あらき歳時記 春夕焼

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photo by 侑布子

 
 

2024年3月17日 樸句会特選句

      澤瀉屋
 千回の宙乗りの果て春夕焼

                 前島裕子

  若い頃はケレン味といわれた三代目市川猿之助はスーパー歌舞伎で新風を吹き込み、数々の受賞に輝き、晩年は隠居名の猿翁を名乗りました。屋号は沢瀉屋。歌舞伎座の天を華やかに宙乗りで舞った亡き役者への追懐の句です。「宙乗りの果て」の措辞が、春夕焼の温かな艶やかさをしみじみと広げます。芸に一生をかけることの危うさも滲みます。大向うの掛け声や客席の嬌声、ため息まで聞こえるようです。やがて、子息や家系に記された翳りの深い顛末など、この世の有為転変にまで思いをいざなう大柄俳句です。
                    (選 ・鑑賞   恩田侑布子)

 

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