樸(あらき)俳句会 のすべての投稿

静岡を拠点とする、樸(あらき)俳句会です!

青苔 5句 恩田侑布子

現代俳句 青苔

『現代俳句 』 二〇一九年六月号 五句  青苔       恩田侑布子 『現代俳句』2019年6月号に掲載された恩田侑布子の「青苔」5句をここに転載させていただきます。   青苔      恩田侑布子     淵まつ青生きて忘れしものは何     青苔にはづむや盲蜘蛛の恋     息継ぎのなき狂鴬となりゆくも     立ち入れぬ男心や真菰原     白い便箋ふちは螢にまかせやる

水音 7句 恩田侑布子

水音2

『文藝春秋 』 二〇一九年七月号 七句  水音       恩田侑布子 『文藝春秋』2019年7月号に掲載された恩田侑布子の「水音」7句をここに転載させていただきます。   水音      恩田侑布子       かけ軸は墨の波濤をみどりの夜       死んでから好きになる父母合歓の花      水音の昂まるそびら籠枕      わが恋は天涯を来る瀑布かな     虚空より削ぎ落としたる五月富士     とうすみの息よりかろく汝を訪はむ      瀧しぶき雲深く人尋ねたる

『俳句』『俳壇』1月号と『俳句あるふぁ』冬号に恩田侑布子の俳句が掲載されています。ご高覧頂ければ幸いです。

『俳句』1月号(KADOKAWA)、『俳壇』1月号(本阿弥書店)、『俳句あるふぁ』冬号(毎日新聞出版)の俳句総合誌三誌に恩田侑布子の俳句が掲載されております。ご高覧いただければ幸いです。

12月25日 句会報告

20191225 句会報用上-2

令和元年12月25日 樸句会報【第83号】 本年最後の句会はクリスマスの日。 兼題は「枯野」と「山眠る」です。 入選句と△の句のうち高点2句を紹介します。     ○入選  老教授式典に来ず山眠る               見原万智子 老教授個人を表彰する式ではないにしても、その業績によるところ大の顕彰式典と思われる。ところが、いちばんの功績者が出席されない。体調がいま一歩というのは表向きで、最初から式典など晴れがましいところには出たくないのかもしれない。しかし、教授が一生をかけてきた仕事の成果は冬山のように静かに大きくそこに存在している。「山眠る」という季語が底光りしてわたしたちを見守る。渋い句である。 (恩田侑布子)  合評では 「着想が面白いですね。それだけで頂きました」 「なぜ来られなかったのか考えさせられます。体調が悪かったのか、それとも反骨心から出席を拒否したのか」 「“式典に来ず”と“山眠る”が響き合っています」 「教授の信条と冬の山の雰囲気がよく合っています」 「分かりにくい。老教授が来ないとなぜ“山眠る”なのか?」 「山が見えるところで式典が行われているとすれば、“来ず”でなく“来る”もアリか?」 など共感の言葉や疑問、意見が飛び交いました。 (山本正幸)         △ 山眠る緞帳おもき大広間                田村千春 合評では 「いかにも深い山の静けさが伝わってきます」 「温泉ホテルの舞台の緞帳かな」 「そう、さびれた温泉宿でしょう」 「“おもき”と“山眠る”がとても合っている」 「いや、逆に“緞帳おもき”と“山眠る”はツキ過ぎじゃないですか」 「大広間ではなくもっと広いところ、歌舞伎座のようなところを想像しました」 「場所は田舎で、町内か何かが持っている〇〇会館のホールの緞帳かもしれません」 「緞帳の柄が山ってことですか? この句、どうやって読めばいいのでしょう?」 