あらき歳時記 十三夜

十三夜1

photo by 侑布子

 

2022年10月9日 樸句会特選句


 しやうがねぇ父の口真似十三夜

                   見原万智子

 努力してもどうしようもないことがある。「しょうがねぇ」。ふとつぶやいて、そっくり父の口真似だと気づく。亡き父も何度もそう呟いていたものだ。ありありと耳によみがえる口調が、しっくり腹落ちし我がことになってしまったしょうもなさ。かすかな泣き笑い。十三夜は、はなやかな中秋の名月とはまるで違う。中天高く、地上には影さえ降りてこないように思われる。「口癖」ではなく「口真似」としたことで、一挙に昔日がこの今とつながり、奥行きのある俳味を醸した。後の月の冷ややかさと、つぶやく体の温みとが絶妙の取り合わせ。
                        (選 ・鑑賞   恩田侑布子)

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