樸会員 前島裕子、島田淳の聴講記 北斎の画中の人になりかわって 十月二十九日。延期になっていた現代俳句講座−『渾沌の恋人(ラマン) 北斎の波、芭蕉の興』より、名句そぞろ歩き−に出かけた。 久しぶりの東京、新幹線、山手線、地下鉄、都電と乗りつぎ、ゆいの森あらかわへ。 そしてそこに足を踏み入れたとたん、驚きです。大きな図書館、こういう所はテレビでは見ていましたが実際に入るのは初めて。一階にホール、二階には吉村昭の文学館、エレベーターで三階につくと目の前に現代俳句センターが。天井までの書架に句集がびっしり、俳誌もたくさんある。あわただしく館内を一まわりして会場へ。 「ゆいの森ホール」が会場です。正面の大スクリーンに今日のタイトルが写し出されていた。いよいよ先生の講演が始まり、進行して北斎の話になると、スクリーンに「富嶽三十六景」より、「青山圓座松」「神奈川沖浪裏」「五百らかん寺さざゐどう」が次々大写しになった。おいおい本物はB4サイズよ、両手に持てて、じっくりながめるのがいいのよ。こんなに大きくして持てないよ。 いや待て、これだけ大きければ舟にも乗れる笠をかぶった坊やの後からついていける、欄干にも立てる。これが入れ子、なりかわり、なのか。一人スクリーンの中に入りこんだような不思議な気持ちになりました。 今でもあの三枚の浮世絵の大写しが、目にうかんできます。 また質疑応答のコーナーでは思わず「是非樸に見学にいらして下さい」とさそいたくなる場面もありました。 講演が終わり、聴講できた興奮と充足感。 そこもだけど、ここをもっと聴きたかったというところもありましたが、講演できいたことをふまえ、再度読み、深めていこうと、思いながら帰路につきました。 ありがとうございました。 (前島裕子) 「第46回現代俳句講座」(主催:現代俳句協会)に参加して 今年8月6日の毎日新聞書評欄で、演劇評論家の渡辺保氏は恩田侑布子『渾沌の恋人(ラマン) 北斎の波、芭蕉の興』の書評を、「斬新な日本文化論が現れた」の一文から書き起こしました。そして、著者による名句鑑賞を引いて、「近代の合理的な思考から、日本文化を解放して」「目に見えないものを見、耳に聞こえないものを聞く思想を養う」と述べています。 今回の講演は、日本人の美意識の源流を辿る壮大な物語のエッセンスでした。 主体と客体が「なりかわる」描写、単一の意味でなく多面的な「入れ子構造」、『華厳経』の蓮華蔵世界さながらのフラクタルな世界観。こうした日本人の美意識を、俳句にとどまらず葛飾北斎の浮世絵、近代詩、万葉集から古代中国の「興」へと自由に往還しながら説き明かしていきます。 「興」に淵源を持つ「季語」によって詠み手と受け手の間に共通のイメージが広がり、「切れ」によってそのイメージを自分の現在ある地点に結び付ける。こうした構造がある事によって、俳句はたった十七音で詩として成立するのだと得心できました。 『渾沌の恋人』は、自宅そばの猪の描写から古代中国の『詩経』へなど、現代から一気に過去の時代に跳んだりする場面が多くあります。最初は戸惑いましたが、こうしたタイムワープが可能なのは、おそらく現代は古代と切り離されたものではないからなのでしょう。古代人の感情が現代のわれわれのそれと大きく隔たってはいないからこそ理解可能なのであり、それを仲立ちするのが「興」にルーツを持つ「季語」なのでしょう。言い換えれば、風土に根ざした共同体の共通認識だからこそ、時代を超えて受け継がれていくのだと。 また、古今の名句を声に出して詠むことの素晴らしさ、大切さも再認識しました。