あらき歳時記 寒昴

photo by 侑布子 2025年12月21日 樸俳句会特選句  仮名千年語り万年寒昴  馬場先智明  ひら仮名には王朝時代から千年のいとなみがあり、素朴な土着の言い伝えから口承文学にいたるまでには万年の道のりがあるだろう。地上のあらゆる民族に育まれて来た言語に思いを馳せつつ冬の夜空を見上げると、六連星が真珠の聯のように輝いています。長大と思ってきた人類の言葉の歴史がなんともはかなく、いとおしく思われる瞬間です。K音主体の名詞句三つが冬銀河の冷厳さを思わせて効果をあげています。 (選・鑑賞 恩田侑布子)

慶祝 

第16回一茶・山頭火俳句大会(11月8日 本行寺)
 
鳥居真里子入選
 はればれと無才のまゝをゆく枯野 見原万智子
 
恩田侑布子入選
 返り花佳い人に逢ひに行くのさ 見原万智子
 

熊倉功夫・恩田侑布子対談「茶の湯と俳諧」俳句大会
(11月9日 静岡県立ふじのくに茶の郷ミュージアム)
 
「富士」 恩田侑布子特選
 風止まるどの植田にも逆さ富士 成松聡美
 
「茶の花」 恩田侑布子入選
 あのころの母に吾似てお茶の花 山本綾子
 

 

11月16日句会報告

2025年11月16日 樸句会報 【第157号】

 十一月は十六日と三十日にZoom句会。
 十六日の兼題は、「凩」「白菜」。六十五句の中から原石賞一句が選ばれた。「原石」だけに先生からの直しも複数箇所あり、推敲とはこのように詰めていかなければならないのかと改めて考えた。後半の「笈の小文」講読は、先生が細かく解説くださるためにページとしてはそれほど進んでいないが、このように細部を読み込んでいくものかと思わされた。
 三十日の兼題は「手袋」「焼鳥」。投句は六十四句で、入選一句、原石賞となった。二作品は同じ作者で、上達ぶりを示すことになった。先生の指導の中で「[詩的俳句]と[俳句という詩]を峻別すべきである」とのお言葉があった。句作に向き合う姿勢として、重要なご指導だと身にしみた。句会が充実したため、講読の時間はなくなってしまった。

よく枯れてかがやく空となりにけり
恩田侑布子(写俳)
 11月16日の原石賞1句、その他評価の高かった4句を紹介します。

【原石賞】地形図の尾根谷のごと白菜葉
              猪狩みき

【恩田侑布子評・添削】

生鮮野菜が軒並み高騰し、白菜も例外ではありません。半分ならまだいい方で、四分の一や八分の一に割られて店頭に並んでいます。その断面を見た瞬間、「あ、これは地形図の等高線だ」と気づいた作者です。原句は「尾根谷のごと」「白菜葉」の措辞がやや不自然に思われます。はっきりと尾根と谷のアナロジーを打ち出し、店頭で買う瞬間の句とすると、四分の一に細く切られた白菜からみっしりした等高線の落差が思われ、冬山のほそみちとおもしろい橋がかかります。

【添削例】地形図の尾根と谷なり白菜買ふ

【ほかにも次のすぐれた4句が発表されました。】

 木枯の銀座和光を右折せり
              小松浩

木枯がピューピュー吹き荒んで、日本一の高級商店街の銀座、なかんずく歴史ある服部時計店の「和光」の角を右折していったよ。「右折」は俳句文芸の土俵ギリギリの技アリです。教育文教費より防衛費増大の高市早苗内閣の極右化が、自民党の党員と国会議員という国民の数%未満の支持者によって決定されてゆく、この国の民主主義の危うさ。木枯の寒さが身にしみます。

 白菜を丸ごと買ひて恙無し
              小松浩

白菜が高級品であることの方がおかしい、という思いがあります。二玉も三玉も買って、白菜漬けにした昔ではありませんが、今日はなんとかひと玉のずっしりした白菜を買って抱えて家路に着くことができました。「恙無し」とは、茶掛でこの時期によく掛かる「無事是貴人」の思いでしょう。平易で品のある俳句です。

 きしきしと白菜を割く薄き爪
              小住英之

まるごとの大きな白菜に縦に包丁目を入れ、十指で真っ二つに割る瞬時の音を「きしきし」と捉え、その「薄き爪」に着目した俳句眼に鋭いものがあります。若く健康な時は、爪も艶やかで肉厚ですが年齢とともに爪は痩せ、薄っぺらになるだけでなく、血色も失い銀白色に縦線が入ります。作者はなんと、ニューヨーク大学で「爪」の幹細胞を研究する博士。十代で、母堂が癌で亡くなった当時の思い出を感情に溺れず、くっきりと形象化しました。体調の厳しさと冬の冷たさが一枚になって迫る俳句です。

 柊の花や卒寿の退院す
              長倉尚世

九十歳で退院されるとは、ご家族の介護もさることながら、ご本人の凛とした気丈さが偲ばれます。いま退院できても、あといくばくの月日が在宅生活に許されていることだろうか。そこはかとない不安もあります。しかし、冬青空に咲く「柊の花」はひっそりと奥ゆかしく清らかな芳香を漂わせて、長寿者と家族を讃えています。

