樸(あらき)俳句会 のすべての投稿

静岡を拠点とする、樸(あらき)俳句会です!

あらき歳時記 茅花流し

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2023年5月7日 樸句会特選句  父母は茅花流しの向かう岸                    活洲みな子  土手や河川敷のそこここに茅花が群生し吹き靡いている。そんな大空の下を歩くと、胸の中の思いも広がってゆく。湿気っぽい南風に空も薄曇り、いつか亡き父母のことを思っている。幼かった日、茅花も卯の花も、名前など何も知らないみどりの野山に親に連れられて遊び呆けたっけ。茅花はほほけて銀色のひかりをすでに白く濁らせている。彼岸に行ってしまった両親との間に水量を増した川が流れている。座五の「向かう岸」を発見したことで、詩的真実が生き物のようにやどった。                         (選 ・鑑賞   恩田侑布子)

あらき歳時記 柏餅

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2023年5月7日 樸句会特選句  紙兜脱ぎて休戦柏餅                    上村正明  「脱ぎて休戦」がかわいい。柏餅もやわらかで、とびっきり美味しそうだ。「紙兜」は新聞紙なのか、大判広告のカラフルな紙なのか。いずれにしても、小さな色紙ではなく、大きな紙で初めて頭にかぶれる兜を親と一緒に作った喜びが溢れている。なんと平和な微笑ましい家族だろう。                         (選 ・鑑賞   恩田侑布子)

