
船室から
百八日の船旅に発つ盆の朝
金森三夢
一昨年の夏に癌の手術を受けましたが、お陰様で経過が良好の為思い切って冥途の旅クルーズにチャレンジし、十二月一日に無事帰還致しました。三か月半(108日)で赤道を四回も通過するという破天荒とも云いたくなるような旅でした。
盆の出発という事で一日一日を輝かせ日々百八の煩悩を消し去りたいと目論んでおりましたが、地震と颱風に阻まれ見事に出航が遅れ、スエズ運河の通航が諸事情で不可能となり寄港地も大幅に変更され、日頃の行いの悪さを改めて痛感。煩悩✕∞という素晴らしい旅立ちと相成りました。やれやれ・・・。

クルーズ船にて
今回の船旅で俳句の海外詠にも挑戦したいと思っておりましたが、夏に出航しインド洋までは夏、南半球のため喜望峰は春(七十一年の人生で夏の次に春は初体験)、アフリカを北上して赤道で今年二回目の夏、カナリア諸島は常春、カサブランカで三度目の夏、ポルトガル、イギリスでやっと秋に辿り着いたもののアイスランドは極寒。ニューヨークで秋に戻った矢先にカリブ海で四度目の夏。パナマ、ペルー、イースター島、タヒチ、サモアそして小笠原までは何と五回目の夏、横浜でいきなり冬という気候の不規則変化の洗礼を受け四季の感覚は完全にぶっ壊れ、俳句どころではなくなりました。

オーロラと星月夜
それでも樸で俳句を学ぶ者としての意地で各寄港地や洋上で俳句の悪あがき。今回のクルーズの目玉は何といってもオーロラです。《オーロラや緑帯成す星月夜》《巻きあがる赤きオーロラ海凍る》と駄句を蘿列しました。帰宅して部屋に溜まった埃にびっくり仰天し大慌てで早めの大掃除、すっかり廃人化して新年を迎えました。煩悩は消えませんでしたが、命の洗濯は出来たので何となく人生の宿題を一つやっつけた気分です。
船は亀われは浦島山ねむる
熱帯より戻り暖冬肌を刺す
現在は、退屈な日常を取り戻すのに一苦労しております。
世界地図一筆書きし雪の富士 三夢

イースター島行きのテンダーボートと