「句会報告」カテゴリーアーカイブ

6月3日 句会報告

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6月1回目の句会が行われました。 今回の兼題は「冷房・鯵(あじ)」というユニークな取り合わせでした。 両題とも生活に即したもののため、作句しやすそうですが、裏を返せば短絡的にもなりがち…なかなか手ごわい季語です。 まずは今回の高得点句から。 鯵焼いて小津の映画のなかにゐる            山本正幸 「鯵を焼きながら小津映画を思い出し、優しい気持ちになっている作者が思い浮かぶ」 「映画に入り込んでいるというところが面白い」という意見がありました。 恩田侑布子からはこの句について次のような指摘がありました。 「発想はいいし、これが連句の平句であれば、分かりやすく展開が楽しみなものになる。が、“俳句”なので、切れがほしい。」 “切れ”が最大限活用された名句として、中村草田男の  「松籟や/百日の夏来たりけり/」 などを例句として挙げられました。 続いて、今回の句会で話題に上がった句です。 鈴蘭や背中合わせに過ぎしこと            松井誠司 「蘭の花の群生は確かにそれぞれ視線はちぐはぐで、その様子を『背中合わせ』と表現したことが面白い」という意見が多く出ました。 その背中合わせの様子を「若い男女のデートの待ち合わせ風景」と感じた方や、「背中の丸まった老夫婦」と感じた方もいました。 恩田侑布子は、 「最後の『過ぎしこと』の“こと”がどうにかなると特選句。亡くなった妻を偲ぶ句でしょう。 楽しく幸せだったはずの月日を、忙しくて背中合わせに過ごしてしまった。もっとたくさん触れ合えばよかったのに。 もっと心を受け止めてあげられればよかったのに。時間が悠久と思えた時代の懐かしさと切なさを感じた」 と、鑑賞を寄せました。 次回の兼題は「サングラス」「夏の夕(夏夕べ)」です。 これまた生活に根差した兼題ですが、見たままを再現するだけの句にならないよう、気を付けながら作句したいと思います。 (山田とも恵)

6月3日 句会 特選句鑑賞

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六月の第一回目の句会が行われました^^ 今回の特選句をご紹介いたします。なんとも美味しそうな、元気の出る作品です!  なお以下の写真は、恩田侑布子の手作りの、新茶と雪の下の天ぷらです。新茶の天ぷらとは、いかにも静岡らしいですね^^(大井佐久矢) 特選    鯵刺身五島列島育ちかな              原木栖苑    真鯵とか室鯵という魚そのものではなく、調理され食卓に供された「鯵刺身」だから成功した句。まず上五で、皿に盛り付けられた薄い銀色ののこる新鮮な鯵の刺身の映像がうかぶ。次いで、五島列島の島々をとりまく青海原も思い浮かぶ。ところが、座五に逆襲が待っている。「育ちかな」と、まるで海の男、あらあらしい野生児のような言い方で、この刺身のイキのよさを讃えて終わるのである。芭蕉の「行て帰る心の味也」で、初句に帰れば、人間も鯵も生まれて死んでゆく、同じ土俵だよと、作者の腹の据わりぶりがこころ憎い。まさにイキのいい俳句。          (選句・鑑賞 恩田侑布子)

