あらき歳時記 残暑

ホルマリン漬

photo by 侑布子

 

2022年8月24日 樸句会特選句


  初戀のホルマリン漬あり残暑

                   見原万智子

 もしも「ホルマリン漬の初恋残暑かな」だったら、どうなったか。初恋の標本というやや鬱陶しい思い出に過ぎなくなった。「初戀のホルマリン漬」はいい。生き返らない永遠がざんこくなほどに保障されている。しかも座五に置かれた残暑が重くひびく。若き日のかがやかしい実質が永く保存され、しかも西日のさす八月の標本室。読みとれる心情は単純ではない。ありありと容は残り、それを隔てるホルマリンも液体とガラス瓶。作者だけが生身。しかも秋暑しである。
                        (選 ・鑑賞   恩田侑布子)

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