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あらき歳時記 神の留守

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2022年11月23日 樸句会特選句  成田屋のにらみきまりし神の留守                     前島裕子  十一月七日、大名跡の十三代目襲名披露興行において、市川團十郎は伝来のお家芸「にらみ」で観客の厄落としをし、満場を唸らせたという。歌舞伎ではふつう見得といわれる芸だが、成田屋お家芸の「にらみ」は、東洲斎写楽の大首絵のような寄り目の独特の表情だ。それが「神の留守」という季語と思いがけないドッキングを果たして、文字通り見事に「きま」った。なんと賑々しく豪奢な神の留守であることか。                         (選 ・鑑賞   恩田侑布子)

恩田侑布子第五句集『はだかむし』上梓のお知らせ

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 樸俳句会代表・恩田侑布子の第五句集『はだかむし』がこのほど、角川書店より刊行されました。奥付にある初版刊行日11月7日は久保田万太郎の誕生日、生誕133年の節目にあたります。この句集は、恩田が深く敬愛する万太郎へのオマージュでもあるのでしょう。  第四句集『夢洗ひ』(芸術選奨文部科学大臣賞受賞)から6年。2016年夏から2022年春までの作品から、371句を自選したものです。後半期のほとんどはコロナ禍ですが、恩田はこの間、自ら「天空の書斎」と呼ぶ自然豊かな自宅周辺を歩き、水音を聞きながら句作や選句にはげんだといいます。いくつもの川、石河原、小瀧、岩場。多くの俳句が「こうして水ほとりに生まれた」(あとがきより)のでした。  自然と一体化し、日本文学の美しさを潤いある言葉に溶かしこむ恩田の感性は、  足もとのどこも斜めよ野に遊ぶ  たましひの片割ならむ夜の桃  よく枯れてかがやく空となりにけり などの掲載句にも表れています。また、フランスや中国への旅を踏まえた  ブロンズの冬日セーヌに置いて去る  星屑に吊られてありぬハンモック などの海外詠、ロシアのウクライナ侵攻を受けた  筍であれよ砲弾保育所に といった戦争詠にも、その温かな人となりや、豊かで鋭い想像力がうかがえます。  句集名は、中国前漢の『大戴礼記(だたいらいき)』に拠りました。恩田によれば、はだかむしとは、毛も羽もない素っ裸の虫、それも陰陽のまじりけのない精を受けて生まれる人間のことだといいます。  うちよするするがのくにのはだかむし が末尾にあります。  恩田は今年4月、春秋社から『渾沌の恋人ラマン 北斎の波、芭蕉の興』を出版し、各紙誌の書評で高い評価を受けました。それに続く今年2冊目の著書が、この第五句集です。句作に、指導に、講演に、著書出版にと、ますます旺盛なエネルギーをみせる恩田の魅力がいっぱい詰まった句集『はだかむし』。ぜひお手にとってお読みください。 (樸編集長 小松浩)