4月2日 句会報告

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2023年4月2日 樸句会報 【第127号】  新型コロナウイルスの流行以来、夏雲システムやZoomを駆使してリモートで会の継続を図ってきた樸ですが、4月1回目の句会はついにみんなで吟行することが叶いました。静岡駅に集合し藁科川をさかのぼること45分ほど、山峡の大川エリアでの吟行です。坂ノ上の薬師堂や、茶畑の上をそよぐ栃沢のしだれ桜、さらに山奥へ行き春椎茸の榾場や山葵園を見学しました。その土地と直に心を交わすような季語体験はもちろん、こだわりの十割蕎麦や「深澤清馥」というお茶の奥深い味わい、夕食の山菜御膳や焼き椎茸など食事も素敵で、目も耳も舌も大満足の会となりました。  特選5句、入選3句を紹介します。         ◎ 特選  在の春啜る十割蕎麦固め            海野二美 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「春」をご覧ください。             ↑         クリックしてください       ◎ 特選  お薬師様見下ろす村に花吹雪            海野二美 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「花吹雪」をご覧ください。             ↑         クリックしてください       ◎ 特選  しめ縄の低き鳥居に春の風            猪狩みき 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「春の風」をご覧ください。             ↑         クリックしてください       ◎ 特選  うぐひすや渦を幾重に木魚の目            古田秀 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「鶯」をご覧ください。             ↑         クリックしてください       ◎ 特選  花朧坂の上なる目の薬師            天野智美 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「花朧」をご覧ください。             ↑         クリックしてください       ○入選  菜の花や家々ささふ野面積                前島裕子 【恩田侑布子評】  飯田龍太は、「傾斜がきついのか、石垣を積んで平地を確保しなければ家が建たない」小黒坂に住み、「俳句は野面積の石垣に似ている」と看破した。野面積みは国土の七割が山間地のわが国になくてはならない擁壁と地固めの伝統技法である。作者は「菜の花や」と、まどかなひかりの黄色を画面いちめんに散りばめて、石工の力量だけで自然石を積み上げる工法こそ「家々」を支えているのだという。発想、表現ともに手堅い俳句だ。       ○入選  御仏のかひなのうちや花万朶                益田隆久 【恩田侑布子評】  花が咲き満ちると誰れしもそぞろに花の木に惹かれてゆく。大枝垂れ桜が天を覆えば、ことのほかの光景。栃沢吟行会での作者は、ほかの人が山葵沢や春椎茸のホダ場へ散策に行く間も、じっと大枝垂れ桜の下に腰を据えて、時を忘れたように句帳を広げていた。きっと「御仏のかひなのうち」に抱かれていたのだろう。法悦に近い陶酔美がある。       ○入選  なけなしの春子守りて犬吠ゆる                岸裕之 【恩田侑布子評】  一週間前にはびっしりと春椎茸がホダ木についていたのに、吟行当日は収穫後の原木が虚脱したように林立するばかり。目をさらにして探すと、ホダ場の隅に小さな春子がかろうじて幾つか見つかった。それを「なけなしの春子」といったのが愉快。がっかりしたわたしたちは、番犬にまで吠えられた。飼い主に忠実に躾られた犬は一見さんをドロボー扱いしたのだった。作者は「小唄」の名取りでもある乙な趣味人。滑稽味が躍如としている。       【後記】  今回は特選が5句も出るという豊穣な句会でした。何よりも、日ごろは画面越しの皆さんと同じ場所を歩き、それぞれに自然と出会い句作する体験は非常に楽しいものでした。また、吟行はその場で上手く作れなくても、後から思い返してふいに良い句ができることもあります。今回で言えば山里の清浄な空気の中で感じたものが、言語化される前の層として無意識の中に堆積していくのでしょうか。早くも次回が楽しみです。 (古田秀) (句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です) ==================== 4月16日 樸俳句会 兼題は「蜃気楼」「海雲」「竹の秋」です。 入選2句、原石賞4句を紹介します。       ○入選  燕来るシャッター開かぬ時計店                益田隆久 【恩田侑布子評】  どこもかしこも、日本の地方の駅周辺はシャッター街になりました。まさに衰退国家の現代詠です。昔は店内のたくさんの時計と燕が同時に時を刻んでいたのに、もう、時計店はシャッターさえ開きません。       ○入選  酢もづくの小鉢に海の遠さかな                小松浩 【恩田侑布子評】  目の前の「もづく酢」を「小鉢」まで焦点を絞って、手のひらに乗るかわいいサイズにしておいて、一挙に「海」の大きさと「遠さ」、遥かな感じがくるところ、対比の効いた巧みな空間構成です。しかも、うそいつわりのない実感に打たれます。長らく海辺で遊びくつろいだことのない、日々の労働に疲れた肉体の影を感じます。       【原石賞】天金に乱の付箋や夕桜                田中泥炭 【恩田侑布子評・添削】  天金の書に、付箋を何枚も斜めに貼ったところを「乱の付箋」としたところ、黒澤明監督の「乱」ではありませんが戦を連想してしまい、「夕桜」のもったりとした本意とずれます。「乱」ではなく「乱るゝ」と和語にし、季語もひらがなで柔らかくしたほうが、この句の元々もっていた唯美空間が生き生きと呼吸を始めます。   【添削例】天金に乱るゝ付箋夕ざくら       【原石賞】回覧板一軒飛ばす竹の秋                島田淳 【恩田侑布子評・添削】  実感はあります。でも、なぜという疑問が残りませんか。人は住んでいるけれど何か理由があって飛ばしたのか。それとも住んでいた方が、老人施設に入られたか、亡くなられたからか。とにかく「一軒」では曖昧すぎます。すっきり「空家」にすると、元の句のスピード感がよりイキイキして、竹の秋のへんに明るい空虚感が引き立ちます。   【添削例】回覧板空家を飛ばす竹の秋        【原石賞】もずく酢や昭和を生きし老ひ未いまだ                上村正明 【恩田侑布子評・添削】  誰にも読める漢字にルビを振るのはご法度です。「老ひ」は間違い。「老い」です。でも、内容は面白い角度から攻めています。ただ助詞一字で句を殺してしまいました。「し」の過去形だとヨボヨボなのに強がっているようにみえます。「て」にすれば、途端に季語の「もずく酢」が生きてくるから不思議です。   【添削例】もづく酢や昭和を生きて老い未だ       【原石賞】沢登り桃源郷あり幣辛夷しでこぶし                林彰 【恩田侑布子評・添削】  桃源郷を恋う句は世に多くありますが、蕪村の「桃源の路次の細さよ冬籠り」のように消極的な姿勢の句がほとんどです。これは「幣辛夷」の可憐でいながら清烈な春先の空気感をよく受けとめています。そこに今まで見たこともないアクティブな桃源郷への恋歌が生まれました。新味があります。   【添削例】しでこぶし桃源郷へ沢登り      