「五七五(七七)定型は、日本語の生理に根ざした快美な音数律」とレジュメにありましたが、実際に古今の名句を耳から聴くことでそれを実感することができました。 階段状のホール最上段でも聴きやすい明瞭な発声、落ち着いた抑揚、「切れ」をきちんと意識し微細な緩急のある速度。五音七音の調べに身を委ねる心地よさは、定型の俳句が紛れもなく十七音の詩であることを身体感覚として理解させてくれました。 講演終了後、冒頭に引用した渡辺保氏の「目に見えないものを見、耳に聞こえないものを聞く思想を養う」という文章を思い出しながら、夕暮れの町屋駅前に向かったのでした。 (島田 淳)
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全国俳誌協会第4回新人賞授賞式 (10/30)・古田秀 正賞受賞作品十五句
全国俳誌協会第4回新人賞 授賞式に寄せて 全国俳誌協会第4回新人賞を受賞した樸の古田秀の授賞式が10月30日、東京都内でありました。授賞式には樸代表の恩田侑布子も出席し、多くの俳句関係者らが古田の受賞を祝いました。正賞の古田とともに、準賞、特別賞、選者賞の受賞者七名は、十九歳から三十代後半までの若者で会場は華やかな雰囲気に包まれました。 併せて、「俳誌の現在と未来を語る」シンポジウムも開催されました。登壇者は選者の鴇田智哉氏・堀田季何氏・神野紗希氏に、『俳句』編集長の石川一郎氏、同協会長の秋尾敏氏という豪華メンバーで、「紙」の俳誌の保存性と信頼性の高さを改めて評価する声で一致しました。俳句文庫鳴弦文庫館長でもある秋尾会長に、「恩田さんのところの樸はWeb誌のみでやっていて驚きです。全国で他にそういう会があるでしょうか」と会場で紹介され、喜ぶべきか、悩みました。 『俳壇』・『俳句四季』の編集長に、「芭蕉記念館」館長も来席され、白熱の議論は大いに盛り上がりました。 二次会は田町駅近くの居酒屋に大勢でなだれ込み、高校生をはじめとする若い情熱ある俳句作者たちと忌憚なく俳句談義に花を咲かせ、幸せが倍増しました。改めて、おめでとうございます! (恩田侑布子) 古田秀の正賞受賞作品「大学」15句を掲載いたします。 大学 水差しの影にも水位昼寝覚 さくらんぼ暫し噛まずにゐたりけり 母をらぬ部屋はあかるし髪洗ふ 実験棟から門までの夕立かな 水槽に水平線のなき晩夏 桃の皮ずるりと剥けて夜の汽笛 秋黴雨ひとりにひとつ椅子と窓 消火器の函に錆吹く蜻蛉かな 木は鳥の鳥は木の名を秋の暮 初雪やからからせんべい割れば毬 歌は火の熾るに似たりクリスマス 搭乗を待つまどろみや冬帽子 パブの灯の途切れたるより吹雪の野 焼きそばの焦げかうばしき初詣 大学や焔のごとき冬木の芽
恩田侑布子講演レポート(第46回現代俳句講座 10/29 ゆいの森あらかわ)
演題 『渾沌の恋人ラマン 北斎の波、芭蕉の興』より、名句そぞろ歩き ◇主催:現代俳句協会 共催:荒川区 ◇日時:2022年10月29日(土)13:30~16:45 ◇会場:ゆいの森あらかわ「ゆいの森ホール」 ◇講師:「軸」代表・秋尾 敏、「樸」代表・恩田侑布子 10月29日(土)、東京都荒川区のゆいの森あらかわ・ゆいの森ホールで現代俳句協会主催の第46回現代俳句講座が開かれ、樸俳句会代表・恩田侑布子が「『渾沌の恋人(ラマン) 北斎の波、芭蕉の興』より、名句そぞろ歩き」と題して講演しました。 当初は9月24日の予定が、静岡にも大きな被害をもたらした台風で中止となり、延期されていた講演です。