恩田侑布子代表講演「『渾沌の恋人ラマン 北斎の波、芭蕉の興』より、名句そぞろ歩き (10/29)」を聴いて

講演感想_前島さん

樸会員 前島裕子、島田淳の聴講記    北斎の画中の人になりかわって 十月二十九日。延期になっていた現代俳句講座−『渾沌の恋人(ラマン) 北斎の波、芭蕉の興』より、名句そぞろ歩き−に出かけた。 久しぶりの東京、新幹線、山手線、地下鉄、都電と乗りつぎ、ゆいの森あらかわへ。  そしてそこに足を踏み入れたとたん、驚きです。大きな図書館、こういう所はテレビでは見ていましたが実際に入るのは初めて。一階にホール、二階には吉村昭の文学館、エレベーターで三階につくと目の前に現代俳句センターが。天井までの書架に句集がびっしり、俳誌もたくさんある。あわただしく館内を一まわりして会場へ。  「ゆいの森ホール」が会場です。正面の大スクリーンに今日のタイトルが写し出されていた。いよいよ先生の講演が始まり、進行して北斎の話になると、スクリーンに「富嶽三十六景」より、「青山圓座松」「神奈川沖浪裏」「五百らかん寺さざゐどう」が次々大写しになった。おいおい本物はB4サイズよ、両手に持てて、じっくりながめるのがいいのよ。こんなに大きくして持てないよ。 いや待て、これだけ大きければ舟にも乗れる笠をかぶった坊やの後からついていける、欄干にも立てる。これが入れ子、なりかわり、なのか。一人スクリーンの中に入りこんだような不思議な気持ちになりました。 今でもあの三枚の浮世絵の大写しが、目にうかんできます。 また質疑応答のコーナーでは思わず「是非樸に見学にいらして下さい」とさそいたくなる場面もありました。  講演が終わり、聴講できた興奮と充足感。 そこもだけど、ここをもっと聴きたかったというところもありましたが、講演できいたことをふまえ、再度読み、深めていこうと、思いながら帰路につきました。 ありがとうございました。 (前島裕子)   「第46回現代俳句講座」(主催:現代俳句協会)に参加して 今年8月6日の毎日新聞書評欄で、演劇評論家の渡辺保氏は恩田侑布子『渾沌の恋人(ラマン) 北斎の波、芭蕉の興』の書評を、「斬新な日本文化論が現れた」の一文から書き起こしました。そして、著者による名句鑑賞を引いて、「近代の合理的な思考から、日本文化を解放して」「目に見えないものを見、耳に聞こえないものを聞く思想を養う」と述べています。 今回の講演は、日本人の美意識の源流を辿る壮大な物語のエッセンスでした。 主体と客体が「なりかわる」描写、単一の意味でなく多面的な「入れ子構造」、『華厳経』の蓮華蔵世界さながらのフラクタルな世界観。こうした日本人の美意識を、俳句にとどまらず葛飾北斎の浮世絵、近代詩、万葉集から古代中国の「興」へと自由に往還しながら説き明かしていきます。 「興」に淵源を持つ「季語」によって詠み手と受け手の間に共通のイメージが広がり、「切れ」によってそのイメージを自分の現在ある地点に結び付ける。こうした構造がある事によって、俳句はたった十七音で詩として成立するのだと得心できました。 『渾沌の恋人』は、自宅そばの猪の描写から古代中国の『詩経』へなど、現代から一気に過去の時代に跳んだりする場面が多くあります。最初は戸惑いましたが、こうしたタイムワープが可能なのは、おそらく現代は古代と切り離されたものではないからなのでしょう。古代人の感情が現代のわれわれのそれと大きく隔たってはいないからこそ理解可能なのであり、それを仲立ちするのが「興」にルーツを持つ「季語」なのでしょう。言い換えれば、風土に根ざした共同体の共通認識だからこそ、時代を超えて受け継がれていくのだと。 また、古今の名句を声に出して詠むことの素晴らしさ、大切さも再認識しました。「五七五(七七)定型は、日本語の生理に根ざした快美な音数律」とレジュメにありましたが、実際に古今の名句を耳から聴くことでそれを実感することができました。 階段状のホール最上段でも聴きやすい明瞭な発声、落ち着いた抑揚、「切れ」をきちんと意識し微細な緩急のある速度。五音七音の調べに身を委ねる心地よさは、定型の俳句が紛れもなく十七音の詩であることを身体感覚として理解させてくれました。 講演終了後、冒頭に引用した渡辺保氏の「目に見えないものを見、耳に聞こえないものを聞く思想を養う」という文章を思い出しながら、夕暮れの町屋駅前に向かったのでした。 (島田 淳)

全国俳誌協会第4回新人賞授賞式 (10/30)・古田秀 正賞受賞作品十五句

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全国俳誌協会第4回新人賞 授賞式に寄せて 全国俳誌協会第4回新人賞を受賞した樸の古田秀の授賞式が10月30日、東京都内でありました。授賞式には樸代表の恩田侑布子も出席し、多くの俳句関係者らが古田の受賞を祝いました。正賞の古田とともに、準賞、特別賞、選者賞の受賞者七名は、十九歳から三十代後半までの若者で会場は華やかな雰囲気に包まれました。 併せて、「俳誌の現在と未来を語る」シンポジウムも開催されました。登壇者は選者の鴇田智哉氏・堀田季何氏・神野紗希氏に、『俳句』編集長の石川一郎氏、同協会長の秋尾敏氏という豪華メンバーで、「紙」の俳誌の保存性と信頼性の高さを改めて評価する声で一致しました。俳句文庫鳴弦文庫館長でもある秋尾会長に、「恩田さんのところの樸はWeb誌のみでやっていて驚きです。全国で他にそういう会があるでしょうか」と会場で紹介され、喜ぶべきか、悩みました。 『俳壇』・『俳句四季』の編集長に、「芭蕉記念館」館長も来席され、白熱の議論は大いに盛り上がりました。 二次会は田町駅近くの居酒屋に大勢でなだれ込み、高校生をはじめとする若い情熱ある俳句作者たちと忌憚なく俳句談義に花を咲かせ、幸せが倍増しました。改めて、おめでとうございます! (恩田侑布子)   古田秀の正賞受賞作品「大学」15句を掲載いたします。           大学     水差しの影にも水位昼寝覚     さくらんぼ暫し噛まずにゐたりけり     母をらぬ部屋はあかるし髪洗ふ     実験棟から門までの夕立かな     水槽に水平線のなき晩夏     桃の皮ずるりと剥けて夜の汽笛     秋黴雨ひとりにひとつ椅子と窓     消火器の函に錆吹く蜻蛉かな     木は鳥の鳥は木の名を秋の暮     初雪やからからせんべい割れば毬     歌は火の熾るに似たりクリスマス     搭乗を待つまどろみや冬帽子     パブの灯の途切れたるより吹雪の野     焼きそばの焦げかうばしき初詣     大学や焔のごとき冬木の芽 