【後記】
 両日それぞれに、初参加の方がおられました。座の仲間が増えるのは嬉しいことです。
 特筆すべきこととして、20歳代の方の入会がありました。若い感覚が新たに入ること、これから楽しみです。なお会費について20代までの方は割り引きと、新たに決めました。積極的にのぞいてみてくださるようお願い致します。
 (坂井則之)
 (句会を体験したい方は、このHPのメニューボタンをクリック。『樸 新入会員募集中!』記載のメールアドレスへお問い合わせください。)

(句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)

手にとれば冷たきものを日向石
恩田侑布子(写俳)
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11月30日の入選1句、原石賞1句を紹介します。
○ 入選
 バイク音へ君の名溶かす冬銀河
               益田隆久

【恩田侑布子評】

好きな人と別れて自宅へ帰らなければなりません。バイクのエンジンをけたたましく噴かし、車体をブルブルと震わせて、さようならをした瞬間、ふり仰いだ空の大きさ。冬銀河がさあっと雪崩れ落ちて来るようです。思わず愛しい名をつぶやき、銀の真砂のような荒星たちに祈ります。ひときわ大きく清らかな一粒がいつまでも頭上に輝いていてくれますように。「バイク音へ」「溶かす」という闇と光と音の響きあう動きにリアリティがあります。

【原石賞】モノクロの写真のふたり帰り花
              益田隆久

【恩田侑布子評・添削】
古いモノクロ写真に若い日の二人が写っています。いつの間にか別々の道を歩んで長い月日を過ごしてしまったけれど、見ればセピア色の一枚の写真に二人は寄り添っていました。若い日の頬を互いに知っている二人は、またすぐ笑い合えるでしょうか。冬青空に返り花があどけなく咲いているように。原句ではなかなかロマンが発展しそうにありません。発展しそうな含みを持たせましょう。

【添削例】となりあふモノクロ写真返り花

青天や枯れたらきつと逢ひませう
恩田侑布子(写俳)

慶祝 樸会員 静岡新聞文芸欄 特選・入選・秀逸

恩田侑布子は2024年9月から、静岡新聞文芸欄「俳句」(月1回最終火曜日の朝刊に掲載)の選者を務めています。 その中から、特選、入選、秀逸に選ばれた樸会員の句を紹介します。    恩田侑布子 写真   2024年 10月 入選  ぱぱあつちいけ西日さすはうにいけ 芹沢雄太郎   11月 特選一席  秋澄むや母に五分粥喰む力 活洲みな子 [評] 病み衰えてゆく母の介護はつらいもの。ことに天高い日は。若かった頃の思い出が蘇ります。野や川で一緒に笑いころげたこと。大人になって楽しんだ旅。ベッドの母はまだ流動食ではありません。五分粥を食べられます。一日でも長生きして。秋真澄の祈りが句末の「力」に込められています。   秀逸  お使ひの袋引き摺り秋夕焼 芹沢雄太郎   12月 入選  レジ閉ぢて急ぐ背中や寒北斗 益田隆久  ルービックキューブ冷たし揃ふても 芹沢雄太郎   2025年1月 入選  枯木立感光液の水たまり 益田隆久   2月 入選  短日のバスを待ちつつにきび触れ 芹沢雄太郎  ラヂオ体操に初鴉来てゐたりけり 益田隆久   3月 秀逸  早春の怪獣膝を抱へをり 芹沢雄太郎   4月 特選三席  ひこばえや皆貧しくて皆笑ひ 益田隆久 [評] ひこばえは孫生(ひこばえ)の意で、刈られた木が春になって芽吹く命の再生です。傷めつけられても蘇る植物のいきおいと、失われた30年で貧しくなった庶民が笑いで温め合う日常を、「や」の切れ字で対比し、とりはやしています。句の底には思いやりがあります。こういわれるとトランプのスター気取りの顔が浮かんでくるから不思議です。   秀逸  蒼空や砂紋をのこし大河涸る 前島裕子   入選  三月の遅き回転木馬かな 芹沢雄太郎   5月 入選  図書館の本の汚れや霾れり 前島裕子   6月 入選  白藤の香り天降りて夜の重さ 益田隆久   7月 入選  麦の秋焼きたてホームベーカリー 前島裕子  重力の無きが如しやあめんばう 益田隆久  子と吾の汗合はさりて昼のバス 山本綾子   8月 入選  庭先にサンダル「キュッキュ」小さき客 前島裕子  トマト噛み忘れ去られし歌「友よ」 益田隆久   9月 入選  墓洗ふとなりもかども墓じまひ 前島裕子   10月 秀逸  開けし戸に客人のごと今朝の秋 山本綾子  人情に倦んで猫抱く秋夕焼 益田隆久   入選  戦場の瓦礫に番地虫の闇 活洲みな子   11月 入選  姉妹して父抱きかかへ十三夜 山本綾子   12月 入選  凩や母留守の家かぎあけて 前島裕子    恩田侑布子 写真

2026年1月号から1年間、角川『俳句』の合評鼎談に恩田侑布子が登場します

樸代表の恩田侑布子が、角川『俳句』の好評連載「合評鼎談」の新メンバーに決まりました。
2026年1月号から1年間、能村研三さん、小野あらたさん、恩田の3人で、主な掲載句についてたっぷりと語り尽くします。
1月号は12月25日(木)発売です。どうぞご期待ください。

『俳句』2026年1月号のご購入はこちらから