2月11日 句会報告と特選句

平成30年2月11日 樸句会報【第42号】

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                      photo by 侑布子

如月第1回の句会。名古屋と市内から見学の男性お二人が見え、仲間のふえそうなうれしい春の予感です。
特選1句、入選3句、原石賞3句、シルシ5句でした。
兼題は「息白し」と「スケート」です。
特選句、入選句及び最高点句を紹介します。

(◎ 特選 〇 入選 【原】原石 △ 入選とシルシの中間
ゝシルシ ・ シルシと無印の中間)

◎スケートの靴紐きりりすでに鳥
             松井誠司

 (下記、恩田侑布子の特選句鑑賞へ)

                
〇白息を残しランナースタートす
            石原あゆみ

合評では、
「まさに冬のマラソンの情景。選手の意気込みが映し出されている。垢ぬけている句」
「息を残しておきながらランナーはスタートしている。対照の妙がある」
「句の中に短い時間的経過が感じられる。箱根駅伝の復路でしょうか。白息のある場所にもうランナーはいない」
との共感の声がきかれました。
恩田侑布子は、
「発見がある。白息だけがスタート地点に残った。白息を吐いた肉体の主はすでにレースの渦中に飲み込まれた。その瞬間のいのちのふしぎを表現しえた句。ただ句の後半すべてがカタカナになって、ランナーとスタートの境がなくなり緊張感がゆるむのが惜しまれる」
と講評しました。

              
〇群立ちてわれに飛礫や初雀
             西垣 譲

この句を採ったのは恩田侑布子のみ。
恩田は
「作者が歩いてゆくと前方の群れ雀がおどろいて一斉にぱあっと飛び立った。一瞬、つぶてのように感じた。着ぶくれてのんびり歩いている自分に対して「もっときびきび生きよ」という励ましのように感じたのだ。新年になって初めてみる雀たちからいのちのシャワーを浴びた八十路の作者である。このままでも悪くないが“群れ立つてわれに飛礫や初雀”とするとさらに勢が増し、いちだんと臨場感がでるでしょう」
と講評しました。

                 
【原】湯たんぽや三葉虫に似て古し
            久保田利昭

本日の最高点句でした。
合評では、
「西東三鬼の“水枕ガバリと寒い海がある”の句を思い浮かべました。気持ち良く夢の世界に入りこめそう」
「時間が止まったようだ。また人もいないような感じがする。“古し”にアルカイックなものを感じた」
「素直な句。こねくり回しておらず、何の気取りもない」
「湯たんぽを使っているという“自嘲”もあるのでは?」
などの感想、意見が述べられました。
恩田侑布子は、
「感性と把握が素晴らしい。太古の生命の面白さが出ていて、“場外ホームラン”級の発見。ただし“古し”はよくない。芭蕉の言葉“言ひおほせて何かある”(『去来抄』)ですよ。言い過ぎで、意味の世界に引き戻してしまった。感性の世界のままでいてほしいのです。句は形容詞からそれこそ“古びて”いくのです」
と講評し、次のように添削しました。

 三葉虫めく湯たんぽと寝まりけり
または
 湯たんぽの三葉虫と共寝かな

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                      photo by 侑布子

      
〇重心の定まらぬ夜と鏡餅
            芹沢雄太郎

合評では、
「定まらない心とどっしりした鏡餅との対比が面白い。“夜と”と並べず“夜や”と切ったらどうでしょう?」
「句から若さを感じました」
との感想がありました。
恩田侑布子は、
「自己の不安定さとどっしりと座った鏡餅との対比。“青春詠”のよさがある。“と”だから、揺れながら生きている実感がある。この不安感はみずみずしい。夜の闇のなかに鏡餅のほのぼのとした白さが浮き立つ。うつくしい頼りなさ。作者のこれからの可能性に期待するところ大です」
と講評しました。

        
投句の講評の中で、今回の兼題について例句の紹介と鑑賞が恩田侑布子からありました。

 息白くはじまる源氏物語
            恩田侑布子

 この亀裂白息をもて飛べと云ふ
            恩田侑布子

 スケート場沃度丁幾の壜がある
             山口誓子

 スケートの濡れ刃携へ人妻よ
             鷹羽狩行

    
[後記]
今年から始まった日曜句会の2回目です。新しい参加者を迎え、新鮮な解釈が聴かれました。
次回兼題は「春炬燵」と「寒明け」。春の季語です。(山本正幸)

※ 恩田侑布子は昨年の芸術選奨と現代俳句協会賞に続いて、この度第9回桂信子賞を受賞しました。1月28日の“柿衛文庫”における記念講演が好評を博し、4月8日に東京でアンコール講演が予定されています。
追ってHP上でお知らせします。

20180211 句会報 特選句
                     photo by 侑布子

               

特選

  スケートの靴紐きりりすでに鳥 
                 松井誠司

 フィギュアスケーターは氷上で鳥になる。まさに重力の桎梏を感じさせないジャンプと回転。それはスケート靴のひもをきりりと結んだ瞬間に約束されるという。白銀の世界にはばたく鳥の舞。その美しさを想像させてあますところがない。「すでに鳥」とした掉尾の着地が見事である。折しも冬季オリンピックの前夜。作者のふるさとは信州で、下駄スキーに励んだという。土俗的なスキー体験がかくもスマートな俳句になるとは驚かされる。体験の裏付けは句に力を与える。
   (選句・鑑賞  恩田侑布子)

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