恩田侑布子講演レポート

(第46回現代俳句講座 10/29 ゆいの森あらかわ)

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演題 『渾沌の恋人ラマン 北斎の波、芭蕉の興』より、名句そぞろ歩き ◇主催:現代俳句協会 共催:荒川区 ◇日時:2022年10月29日(土)13:30~16:45 ◇会場:ゆいの森あらかわ「ゆいの森ホール」 ◇講師:「軸」代表・秋尾 敏、「樸」代表・恩田侑布子  10月29日(土)、東京都荒川区のゆいの森あらかわ・ゆいの森ホールで現代俳句協会主催の第46回現代俳句講座が開かれ、樸俳句会代表・恩田侑布子が「『渾沌の恋人(ラマン) 北斎の波、芭蕉の興』より、名句そぞろ歩き」と題して講演しました。 当初は9月24日の予定が、静岡にも大きな被害をもたらした台風で中止となり、延期されていた講演です。一転して素晴らしい秋晴れとなったこの日は、首都圏を中心に俳句愛好者や恩田ファンらがたくさん聴講し、「俳句は目に見えないもの、耳に聞こえないものに思いをはせる」という恩田のメッセージを心に留める1日となりました。 「興」と「入れ子」という説で日本文学に新たな地平を切り開いた恩田の近著『渾沌の恋人』は、各紙誌の書評で高く評価されていますが、開会挨拶に立った現代俳句協会の中村和弘会長も「日本文学をグローバルな視点で体系的に分析・集約した本であり、感動した。文体が素晴らしく、小説を読むようで思わず引き込まれた」と賛辞を送りました。恩田は、全身を揺さぶられた高校時代の名句との邂逅などに触れながら、「歳はとっても俳句はやまぬ、やまぬはずだよ先がない」の都々逸で会場を笑わせ、なごやかな空気の中で講演は進みました。 近著の内容に沿ったこの日の講演は、芭蕉、蕪村に始まり北斎の浮世絵、中国の詩経、フレーザーの金枝篇、タイラーのアニミズム、ピカソのキュビスムに至るまで、古今東西縦横無尽の視点から文学としての俳句の奥深さを再発見する旅、とでも言うべきものでした。聴き手にとってはまさに豊潤なひとときで、本を読んだ人は著者と俳句の魅力を再確認でき、未読の人は手にとってすぐ読んでみたくなったことでしょう。 とりわけ、恩田が「雲の峯幾つ崩(くづれ)て月の山」をはじめとする芭蕉や蕪村らの名句や若い時から心酔してきた蒲原の詩「茉莉花(まつりか)」を、ゆっくりと歌うように詠みあげる場面では、上質の朗読劇を聴くような心地よさが会場を包みました。俳句を始めて3年になるという聴衆の女性からは「ああ、俳句ってやっぱり詩なんだな、と感動しました」という声が寄せられました。あっという間の1時間余りでした。 恩田に先立って、「軸」主宰の秋尾敏氏が「桜井梅室の系譜—知られざる十九世紀俳句史」をテーマに講演し、軽妙な語り口で楽しませました。 (樸編集長 小松浩)      

