あらき歳時記 亀鳴く

photo by 侑布子

2025年4月13日 樸俳句会特選句

 亀鳴くや巴御前の吐息のせ

 金森三夢

 樸の春の吟行会は近江でした。まずは義仲寺へ芭蕉のお墓参り。膳所市中の小さな境内は、奥の翁堂まで、ところ狭しと草木が芽吹き、箱庭のような路地裏のようななつかしさです。奥から芭蕉塚、義仲の塔、巴御前の小塚と並びます。巴御前は勇猛に義仲を助けた女武者として有名ですが、執事の谷高さんの説明では岐阜山中で義仲の菩提を弔って九十一歳まで生きたとのこと。側室であり武将であった前半生と、義仲亡きあとの尼僧としての長い晩年と。巴御前がひとり遺された「吐息」に、「亀鳴くや」という非現実の季語が韻き、歴史に刻まれた華やかな運命からの暗転と、一人の女性としての感情の輻輳に思いを誘います。

(選・鑑賞 恩田侑布子)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です