あらき歳時記 花朧

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2023年4月2日 樸句会特選句  花朧坂の上なる目の薬師                    天野智美  花がぼうっと朧にかすむ夕べ、石段を一つ一つお堂まで上ってゆく。坂を上れば、目の病に霊験あらたかなお薬師様が薬壺を掲げて待っていてくださる。嘱目の吟行句とは思えない完成度である。ひとえに「花朧」の季語の斡旋が手柄。これがもし、実際に訪れた「花の昼」であったら、とたんに一句はぼやけた。「花朧」だからこそ、眼病がこれ以上進まないようにと祈る切実さが伝わる。季語が作者の詩的真実になっている。                         (選 ・鑑賞   恩田侑布子)

あらき歳時記 鶯

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2023年4月2日 樸句会特選句  うぐひすや渦を幾重に木魚の目                    古田秀  「うぐひす」の声が辺りにこだまする。手元には丸いゴロンとした「木魚」がある。視線は木彫りの目に吸われる。「渦を幾重に」が上手い。聴覚と視覚をつなぐ中七が螺旋階めいて渦巻き、上昇し、下降する面白さ。艶やかな春告鳥の声は、山寺の密かさと春昼の不思議さを深めている。                         (選 ・鑑賞   恩田侑布子)

あらき歳時記 春の風

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2023年4月2日 樸句会特選句  しめ縄の低き鳥居に春の風                    猪狩みき  田舎に行くと、子どもの丈ほどの鳥居もあれば、貫の高さはあっても、しめ縄が低く垂れて結ばれている鳥居もある。どちらも頭を低くしなければ通れない。そこに自ずと父祖からわたしたちが受け継いできた産土神との穏やかなかかわりの姿がある。身を低めてくぐるゆかしさは、信仰というより習俗の懐かしさだ。吹いているのは、秋風でも北風でもない。温かな「春の風」である。作者は吟行地でいちばん最初に肉眼が捉えた奥藁科の鳥居から、列島に住みなす津々浦々の同胞の普遍的な心性を掬い上げたのである。                         (選 ・鑑賞   恩田侑布子)

あらき歳時記 花吹雪

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2023年4月2日 樸句会特選句  お薬師様見下ろす村に花吹雪                    海野二美  「銀の匙」で有名な中勘助が戦中疎開した服織村(現・羽鳥)から、藁科川を車で遡ること三十分。茶畑の広がる坂ノ上に薬師堂がある。急な石段の上には平安時代の一木造りの小柄な諸仏がひしめき、中央には金色の薬師如来が安座されている。いつの頃よりか、近在の目を病むものは、「め」の字を半紙に書いて、お薬師様に眼病封じの奉納をするようになった。おりしも、みはるかす足下の土手には花吹雪が鱗粉のように流れている。川沿いに細々と広がる村を見下ろす薬師如来の慈眼は、そのまま作者の童画タッチのやさしさになっている。                         (選 ・鑑賞   恩田侑布子)

あらき歳時記 春

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2023年4月2日 樸句会特選句  在の春啜る十割蕎麦固め                    海野二美  奥しずと呼ばれる藁科川上流の山間地「坂ノ上」に、蕎麦の手打ちを生き甲斐とするがんこ親父がいる。種蒔きから収穫、蕎麦の実の天日干しまで、万事一人で完遂する。店は完全予約制。築百二十年の真っ黒な梁の下に、塩を振るだけで美味しい野趣溢れる蕎麦が供される。黒々とした香り高い十割蕎麦である。句頭の「在の春」が川上の小さな村を端的に想像させ、句末の「蕎麦固め」と響き合う。稲作の出来ぬ谷間に生きてきた人々の無骨さ実直さが、「十割蕎麦」の噛みごたえに思えてくる。行きて帰る心の味はいの上五がなんとも健やか。                         (選 ・鑑賞   恩田侑布子)