2024年3月3日 樸句会特選句
書き込みに若き日のわれ朧月
小松浩
書架から久しぶりに取り出した本を開くと、余白のところどころに、忘れていた書き込みがあります。思わず目が吸われて読んでしまいます。あれ、こんなこと考えていたのか。若き日の自分の心を覗いて、当時の暮らしまで朧月のようにぼうっと蘇るのです。季語が季節感を超えて、一句全体に浸透していることが秀逸。それが「若き日のわれ」のいのちと響き合います。昔の自分が春月のように虚空にまどかに浮かんで、いまの「われ」を見つめています。 (選 ・鑑賞 恩田侑布子)