「あらき歳時記」カテゴリーアーカイブ

樸の佳句を、季節のうつろいにあわせた並び順で鑑賞していきます。世界を胸いっぱい呼吸し、また感じながら散歩するように、楽しんでいただけましたら幸いです。

あらき歳時記 日雷

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2021年7月4日 樸句会特選句     言はざるの見ひらくまなこ日雷                         古田秀   見ざる聞かざる言わざるの一つです。日光東照宮が有名ですが、いたるところに石彫や木彫りがみられます。言猿の眼に、日雷を取合せた斬新さ。「見ひらくまなこ」で一句が大きなふくらみを持ちました。つまらないことは言わない。しかし、この猿はしかと見ています。認識はたしかです。そこに晴天に鳴る雷。さまざまなことを想像させます。国内ならコロナ禍に開催するオリンピック。海外なら香港の言論弾圧。パレスチナの幼子たちまで犠牲にする戦火…。リズム上も 「ザル」と「ヒガミナリ」の濁音が効果的な一種の迫力を生み、重量感をもたらします。「言え」「いいなさい」とはたた神がうながすかのようです。                       (選 ・鑑賞   恩田侑布子)  

あらき歳時記 茅の輪

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2021年7月4日 樸句会特選句     一列に緋袴くぐる茅の輪かな                         島田 淳   巫女さんが一列に次々茅の輪をくぐってゆく。鮮烈な絵画美。無駄なことをいわない潔い句。調べもI音の頭韻が歯切れよく、しかも中七の「緋袴」のA音は岩菲が花ひらくかの印象。うら若い巫女さんたちの白と緋の装束からなる澄んだ衣擦れを感じさせます。                       (選 ・鑑賞   恩田侑布子)  

あらき歳時記 半夏生

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2021年7月4日 樸句会特選句     八橋にかかるしらなみ半夏生                         前島裕子   八橋の架かるしずかな池畔に半夏生の群生が白波のようにそよいで涼しげ。「しらなみ」とひらがなにした表記のやさしさ。業平の東下りのむかしもそぞろに思わせます。すべては過ぎてゆくのだと思いつつ、そこにウエットな感傷はありません。ただ淡々と盛夏のまひるを涼しく眺めています。句姿うつくしく、造形力たしかな秀句です。                       (選 ・鑑賞   恩田侑布子)  

あらき歳時記 薄暑

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  2021年5月9日 樸句会特選句     ぷしゆるしゆるプルトップ開く街薄暑                        萩倉  誠   「ぷしゆるしゆる」のオノマトペが抜群の効果を上げています。街路樹はポプラでしょうか。梧桐でしょうか。目路のはてまで若葉がきらきらし、吹きわたる風もここちよいです。この句は内容とリズムが相乗効果を織りなします。九つのU音に、ラ行の「る」が三たび回転するリズミカルな音楽性は、自販機で炭酸飲料を買ってアルミのプルトップを引く軽快感であり、はつ夏のいきおいそのものです。若い身空の単独行でしょう。自由な気分が薄暑の街にはじけます。                       (選 ・鑑賞   恩田侑布子)  

あらき歳時記 薫風

腕白が

  2021年5月9日 樸句会特選句     腕白が薫風となる滑り台                          前島裕子     二歳くらいの腕白っ子がおすべりの上からいま一人で滑り降りてきます。ちょっと恥ずかしそうな得意そうな笑顔。つい昨日まではうしろから両脇を抱いてやっと降りてきたのに。初めて自分で上がり、自分ですべって来ます。二回目ときたらもう颯爽と。「おお、やったね」と下から見守り見上げた瞬間、子どもが若葉を揺らして吹き渡る風の精になっていることにハッとしたのです。この子こそ薫風なんだわ。世代交代の歓喜の声です。幼児との神話的一日を活写した俳句。                   (選 ・鑑賞   恩田侑布子)

あらき歳時記 新樹

めくるめく

  2021年5月9日 樸句会特選句     めくるめく十七文字新樹光                         前島裕子   俳句を学ぶよろこびがあふれています。前回樸俳句会で紹介した阿波野青畝の名句〈手帖みな十七字詩や囀れり〉の句を換骨奪胎し、自分自身にひきつけて詠んでいます。わずか十七文字にすぎない俳句なのに、探求をはじめると、奥へ奥へと興味が広がり、めくるめく思いがします。俳句も自分もまるで新樹のように感じられます。新樹の枝枝のひかりを仰いだ感動がまっすぐにわが句づくりの日々に重なり、まばゆいばかり。みごとな俳句賛歌です。         (選 ・鑑賞   恩田侑布子)  

あらき歳時記 目刺

20210307あらき歳時記

    2021年3月7日 樸句会特選句     目刺焼くうからやからを遠ざかり                   見原万智子   うからは親族、やからは族です。作者は、すべての血縁者やともがらから「遠ざかり」、いま、たった一人で目刺を焼いています。脂の乗った目刺のじゅわっと焦げるいい匂い。大海で生きてきたかわいい目刺を皿に載せ、ふと向き合います。そのアッツアツをほおばるとき、腸の苦味はわが腸にまでしみわたります。目刺が作者の孤独と一つになる瞬間です。さりながら句のリズムはさっぱりとして胃にもたれません。春昼の一人の醍醐味がここにあります。                (選 ・鑑賞   恩田侑布子)  

あらき歳時記 霜夜

霜の夜

    2021年1月27日 樸句会特選句    レコードのざらつき微か霜の夜                   萩倉  誠  レコードの人気が再来しています。大きな紙のジャケットの薄紙のなかから取り出し、埃のないのを確認しておもむろに針を乗せます。やわらかで芳純な演奏が始まります。ときおり交じる雑音。針の飛び。それらをひっくるめた「レコードのざらつき微か」が、失われた、しかしかつて確かにあった時間を蘇らせます。音色のもつやわらかな空気感が霜の夜のしじまに韻きます。芸術を愛する繊細な感性の匂いたつ俳句です。            (選 ・鑑賞   恩田侑布子)