一転して素晴らしい秋晴れとなったこの日は、首都圏を中心に俳句愛好者や恩田ファンらがたくさん聴講し、「俳句は目に見えないもの、耳に聞こえないものに思いをはせる」という恩田のメッセージを心に留める1日となりました。 「興」と「入れ子」という説で日本文学に新たな地平を切り開いた恩田の近著『渾沌の恋人』は、各紙誌の書評で高く評価されていますが、開会挨拶に立った現代俳句協会の中村和弘会長も「日本文学をグローバルな視点で体系的に分析・集約した本であり、感動した。文体が素晴らしく、小説を読むようで思わず引き込まれた」と賛辞を送りました。恩田は、全身を揺さぶられた高校時代の名句との邂逅などに触れながら、「歳はとっても俳句はやまぬ、やまぬはずだよ先がない」の都々逸で会場を笑わせ、なごやかな空気の中で講演は進みました。 近著の内容に沿ったこの日の講演は、芭蕉、蕪村に始まり北斎の浮世絵、中国の詩経、フレーザーの金枝篇、タイラーのアニミズム、ピカソのキュビスムに至るまで、古今東西縦横無尽の視点から文学としての俳句の奥深さを再発見する旅、とでも言うべきものでした。聴き手にとってはまさに豊潤なひとときで、本を読んだ人は著者と俳句の魅力を再確認でき、未読の人は手にとってすぐ読んでみたくなったことでしょう。 とりわけ、恩田が「雲の峯幾つ崩(くづれ)て月の山」をはじめとする芭蕉や蕪村らの名句や若い時から心酔してきた蒲原の詩「茉莉花(まつりか)」を、ゆっくりと歌うように詠みあげる場面では、上質の朗読劇を聴くような心地よさが会場を包みました。俳句を始めて3年になるという聴衆の女性からは「ああ、俳句ってやっぱり詩なんだな、と感動しました」という声が寄せられました。あっという間の1時間余りでした。 恩田に先立って、「軸」主宰の秋尾敏氏が「桜井梅室の系譜—知られざる十九世紀俳句史」をテーマに講演し、軽妙な語り口で楽しませました。 (樸編集長 小松浩)
恩田侑布子Zoom句会 会員募集。初歩の方、ようこそ!お試し体験、歓迎します。
〜どんなに遠くてもすぐつながれます〜
恩田侑布子Zoom句会、会員募集。 初歩の方、ようこそ!お試し体験、歓迎します。 〜どんなに遠くてもすぐつながれます〜 今回、zoom句会に力を入れることで、静岡県外の方も参加しやすくなりました。貴方の俳句を恩田侑布子が対面指導、鑑賞します。樸に入会して、自由な合評、俳句談義をステキな仲間とご一緒に楽しみませんか。 樸俳句会は作句・選句・鑑賞にそれぞれ力を入れており、一人ひとりに丁寧な指導を心がけております。ご興味をお持ちの方、是非この機会にお問い合わせ・ご参加ください。 【樸の志】 一人ひとりが足元を大切に、俳句という詩を素心に追求し共感し合い、新たな俳句の潮流を生んでゆく。 【募集要件】 ①パソコンでメール送受信とZoom参加が可能な方。 ②他の結社に所属されていない、もしくは他の指導者に師事しておられない方。 【句会案内】 月2回開催。会費については入会希望のお問い合わせ時にご案内します。 ・Zoom句会:原則第1、第3日曜日13:30〜16:30 (指定ネット上に前日13:30迄に3句投句、当日13:30迄に選句) ・リアル句会または吟行句会:季節ごとに1回開催 (リモートでの参加者は上記に準じ、リアル句会参加者は選句から静岡市葵区会場) ご入会希望者は以下のメールアドレスまでご連絡ください。個人情報は厳守致します。 araki.haiku★gmail.com (★を@に変えてください)
恩田侑布子の講演!
