あらき歳時記 身に入む

photo by 侑布子

2024年10月20日 樸句会特選句

 身に入むや一灯に足る杓子庵

活洲みな子

 小説『銀の匙』で有名な中勘助が第二次大戦中に疎開していた「杓子庵」は静岡市葵区新間の山里にあります。、「一灯に足る」の措辞通り、茅葺の廬で六畳一間きり。厠も風呂もなく、縁側どころか玄関さえありません。還暦近いとはいえ、よくもここで新婚生活が送れたものだと胸が詰まります。しみじみと骨身にしみる冷気と侘しさが「身に入むや」の切れに込められ、戦時下の逼塞間や、相次いで肉親と愛する嫂を失った憔悴感を際立たせます。杓子菜の種を撒くのは、これから始まる冬のことです。

(選・鑑賞 恩田侑布子)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です