などの感想、疑問が出されました。 恩田は 「大きなガラス窓から山々が見えている温泉旅館の舞台を思いました。歌舞伎座などの都会ではなく、古い懐かしい光景。新し味はないが、表現が手堅く、しっかり描きとっています」 と講評しました。 (山本正幸)       △ 晦日蕎麦兄の齢をいくつ越し                萩倉 誠 合評では 「年越しそばですね。亡くなったお兄さんを偲んで食べているところ」 「しみじみと兄のことを想っている。仲の良い兄弟を連想しました」 「誰かの歳を越えるというのはよくある表現ではないか。母の歳を越す、父の歳を越す…。陳腐な形だと思う」 「父母ならそうかもしれませんが、ここはお兄さんのことだから親とは違った感慨があるのでは?」 などの感想、少し辛口の意見も述べられました。 恩田は 「年越しの夜にお兄さんの享年を考えている実感が胸に迫ります。でも、Nさんのおっしゃるように、類想は多いですね」 と講評しました。 (山本正幸)           投句の合評・講評の前に、芭蕉の『野ざらし紀行』を読み進めました。   伏見西岸寺任口上人(さいがんじにんこうしやうにん)にあふ((う))て  我(わが)衣(きぬ)にふしみの桃の雫(しづく)せよ     大津に出(いづ)る道、山路(やまぢ)を越(こえ)て  やま路(ぢ)來てなにやらゆかしすみれ草 恩田から 「『野ざらし紀行』には芭蕉のエッセンスが入っています。伏見の句は調べが美しく、挨拶句として鮮度が高い。“すみれ草”の句はひとつの冒険句です。それまでの和歌では“野のすみれ”を詠む伝統がありましたが、芭蕉は山道のすみれを詠んだ。“歌の道を知らない奴だ” との批判もありましたが、芭蕉は手垢のついた野のすみれではなく、ひとの振り向かない山路のすみれにこころを惹かれたのです。蕉風確立寸前の句ですね。平易、平明な措辞は“道のべの木槿は馬に食はれけり”と並んで『野ざらし紀行』中の秀逸と評する人もいます」との解説がありました。       注目の句集として、小林貴子『黄金分割』(2019年10月 朔出版)。 このなかから、帯より十句と恩田が抄出した十句が紹介されました。 連衆の共感を集めたのは次の句です  学僧の音なき歩み春障子  花びらを掬ひこぼしてまた迷ふ  大阪の夜のコテコテの氷菓かな  岩塩は骨色冬は厳しきか  月今宵土偶は子供生みたさう       [後記] 平成から令和にかわった年の暮の句会は議論沸騰、散会は午後5時となりました。 今年も和気藹藹、盛り上がった一年でした。風通し良く、自由に発言できるのは樸俳句会の真骨頂と思います。 筆者にとっては、実体験に基づいた俳句には力があるということを再認識した年となりました。アタマで作った俳句はことごとく恩田代表の選から落ちたのです。たとえ実体験を伴わなくとも「詩的真実」があれば選に入るのでしょうが・・・。まだまだ道遠しです。 次回兼題は、「初」と「新年の季語」です。 樸ホームページをご高覧いただいた皆様、本年もありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。 (山本正幸)  今回は、○入選1句、△6句、ゝシルシ6句でした。 (句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)

