二〇〇六年〜二〇二三年の三三〇句を収録し、十代から青春期を総覧する句集である。物象感の鮮やかさがいい。「白薔薇」はついに一ミリも触れない回転ドアのために際立ち、赤子の尻は「曼珠沙華」の蕊によってこの世のほかの果実めく。「夕桜」の抒情も、「花馬酔木」の惜春も、たしかな物量として感じられる。前職を捨てる実感として「股の下」に収まる「九月の海」以上のものがあるだろうか。いま一つの美点は独自な空間把握にある。「龍の玉」と母の痩せ。「はくれん」と橋下からの呼び声という、無縁のもの同士に透明な橋が架かる。瞠目するのは「渦潮」と哺乳瓶の一句。みどりごの両手に摑まれたことで両者はめくるめくいのちの奔流の渦に巻き込まれ、波飛沫を上げるのである。
(恩田侑布子選評)