12月21日 句会報告

2025年12月21日 樸句会報 【第158号】

 十二月は十四日と二十一日にZOOM句会。
両日とも前半は点盛りと講評。後半は角川『俳句年鑑2026年版』《今年の句集BEST》に掲載された師が選んだ十五句集の中から、句集ごとに紹介されている六句について、鑑賞や意見交換をおこないました。

 十四日の兼題は「冬夕焼」「柊の花」
六十六句の中から入選三句、原石賞二句が選ばれました。

 二十一日の兼題は「クリスマス」「雪(字の詠込)」
六十六句の中から特選一句、入選四句が選ばれました。

 

逢ひたくてまろまろと負ふ冬日かな    恩田侑布子(写俳)

 

◎ 特選
仮名千年語り万年寒昴
             馬場先智明

特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「寒昴」をご覧ください。

クリックしてください
 

○ 入選
 人類に聖なる夜と聖戦と
               小松浩

【恩田侑布子評】

「人類に」と大きく出たあと、作者はキリスト降誕の夜と聖戦とを並べて沈黙します。ボールは読者の胸に投げられました。世界最大の人口を擁するキリスト教は、政治、経済、社会、文化的に、いまも最強の宗教です。教主の降誕祭に老若男女が湧き立ちながら、いわゆる一神教を背景にした「聖戦」は止みません。“正義”の戦いが、国家の名のもとに行われる大量虐殺に他ならないことに胸が痛みます。
 

○ 入選
 クリスマスツリーの蔭や守衛室
               古田秀

【恩田侑布子評】

守衛室は敷地や建物の入り口近くにありながら目立ちません。これはきっと、マンションか大病院のエントランスでしょう。評者も昨日、病院のロビーで聖樹をみました。入院患者さんの願いがあまたの絵馬のように吊られ、まるで冬の七夕竹。電球やトナカイの角が光る聖樹の「蔭」を強調した切れが利いています。赤いサンタの代わりに地味な「守衛」が見守ってくれています。やさしいこころもちから生まれた句です。
 

○ 入選
 猟銃等講習会場泥長靴
               成松聡美

【恩田侑布子評】

東北地方を中心に全国で人間が熊に襲われる惨事が多発しています。その熊の駆除を目的とする猟銃講習会でしょう。一句は、下五の「泥長靴」の止めがものを言っています。人間と熊、人間と自然との太古からの戦いが、恰好も何もあったものではない、「泥長靴」に象徴されました。全漢字表記句は往々にして息苦しく固まったものになりがちですが、「泥長靴」がなまなましくリアルです。
 

○ 入選
 雪華積むフロントグラス小さき首都
               猪狩みき

【恩田侑布子評】

上五の「雪華積む」の措辞から、湿潤な日本のベタ雪とはおよそちがう、パウダースノーを思います。さらさらと微細なガラスか貝殻の粒子のような、妖精めいた雪の結晶でしょう。「フロントガラス」と呼ぶ車の前面を、もとの英語に近い「グラス」としたU音6音の控えめなリズムの中に、異国の落ち着いた首都で過ごしたひとときの愛惜が込められています。句会でエストニアのタリンとわかりました。
 

【後記】
 今年最後のZOOM句会。最後を飾るにふさわしく、スケールの大きな特選句が選ばれ、入選四句もそれぞれに作者の鋭い眼と温かい人柄が感じられるものでした。眩しいなあ。
 自分を振り返ると、選句眼の無さに恥じ入り、類想・類句に凹む一年。
 来年は、買っただけで満足していた句集を、じっくりゆっくり読んで勉強をしようと思います。来年の今頃、少しは成長したと思えるように。

 恩田先生、樸の皆さま今年一年ありがとうございました。
 新しい年が皆様にとって佳い年でありますように。

 (長倉尚世)

(句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)

別るるとうつくしく剥き冬林檎    恩田侑布子(写俳)

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12月14日 樸俳句会
兼題は冬夕焼、柊の花。
入選3句、原石賞2句を紹介します。
 

○ 入選
 凍星や掌にあたたむる聴診器
               小住英之

【恩田侑布子評】

夜間、患者さんの具合が悪くなると、当直医は病室に呼ばれてゆきます。長い廊下の窓に「凍星」がきらめき、思わず胸に提げた聴診器の先をてのひらで温めます。病んでいる人の肌を冷たさで驚かさないよう、温もりが伝わりますように。患者さんの苦しみを一刻も早く和らげ救ってあげたいという医師の真心が溢れます。仏陀の異名が大医王であったことをちょっと思い出しました。
 

○ 入選
 冬夕焼旅びと還す比叡山
               川崎拓音

【恩田侑布子評】

昼間の比叡山は参詣人で大賑わい。観光客に混じってあまたの伽藍を回っていると、冬の日は早くも傾き、冬夕焼が杉木立を透かします。作者は一人の旅人としての下山時、あたりの堂塔伽藍がにわかに森厳な佇まいに鎮まってゆく姿にハッとしました。山岳宗教このかた、天台教学といわれる仏教の総合大学となった千数百年の厳しい参学の歴史が夕闇に沈んでいきます。代々の修行僧に思いを馳せた緊張感ある調べが重厚です。
 

○ 入選
 柊の花こぼれ母七回忌
               岸裕之

【恩田侑布子評】

九十五歳の天寿をまっとうした母を、八十路の息子がしのんでいます。「柊の花」のひそやかさ、かぐわしさ。その花が最も似合うきよらかな冬青空。音もなくこぼれ落ちるミニチュア細工のような白い花に亡き母の面影が通います。生前の肉体のぬくもりが透明になってゆく「七回忌」という年忌に説得力があります。
 

【原石賞】父母のゐる今日のひの冬夕焼
              山本綾子

【恩田侑布子評・添削】

内容は素晴らしい。残念なのは表記の不自然さです。中七は最後の「日」だけを漢字にしましょう。そうすれば、この穏やかな冬の日のかけがえのなさが伝わります。老い衰えてはいるけれど、こうして親子三人で冬夕焼の窓辺に一緒にいられる幸せが胸に迫ります。

【添削例】父母のゐるけふの日の冬夕焼
 

【原石賞】老い母の愛おとろへず冬夕焼
              山本綾子

【恩田侑布子評・添削】

体が衰え記憶力が低下しても、自分を気遣ってくれる母の愛情は冬夕焼のようにしみじみとゆたか。内容がいいだけに、「老い母」という不自然な言葉が違和感を残します。正しくは、「老いし母」か「老母」、あるいは「母老いて」です。ただ、俳句は語法の正しさがすべてではありません。母娘の体じゅうから湧き上がる温もりを削ぐことがないよう、調べに熱い思いをこめ、「おいてはは」にしましょう。

【添削例】老いて母愛おとろへず冬夕焼
 

しゆぽつと起つ卵白の角冬籠  恩田侑布子(写俳)

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