第46回現代俳句講座
開催日が10/29(土)に決定
台風で延期された第46回現代俳句講座の開催日が10月29日(土)に決まりました! 台風の影響により開催を延期していた恩田侑布子の講演(第46回現代俳句講座)ですが、10月29日(土)に開催となりました。 お一人でも多くの方にお聴きいただければ光栄に存じます。 恩田侑布子 *大変お手数をおかけいたしますが、9/24の回にお申し込みいただいた方も、再度お申し込みいただきますよう、お願い申し上げます。 日時 2022年10月29日(土) 13:30~16:45 会場 ゆいの森あらかわ「ゆいの森ホール」 東京都荒川区二丁目50番1号 電話03-3891-4349 主催:現代俳句協会 共催:荒川区 ※ 詳細は こちらからどうぞ
樸(あらき)新入会員のお知らせ
🌸慶祝 樸新入会のお二人を心より歓迎いたします🌸 2022年8月吉日 🌸前毎日新聞主筆の小松浩氏を樸編集長にお迎えします。日本を代表するジャーナリストの大局観を、当俳句web誌の編集にも生かし、多くのビュアーのみなさまに愛され、俳句実作・鑑賞に役立てていただける新局面を拓いてくださいますようお願いいたします。 俳句実作を全くの初歩から始められるのもうれしいことです。リタイア後に俳句を手掛けられる日本中のロマンスグレイ俳人の希望の星になってください。ほどなく俳句評論や随筆にも健筆を奮っていただけることを大いに期待しております。 代表・恩田侑布子 『渾沌の恋人』に魅了され、皆さんの仲間に加えていただくことになりました。恩田さんの時空を超えた文章の切れ味に、今も軽い酔いのような読後感が消えません。実用本位の散文の世界に長く身を置いてきた自分ですが、十七音の最短詩への関心と憧れは、いつも心の奥底にあったのです。それを引きずり出してくれた恩田さんには、感謝しかありません。酩酊したまま始めたリタイア俳句人生は、あるいは「胡蝶の夢」のようなものかもしれませんが、皆さんから沢山のことを学び、俳句という文学をもっと深く知りたいと思っています。騒々しい現代社会にあって、言葉を捨て去り、削ぎ落として生まれる表現の豊潤さが、人々の心を落ち着かせることを願いながら。 小松浩・プロフィール 1957年生まれ。千葉県市川市在住。 1980年毎日新聞入社。ワシントンとロンドンの特派員や政治部長、論説委員長、主筆を務め、2021年春退社。現在は論説特別顧問。 日本ニュース時事能力検定協会理事長。北里大学客員教授。 *** 🌸第六回芝不器男新人賞受賞者、田中泥炭ピート氏のご入会おめでとうございます。樸の新時代の到来を予見させます!「長い目でみて、真に次代の俳壇を担う本格俳人を育てたい」。これが樸創刊当初からの恩田の悲願です。一瞬ときめいて駆け去る彗星に終わらないたしかな膂力を当会で蓄えてください。泥炭さんの受賞作は詩的感性の秀逸さと、俳句叙法の揺れとが同居し、未知の可能性に溢れています。私は貴方の手付かずの可能性に期待します。当会には、芹沢雄太郎、山田とも恵、昨年北斗賞準賞に輝いた古田秀、休会中の大井奈美と、有為の若手がおります。ともに、時流に流されない深く大きな俳句を志向して参りましょう。 恩田先生の句集や評論に感銘を受け「樸」俳句会に入会しました。人に誘われて始め、次第に自身の一生の表現型式となり、遂には師を持つに至ったこの詩型との出会に感謝し、その不思議な魅力の容積を少しでも増やしたい。その為に自己倒壊を恐れずに俳句の基礎を見つめ直し、個人の詩を超えた共同体としての詩、ある種の普遍性に繋がるような俳句が作れれば、と未熟ながらに思う次第です。皆様と一緒に切磋琢磨しながら成長していきたいと考えております。改めてよろしくお願い申し上げます。 田中泥炭・プロフィール 1981年山口県長門市生まれ。愛媛県松山市育ち。平成27年より作句開始。第1回G氏賞、第6回芝不器男俳句新人賞を受賞。