5月20日 句会報告と特選句

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5月2回目の句会が行われました。 兼題は「夏に入る」と「春季の花(春の季語の花ならなんでもOK)」でした。 春を迎えた頃の句会でも思いましたが、季節の変わり目の句は特に感性から滴るような句が多いように感じ、披講(作品を読み上げること)を聞くのがいつも以上にワクワクします。 以下は、今回の高得点句と、話題作の二句についてのレポートです。 バゲットのやうな二の腕夏来たる             山本正幸 この「バゲットのような二の腕」については、子育て真っ最中の立派な二の腕を持ったお母さんという人物像をイメージする人もいれば、「バゲット=茶色くて硬そう」というイメージから筋肉質な男性をイメージした方もいて、比喩の難しさと面白さを感じました。 恩田侑布子は「バゲットのやうな」を「バゲットのごとき」とし、 バゲットのごとき二の腕夏来たる とした方がより、フランスパンのようなこんがりした健康さが出るのでは、と添削していました。 女学生の制服が夏服に衣替えし、ほっそりとした二の腕を目撃しても、やはり夏の到来を感じそうなものですが、あえて「バゲットのような二の腕」から夏を感じ取った視点がユーモラスだと思いました。     つめくさやみどり児のほゝ匂ひさせ            藤田まゆみ 話題になった句です。二人の方が特選で取られました。お二人とも子育て経験のある女性。お一人は「こんな風に素敵な子育てできなかったなぁ」と自戒を込めて取られたそうです。きれいごとだけではない、子育ての厳しさを感じるお言葉でした。 恩田先生からは「つめくさ」は白詰め草の別名として辞典には載っていても、歳時記にはなく、季語にならない。普通に「しろつめ草」として、 しろつめ草みどりごのほほ匂はせて とされれば、素直にやさしい情景がうかぶのではないか、と添削していただきました。 このイメージは子を育てる経験があってもなくても、本能的に憧れてしまう光景ですね。赤ちゃんを抱きながらシロツメクサの咲く原っぱを歩いているような、やさしく幸せそうな実景が香りとともに立ち上がってくるように思いました。男性陣からは点が入らなかったのが、とても興味深かったです。 次回の句会は6月3日(金)。 兼題は「短夜(みじかよ)」と「‟田‟の字を一つ入れて」です。 皆さんが、夏至に向かう時候と、この季節の田んぼをどう俳句にするのか、今からとても楽しみです。(山田とも恵)     特選    君を立て周りを立てて霞草             久保田利昭     ある意味人を食った句である。「君を立て」と唐突に言われると、まず読者はドキッとする。最後まで読んで、ははーん、霞草のことだったのと肩透かしを食らう。霞草は花束の中で、引き立て役によく使われる。自己主張をしないので何の花にも合う。薔薇が「君」なら、スイートピーは「周り」の花だろうか。一義はブーケの霞草だが、ダブルイメージとして、花束を渡される主人公や主賓を気遣う控えめな人物が浮かび上がる。「周りを立てて」とまでいわれると、霞草にあわれをもよおす。主役になりきれない人生への共感に満ちて、じつは温かい句なのだ。         藤波やかなたの人の声をきく               原木裕子     見事な長藤がたなびいている。藤は春の湊のよう。すぐそこまで夏は来ているが、まだ春らんまんの駘蕩としたゆたかさのなかにくつろいでいる。風になびく光景は、桜にもおさおさおとらぬ美しさ。作者は藤波のもつ悠遠さをよくみつめている。樸の原初同人、戸田聰子さんを追慕されているのかもしれない。藤波さながら終焉まで優美で高貴であった人を。戸田邸の藤棚に、皆で招かれた春昼があった。庭先の格子戸の桟までかぐわしい匂いがこぼれていた。「かなた」と「きく」のひらがなが、内容のやさしさにマッチしている。いつまでもいつまでも、その人の声がきこえる深い春の青空である。        (選句 ・鑑賞  恩田侑布子)

5月6日句会 選句と鑑賞

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5月の第一回目の句会は、「蝌蚪(かと)」と「柳」を兼題にしておこなわれました!^^ 蝌蚪とは、おたまじゃくしのことです。参加者のなかでも、蝌蚪という言葉をはじめて聞いたという方がいました(私もそうでした)。 初めて目にしたときは音読することさえ難しいような季語ですが、俳句をつうじてあたらしい言葉を知っていくのはとても楽しいです。 なお、兼題とは、句会に先立って知らされているテーマのことです。季語が選ばれることが多いですが、その他にも何らかの漢字一字や、ほかの言葉が指定されることもあります。 同じテーマに即して、参加者たちが作品を持ち寄るわけですね!  なお、季語には「傍題」もあります。たとえば、「柳」という季語の傍題には、「青柳」「糸柳」「柳影」「柳の雨」「雨柳」などなど、柳にかんするたくさんの言葉が含まれています。「柳」が兼題であるといっても、句会の参加者はこれら多くの傍題を作句に使えます。 さらにあらき俳句会では、兼題として出された季語や言葉を使っていない作品を提出することももちろん可能です。兼題は、あくまで参加者が作品をつくりやすくなる一つのきっかけとして出されるにすぎません。今回の句会でも、「ライラック」「アマリリス」「花時雨」「清明」などの季語による作品がありました。そして、無季の句や破調の句、そして季重なり(二つ以上の季語を含む作品)も、あらき俳句会で分かち合うことが可能です。 今回特選にえらばれたのも、兼題以外の季語「蝮草(まむしぐさ)」を用いた作品でした。あらき俳句会における作品評価には、特選、入選、原石賞、などがあり、特選が最高の評価です。 それでは、今週の特選句と恩田代表による鑑賞を、ぜひお楽しみください! (大井佐久矢)   特選   土中にはあんぢゆうありや蝮草                山田とも恵   蝮草は晩春の季語。山裾の土のなかから這い出し、鎌首をもたげる蝮を思わせる異形の草、蝮蛇草に問いかける。死後土に帰ったとして、土の中には安住があるのですか? この世のどこにも安住はないのではないか。異形のものに問いかけずにはいられない。「あんぢゆう」というひらがな表記によって、土の湿っぽくなまあたたかい不気味さが感じられる。また「土の中」ではなく、ドチュウと音読みしたことで、感傷に沈まず、抒情が強靭になった。行く春の物狂おしさ、生きることの得体の知れなさを独自の文体で描いた作者は、二九歳。将来が楽しみな大型新人の登場である。       (選句 ・鑑賞  恩田侑布子)