、ステンレスの大きな鋲が打たれている。全盲となった作者が帰郷した時、みずから読んでもらえるようにという点字の俳句である。 その金属の丸い頭を「露の玉」と言い切ったことで、鋲はたちまち宇宙を映す水玉に変容する。ハンセン病のため十六歳で故郷を去らねばならなかった化石の思い。見渡す山並も川音も何百年も変わらないのに、化石も、石彫家も、やがてまたわれわれも、露の玉さながらこの世をこぼれ落ちてゆく。まぶたの裏の思いは深い。 (選 ・鑑賞 恩田侑布子)
あらき歳時記 大龍勢
2023年10月21日 樸句会特選句 大龍勢龍の鱗は里に降り 活洲みな子 日本三大龍勢の一つが五年ぶりに開催された。芭蕉の句、〈梅若菜鞠子の宿のとろろ汁〉の西隣の宿が岡部。旅籠だった「柏屋」から朝比奈川を車で数分遡れば玉露の里に出る。稲穂を収穫したての真昼の刈田に、思い思いの桟敷を広げ、連ごとに丹精をこめた龍勢花火をみんなで見物し、天空の技を競い合う。ガンタと呼ばれるロケット部に花火や落下傘など曲物を詰め、山裾から伐った竹に火薬を詰めて推進力とする。十数メートルの尾を持つ竹幹が、みるみる秋天を駆け登り、工夫の曲物を青空に花のように散らするさまは壮観である。 この句はまず「大龍勢」と祭全体を息太く打ち出し、次いで空中に弾ける花火やパラシュートや紙吹雪を龍の「鱗」と見立てたところ、技アリである。龍の鱗が、群衆の頭上にも家々にも、きらきらと降り注いでいるよ。谷あいの里に暮らす老若男女を丸ごと祝福する作者の慈愛にも包まれてしまう。 (選 ・鑑賞 恩田侑布子)