恩田侑布子Zoom句会 会員募集。初歩の方、ようこそ!お試し体験、歓迎します。
〜どんなに遠くてもすぐつながれます〜

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恩田侑布子Zoom句会、会員募集。 初歩の方、ようこそ!お試し体験、歓迎します。 〜どんなに遠くてもすぐつながれます〜    今回、zoom句会に力を入れることで、静岡県外の方も参加しやすくなりました。貴方の俳句を恩田侑布子が対面指導、鑑賞します。樸に入会して、自由な合評、俳句談義をステキな仲間とご一緒に楽しみませんか。  樸俳句会は作句・選句・鑑賞にそれぞれ力を入れており、一人ひとりに丁寧な指導を心がけております。ご興味をお持ちの方、是非この機会にお問い合わせ・ご参加ください。 【樸の志】 一人ひとりが足元を大切に、俳句という詩を素心に追求し共感し合い、新たな俳句の潮流を生んでゆく。 【募集要件】 ①パソコンでメール送受信とZoom参加が可能な方。 ②他の結社に所属されていない、もしくは他の指導者に師事しておられない方。 【句会案内】 月2回開催。会費については入会希望のお問い合わせ時にご案内します。 ・Zoom句会:原則第1、第3日曜日13:30〜16:30 (指定ネット上に前日13:30迄に3句投句、当日13:30迄に選句) ・リアル句会または吟行句会:季節ごとに1回開催 (リモートでの参加者は上記に準じ、リアル句会参加者は選句から静岡市葵区会場) ご入会希望者は以下のメールアドレスまでご連絡ください。個人情報は厳守致します。 araki.haiku★gmail.com (★を@に変えてください)

注目の一冊・小川楓子『ことり』

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楓子のみずみずしい感性、無垢の詩性にひそむ人間洞察の鋭さは、いつもやさしい温もりと息を合わせる。現実と俳句をつなぐポエジーの橋は部材からして新しい。鉄やコンクリではない。まだ、誰にも名付けられていない素材、スタイル。現代俳句がこんなにいとしい現代詩であったことが、かつてあっただろうか。 (恩田侑布子)          ↑ クリックすると拡大します  

10月9日 句会報告

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2022年10月9日 樸句会報 【第121号】 今回は樸俳句会にとって2度目のzoom句会でした。初めてzoom句会に挑戦した前回(9月4日)より滑らかに進めることができました。静岡県外や外国の参加者も出入り自由のグローバルなzoom句会、じかに顔を合わせて場の空気感を味わいながら楽しむリアル句会、どちらにも良さがありますね。コロナ禍の思わぬ副産物ではありますが、こうしたハイブリッド型が新しい時代の句会のかたちになっていく中、樸はその先頭に立っているのかもしれません。なんとなく浮き立つそんな気分を反映してか、今回は入選句はない代わりに特選句が3つも出るという、華やぐ会になりました。 兼題は「後の月(十三夜)」「烏瓜」「荻(荻の声・荻の風・荻原)」です。 特選3句を紹介します。 ◎ 特選  しやうがねぇ父の口真似十三夜             見原万智子 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「十三夜」をご覧ください。             ↑         クリックしてください   ◎ 特選  道聞けば暗きを指され烏瓜               古田秀 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「烏瓜」をご覧ください。             ↑         クリックしてください     ◎ 特選  荻の声水面に銀の波紋寄せ              金森三夢 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「荻」をご覧ください。             ↑         クリックしてください         今回の例句が恩田によって紹介されました。     遠ざかりゆく下駄の音十三夜               久保田万太郎    目つむれば蔵王権現後の月                阿波野青畝    麻薬うてば十三夜月遁走す                 石田波郷    掌の温み移れば捨てて烏瓜               岡本眸『冬』    虹の根や暮行くまゝの荻の声         士朗(江戸中期、名古屋の医者)      空山へ板一枚を荻の橋                  原石鼎     【後記】 9月から樸に加えてもらった新参者ですが、千葉県在住にもかかわらずzoomのおかげで既に2度も句会に参加できて、とてもありがたいと思っています。 ずいぶん前のこと、ある雑誌で英国在住のピアニスト内田光子さんが、自分にとっての日本語は『おくのほそ道』が読めさえすれば十分、という趣旨のことをおっしゃっていました。それを読んだ時は、ドイツ語や英語が生活言語となった世界的音楽家が母国語である日本語の調べを芭蕉に聴くなんて、すてきな話だなと思っただけでした。それが、自分も恐る恐る俳句を作り始め、樸の句会に参加することで、内田さんのあの時の言葉がよみがえってきたのです。俳句という韻文が持つ象徴性と、洗練されたピアノの響きには、共通するものがあるということでしょうか。自分の感動を他者に伝えようとする時、それを韻律に乗せる最もふさわしい器、すなわち言葉や音を、俳人も音楽家も命をかけて模索しているのでしょう。俳句を作る人にはあたりまえのことかもしれませんが、たったひとつの文字が句の印象やリズムをがらりと変えてしまうということを、今回の句会で強く感じました。  句会とは、素晴らしいコミュニケーションの場ですね。互いに尊重しあいながら、自分の心の中の思いを率直に吐き出せる貴重な空間を、これからも大事にしていきたいと思います。句会の白熱する討議に夢中で、合評を記す余裕がありませんでした。ここまでお読み頂いた貴方様も、次はぜひ、樸のZoom句会をご体験ください。(小松浩) ...