わが恩田侑布子 一句鑑賞 6

        益田隆久

photo by 侑布子    ひいふつと子猿みいよう若葉風 恩田侑布子   (『俳句』2025年6月号「八風」21句より)    山を歩いているときだろう。子猿が何匹か目の前を通り過ぎたのだ。口角が思わず上がってしまう驚き。光景の意味を伝えることに重点を置くなら、「どこで、どんな瞬間に」を書く。例えば、「目の前を子猿飛び出し若葉風」・・・など。しかし光景を説明しようとするほど臨場感、実感から遠ざかる。  「あ、子猿だ、一匹、二匹、三匹・・・」と、思わず呟いた。光景を伝えることを省き、呟きをそのまま俳句にする。思わず漏れた「つぶやき」を息が声となって口から漏れ出るごとく。それは体感そのもの。そして体感ゆえの弾むようなリズム。  一度音読したら忘れない。大好きな一句の誕生。若葉風は動かない。子猿が「サッ・・」と横切り木立に消える。それは作者を思わず笑顔にしてしまった気持ち良い若葉風なのだ。

あらき歳時記 日盛り

photo by 侑布子 2025年6月15日 樸俳句会特選句  日盛りの影もたれあふ交差点  小松浩  交差点で影がもたれあうといえば愛し合うふたりでしょう。ふつうは秋か冬を思います。ところがこれは真夏の「日盛りの影」。しかも道ばたではなく「交差点」です。それによって信号待ちする恋人同士のありふれた影はシンボリックな意味を宿します。「もたれあふ」影がなま身の現実をにわかに超え、愛のはかなさと生の夢幻泡影の隠喩となり、現代美術さながら地上を擦過します。ビルディングの林立する都会の日盛りに、交差点で待つ若いふたりから見出されたひかりと影の幻像。儚さゆえのパラドックスです。 (選・鑑賞 恩田侑布子)

わが恩田侑布子 一句鑑賞 5

         前島裕子

photo by 侑布子
 
 平茶盌天さはさはと畳かな
恩田侑布子  
(『俳句』2025年6月号「八風」21句より)
 
 「八風」の二十一句は、初夏と仲夏でそろえたという。そのなかに季語のない一句がある。無謀にもそれを鑑賞したくなった。
 句は茶道のことをよんでいる。
 まずは、薄茶をいただく客の立場で句をくり返しよんだ。「平茶盌」は夏季の茶の湯に用いられるとあるのでこれはわかる。しかし「天」と「畳」がわからない。
 次に亭主になりかわり句をよんでみる。
 するとストンと自分の中に落ちてきた。
 客をもてなすために用意した「平茶盌」にお茶を点てる。あわが茶盌の広い口に「天」のようにひろがり「さはさは」とさわやかに涼しげだ。その「平茶盌」を「畳」におく。心の中で(ちょうどのみごろです。めしあがりください)と言いながら。これが詠嘆の「かな」なのではないか。
 「畳」におかれた「平茶盌」は、客に委ねられる。
 また客になりかわる。今度は「畳」より「平茶盌」を手にとり、亭主もてなしの「さはさは」と涼しく点った薄茶をあじわうことができ、初夏のすがすがしい気分になった。
 恩田は「平茶盌」が季語になるようにと、願っている。ときいている。

第15回北斗賞の授賞式が行われました

6月14日、東京新宿の京王プラザホテルで、第15回北斗賞(主催:(株)文學の森)の授賞式が行われました。受賞された古田秀さんは挨拶で喜びと感謝の言葉を述べるとともに、「現実に目を塞ぐことが賢く得であるとされる現代において、俳句は私たちに語るべき言葉を持たせてくれる」と、自らの俳句に対する深い思いを披露。会場の来賓席には、その堂々としたスピーチに温かい眼差しを向けて聞き入る恩田侑布子の姿がありました。
 

スケールの大きな挨拶で会場を沸かす古田秀さん
 
古田秀と恩田侑布子の晴れやかなツーショット
 

応募締切迫る!

第62回現代俳句全国大会

投句締切 7月31日(木)(必着)
恩田侑布子が選者の一人を務める、第62回現代俳句全国大会の作品募集締切が7月31日(木)に迫りました。
本大会は、現代俳句協会の主催で年一回開催される、伝統ある大会です。協会員でなくても、どなたでも参加できます。
ふるってご応募ください!!

[応募規定](抜粋)
◻︎ 3句1組・2,000円:何組でも可。ただし新作未発表作品に限ります。*前書き、ルビは不可。
◻︎ 題詠1句(無料):昭和100年の今年は「昭和」を題材にした俳句を募集します。ただし題詠のみの応募は不可。
◻︎ 投句料の振込方法および作品の送付方法
⇩⇩⇩ こちらをご覧ください ⇩⇩⇩

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