
photo by 侑布子
2025年5月4日 樸句会特選句
吾の歌に母の輪唱桜の実
活洲みな子
「輪唱」の措辞が「桜の実」の美しさを高めています。若葉の気持ちよい日、作者が好きな歌を口ずさむと、後ろから母も自然に声を合わせて歌い出します。あ、輪唱だ。ほっと心が和らいだ瞬間、若葉のかげに小粒の実の色づきを認めました。桜の実は、若葉になって初めて出会うみずみずしい果実です。食することはできない赤い実のつややかな清楚さを見事に言いとめています。「の」が三回続くのも、桜の小さなまるい実が垂れるさまを思わせます。それは母と歩んだ五月のひかりの思い出。母恋の情が清らかです。
(選・鑑賞 恩田侑布子)