7月21日 句会報告

2024年7月21日 樸句会報 【第142号】

 連日全国一の最高気温を記録し続ける静岡県。そんな時期に静岡市内の小料理屋にてリアル句会を開催しました。句会後は懇親会もあり、静岡の夜を皆で楽しみました。
 兼題は「ソーダ水」「風鈴」。特選1句、入選4句を紹介します。

ひつたりと閉ぢよくちびる大南風

ひつたりと閉ぢよくちびる大南風 恩田侑布子(写俳)

   

◎ 特選
 ソーダ水越しに種馬あらはるる
             芹沢雄太郎

特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「ソーダ水」をご覧ください。
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○ 入選
 明易の羽ひらきたり人工衛星サテライト
               古田秀

【恩田侑布子評】

 日本が開発している宇宙太陽光発電をする静止衛星でしょう。宇宙空間に進出した現代の科学技術を「短夜」の季語で詠んだところが斬新です。太陽光パネルの展開を、「羽ひらきたり」とした詩的措辞もなだらかで無理がありません。ア母音七回の多用と頭韻が広々と澄んだ調べをもたらし、未来への希望を感じさせて軽快。今どきめずらしい向日的な句です。

 

○ 入選
 風鈴の途切れとぎれの添寝かな
                活洲みな子

【恩田侑布子評】

 ふだんの暮らしから俳句を掬いとった素顔の良さがあります。まだ幼いお子さん、またはお孫さんをお昼寝させるための添い寝でしょう。寝かせつけるために横になっているのに、子どもの甘い香りと風鈴の澄んだ音色に、ついうつらうつらしてしまいます。夢とうつつの境に聞こえるこの風鈴のなんという涼しさ、ゆたかさ。

 

○ 入選
 ソーダ水いつか会へると思ふ嘘
               見原万智子

【恩田侑布子評】

 目の前の「ソーダ水」を飲みながら、そういえば昔、こんなソーダ水を二人で飲みながら、男が「いつかまた会えるよ。会おうね」と言ったことを思い出します。自分でもなんとなく「いつか会える」ように思ってきたけれど、ちっとも会えない。会わない。そうか。嘘だったんだと気づいた瞬間、炭酸が喉を心地よく刺激して通り過ぎるのです。

 

○ 入選
 頬杖の星占とソーダ水
               長倉尚世

【恩田侑布子評】

 頬杖をついてすることに、星占いを読むこととソーダ水を飲むことは、ピッタリすぎるくらいピッタリです。自分のささやかな未来をくつろいで占い、甘く爽やかなソーダ水に癒される夏の午後のしあわせ。宇宙のあまたの星の一つに偶然生まれ、今こうして生きていること。ちょっとロマンチックな思いのよぎる涼しさ。

   

【後記】
 筆者にとって数年ぶり?のリアル句会への参加でした。恩田先生や句友たちの変わらぬ姿に安心しつつ、新たにお会いした句友たちから新鮮な刺激を受け、俳句へ向き合うエネルギーをたくさん頂くことが出来ました。
 リアル句会でこそ得られるパワーがあることを、改めて実感しました。

 (芹沢雄太郎) 

(句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)

まつしろに草薙ぎわたりはたゝ神

まつしろに草薙ぎわたりはたゝ神 恩田侑布子(写俳)

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7月7日 樸俳句会
兼題は滴り、蚊。
入選2句、原石賞4句を紹介します。

○ 入選
 蓋のなきマンホールへと蛇落つる
               芹沢雄太郎

【恩田侑布子評】

 マンホールの蓋が開いている光景は日本ではそうそう見られません。芹沢さんのインド詠とすると、躍動する色彩感も出色。逃げ場を失った蛇が咄嗟に「蓋のなきマンホールへ」落ちた瞬間の驚き。現実のような奇想のような、真夏の不思議な味わいの句です。蛇の全長の量感に、理屈ではない得体の知れなさが伝わり、余韻をいつまでも残します。

   

○ 入選
 補欠の子蚊が来てもぢつとしてゐる
               見原万智子

【恩田侑布子評】

 正選手でなく、補欠の子の心理の陰影が細やかに描かれた面白い俳句です。五五七の口語調の独特のリズムが作者の肉声を伝えるようです。補欠でも、レギュラーたちの試合をじっと真剣に見つめ応援して、内心は、もしやのお呼びがかかるのを待っているのです。蚊に喰われて、かゆいくらいなんのその。でも、ホントは蚊なんか来ない日盛りのヒノキ舞台で身体を思いっきり伸ばして活躍したいのです。

   

【原石賞】夏の雨読経に読点打つように
              星野光慶

【恩田侑布子評・添削】

 お坊さんがお経を読んでくれている時に、突然襲来した夏の雨の情景が素晴らしい。残念なのは、リズムが内容と合っていず、もったりもっそりしていること。中八の字余りが傷になっています。語順を変えて、スピード感を出しましょう。

【添削例】読経どつきやうに読点を打ち夏の雨

   

【原石賞】山百合の手桶にたふるる蕾かな
              長倉尚世

【恩田侑布子評・添削】

 中八の字余りでリズムが崩れ、せっかくの花の美しさが陰ります。山百合はその名の通り、あまり人の通らない山の際に繚乱の花を咲かせます。大きな蕾も花も、人のこうべを思わせる量感があり、そのおもたさを「手桶にたふるる蕾」としたのはみごと。たしかに、咲いてしまった絢爛の花より、うすみどりを帯びた蕾が清新です。

【添削例1】手桶にたふれ山百合の蕾かな

 山墓に眠る人への供養の句にすれば、さらに情景は鮮やか。

【添削例2】閼伽桶にたふれて山百合のつぼみ

   

【原石賞】風ゆくや川の字となる蚊帳の中
              小松浩

【恩田侑布子評・添削】

 親子が川の字にくつろいで寝るのは、人生の幸福で清らかな瞬間です。惜しいのは「となる」と「の中」が説明的で、風の涼しさがいまいち感じられないこと。言葉を少し整理すれば涼風が吹きわたるでしょう。

【添削例】青蚊帳の川の字に風かよひけり

   

【原石賞】したたりや月は地球のひとりつこ
              益田隆久

【恩田侑布子評・添削】

 山中で、巖滴りを見ていて、ハッと気が付いたのでしょうか。発見の素晴らしい俳句です。ただし、ことさらひらがなにしたことで切れが弱くなった感じです。季語は漢字の方が映像がすっきり立ち上がります。

【添削例】滴りや月は地球のひとりつこ

   

驟雨いま葉音となれり吾も茂る

驟雨いま葉音となれりも茂る 恩田侑布子(写俳)

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