12月8日 句会報告

20191208 句会報1

令和元年12月8日 樸句会報【第82号】 12月最初の句会。兼題は「冬の月」と「鰤」です。 入選4句と原石賞2句を紹介します。 ○入選  鰤さばく迷ひなき手に漁の傷               見原万智子 大きな鰤をなんのためらいもなく手馴れた手順で三枚に下ろしてゆく漁師。包丁さばきの手を追っていて、ハッとした。肉の盛り上がった大きなキズ痕があるのだ。胸を衝かれた瞬間のこころの動きがそのまま五七五の措辞の運びになった。調べも潔い。逃げ隠れできない一つ甲板の上で来る日も来る日も大海原と対峙する漁業。荒々しい労働の過酷さが、句末の一字「傷」に刻印され、雄々しい海の男が堂々と立ち上がって来る。(恩田侑布子) 今回の最高点句でした。 合評では、「漁師の姿が浮かんでくる」「屋外で露骨に作業している光景。潔く、小気味よく包丁が動いている」「“傷”より“疵”にしたほうが良いのでは?」「いや、“疵”だと文学趣味的になってしまう」 などの感想・意見がありました。(芹沢雄太郎)     ○入選  短日の切株に腰おろしけり               芹沢雄太郎   やれやれと切株に腰を下ろして息をつくと、ふっと冷たい気配を背中に感じた。この前まで木が広げていた葉叢はあとかたもなく、頭上はすーすーの冬空である。日はすでに西に傾き、夕刻まで幾ばくもない。いのちを断たれた木に座って疲れを癒やしている自分はいったい誰れなのか。切株になるのは木ばかりではないぞと、そぞろに思われてきたのである。  (恩田侑布子)     ○入選     多磨全生園  寒林を隔て車道のさんざめき                天野智美   東京都東村山市にあるハンセン病患者を収容する施設の奥はだだっ広い寒林であった。冬木の林を隔てて、車がひっきりなしにゆきかう車道と色とりどりの町並みがある。かつて病人を「らい病」と呼んで虐げ差別した長い歳月があった。痛恨の歴史をうち忘れたような消費社会の世俗の賑わいを「さんざめき」と捉えた感性がいい。〈望郷の丘てふ盛土冬の月〉も対の句。言葉をうばわれた人々のかけがえない歳月に思いを寄せる智美さんの共感能力に敬服する。 (恩田侑布子)   恩田だけが採った句でした。     ○入選  立読める安吾の文庫開戦日                山本正幸   坂口安吾は終戦直後の『堕落論』で一躍有名になった無頼派作家。これはエッセー「人間喜劇」にある世界単一国家の夢かもしれない。七十八年前の今日、大東亜戦争という名のもとに狂気の戦争を自らおっぱじめた日本。作者は書店の文庫コーナーでささっと斜め読みして間もなく立ち去る。開戦日であることの痛恨をこの店内のだれが思っているだろうか。 (恩田侑布子) 合評では、「安吾が好きなので採りました。文学的に反戦を表している」「本屋での光景が浮かびました」「“立読める”という気楽な表現が良い」など様々な感想、意見が飛び交いました。  (芹沢雄太郎)       【原】アフガンの地に冬の月如何に照る               樋口千鶴子 中村哲さん(一九四六年〜二〇一九年十二月四日)の非業の死は、遠い巨大な地震の報のように内心を震撼させた。だれも真似の出来ない四〇年の菩薩行は銃弾をもって贖われた。純粋な善行が凶刃に嘲笑われる二一世紀になってゆくのだろうか。千鶴子さんのまっすぐな気持ちが下五の「如何に照る」にこめられた。切なくなる。有季の俳句は季語に感情が託せるといい。 【改】如何に照るアフガンの地や冬の月 こうすると、白い寒月が荒漠の地にかかる。冬の月が語りだすのである。 (恩田侑布子) 合評では、「中村哲さんの時事句、追悼句として、怒りや悲しみが伝わってくる」などの意見があがりました。 (芹沢雄太郎)     【原】もう逢へぬ寒月射せる白き額                山本正幸 当「樸」は恋句を詠む人が多くてうれしい。百になっても臆することなくつくってほしい。恋は感情の華だから。ところでこの句は、寒月の下での忘れ得ぬ別れ。原句のままだと中七のリズムがもたつきやや説明的。 【改】もう逢へぬなり寒月の白き額 こうすると、いとしいひとの白い額が寒月光に浮かぶ。いま、わたしのてのひらを待つかのように。  (恩田侑布子)     今回の兼題についての例句が恩田によって板書されました。  同じ湯にしづみて寒の月明り                飯田龍太  石山の石のみ高し冬の月                巌谷小波  酔へば酔語いよいよ尖る冬の月                楠本憲吉  蒼天に立山のぞく鰤起し                加藤春彦  鰤裂きし刃もて吹雪の沖を指す                木内彰志  寒鰤は虹一筋を身にかざる                山口青邨     注目の句集として、堤保徳『姥百合の実 』(2019年9月 現代俳句協会) から恩田が抽出した二十一句が紹介されました。 連衆の共感を集めたのは次の句です。  燈台はいつも青年月見草  胸の火に窯の火応ふ冬北斗  月光や男盛りのごと冬木  吾に息合はす土偶や桜の夜  死してより遊ぶ琥珀の中の蟻 堤保徳『姥百合の実 』からの抽出句については こちら [後記] 今回は11名の連衆が集まりました。その中に注目の句集の堤さんとの知り合いがおり、お話を聞くことで句の背景が鮮やかになった気がしました。句の鑑賞では、作者のバックグラウンドをどこまで想像できるかも重要だと感じました。また、今回の入選句で多磨全生園を訪れた際の句がありましたが、その句の作者は自身の社会的関心に基づいて実際の地を訪れ、句にするということをよく行っており、作者の行動力と、それによって生まれる句の力強さに驚かされます。人間が社会的・歴史的存在である以上、日常詠だけでなく、そういった句も積極的に詠んで行きたいと考えさせられました。 (芹沢雄太郎) 次回兼題は、「山眠る」と「枯野」です。 今回は、○入選4句、原石賞2句、△8句、ゝシルシ6句、・3句でした。 (句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)