「本日の特選句・入選句・最高点句」カテゴリーアーカイブ

本日の句会で高い評価を得た作品をご紹介します!

あらき歳時記 賀状

photo by 侑布子 2025年1月12日 樸句会特選句   ほそき手の床より賀状たのまるる  長倉尚世  長年にわたって毎年必ず出してきた年賀状を、今年もやめるわけにはいきません。生きている限りは、生きている証の一枚を大切なあの人に送りたいのです。「ほそき手」が差し出す手書きの賀状に、衰えた祖母の気持ちを痛いほど察する作者。胸に抱くようにしてポストに投函に行くやさしさが「賀状たのまるる」の連体形に伺えます。 (選・鑑賞 恩田侑布子)

12月22日 句会報告

2024年12月22日 樸句会報 【第147号】

12月22日の兼題は「ボーナス(年末賞与)」と「鰤」。ボーナス体験は個々人でまさに悲喜交々。「悲喜」どちらを詠んでも、詠み手の想いが伝わってくる句ばかりだが、私などどちらかといえば縁なき者の哀感を詠んだ句に共感してしまうのは、先生同様、その恩恵に浴することのない半生だったからだろう。「鰤」では、季節感を多彩に詠みこんだ多くの句が並んだ。この兼題では詠めなかった私自身の食生活の貧困(無知)を深く恥じると同時に、季語が包みこむ日本人の生活感に疎いのはかなりまずいと反省した。会の後半には、武藤紀子さんの句集『雨畑硯』より先生抄出の15句についてそれぞれ感想を求められた。「どう思いますか」と鋭い刃を突きつけられたように問われ、一同しばし沈黙。私自身言葉が出ない。先生が三行で書かれている評言が全てを尽くしている。それを超える言い方などできようはずもない。鑑賞の言葉(も)鍛えねばならないと切に思った。
入選2句、原石賞1句を紹介します。
 

 

○ 入選
 聖夜来るマッチ知らない子供らに
               成松聡美

【恩田侑布子評】

アンデルセンの童話「マッチ売りの少女」を連想します。少女は貧しさから、年の瀬の雪の中、マッチを売ってくるよう言いつけられ、売り物である小さな火に幻想を見ようとして、すべてを擦って死んでゆきました。
掲句の「マッチ」は、現実のマッチであるとともに、ひと時代前の日用品の隠喩でしょう。現代は手紙の代わりにSNSが、本や新聞の代わりにネット情報が、図書館で調べものをする代わりにチャットGPTが、なんでも教えてくれます。こうした文明批評が底にあることが句柄を大きくしています。はるかな時間の流れの中では、現代人といっても、次から次へ物質文明の奔流をわたり漂う「マッチ知らない子供ら」のように思えてくるのです。二千年前に降誕した聖夜のキリストが、子供たち、即ちわたしたちをひとしなみに見つめています。
 

○ 入選
 煎餅を添へてボーナス渡さるる
               長倉尚世

【恩田侑布子評】

この「ボーナス」の袋はそんなに厚くはなさそうです。袋の上から手で触れて、万札のおおよその厚みがわかった昭和の時代の情景です。夫は「少ないボーナスでわるいね」という代わりに、妻の好物であるに違いないカリッパリッと歯ごたえのいい厚焼きせんべいのふっくらした袋を添えて手渡してくれたのです。なんとやさしい夫婦の暮らしぶりでしょう。心温まる俳句です。
 

 
【原石賞】花八つ手顔より声を想い出す
              成松聡美

【恩田侑布子評・添削】

八手は地味な花。冬日の玄関の脇や、トイレの窓の外にひっそりと白ばんだ花を咲かせます。よく見れば、ベージュがかったやさしいボンボンを思わせますが、ハッと目を引くところはどこにもありません。ただその花がものかげに佇んでいるのを見ると、好きだった人の声を思い出してしまうのです。目鼻立ちはもうぼうっと定かではないのに、声の静かな温もりだけがありありと耳の底に聞こえるのです。原句は「想い出す」で終わり、存在感が弱まります。座五を「花八手」にすることで、その人のかけがえのない声音が印象されましょう。

【添削例】顔よりもこゑおもひだす花八手
 

【後記】
今句会で一際目立ったのが、成松さん句の高評価。3句すべてに先生の「入選」「原石」「サンカク」が付けられ、メダル独占の様相だった。ただ私はこの3句には全く感応せず、先生の講評を聞いてのち、ようやく自分の読みの浅さに気づいた次第。作者の意図を超えて深読みさせたくなるような句を、いつか私も詠んでみたいと心に誓う。先生の講評は毎回一言ひとこと俳句初心者の私の頭と胸に沁み入る。しかし今回は染み入る猶予もなくいきなりグサッと突き刺さった言葉があった。「“他人事” 俳句ではダメ! 最後は自分の足元に着地させること」。ああ痛い! そもそも樸入会のきっかけともなった『星を見る人』に魅了されたのも、行間から同じトーンの叱声が聴こえたからだ。私の中で生活習慣病の如く巣食っている “他人事” ことばの使用。後半生の残り時間で、どこまで矯正できるか……。樸俳句会という虎の穴に足を踏み入れたことは今年一番の収穫だと思っています。
 (馬場先智明)
(句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)
 

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11月3日 句会報告

2024年11月3日 樸句会報 【第146号】

11月3日の兼題は「釣瓶落し」「蓑虫」でしたが、これまでに例がないほど秀句ばかりが集まり、選句するのが心苦しいほど。特選4句という大変華々しい句会となりました。ところがその反動なのか17日の句会は目立った句がなく、なんと△が最高点、それも1句のみという結果に。「おでん」「帰り花」という身近な兼題であったことが、かえって難しかったのかもしれませんね。
特選4句、入選1句、原石賞1句を紹介します。

◎ 特選
 投げ銭の帽子の歪み秋の暮
             長倉尚世

特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「秋の暮」をご覧ください。

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◎ 特選
 蓑虫や母は父の死忘れゆき
             活洲みな子

特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「蓑虫」をご覧ください。

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◎ 特選
 帰国便釣瓶落しの祖国かな
             小松浩

特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「釣瓶落し」をご覧ください。

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◎ 特選
 穭田の真中の墓やははの里
             見原万智子

特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「穭田」をご覧ください。

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○ 入選
 柘榴裂き『ルビーの指輪』口遊む
               林 彰

【恩田侑布子評】

寺尾聰の「ルビーの指輪」はお洒落でソフィストケートされた大人の恋を思わせる曲でした。昭和歌謡の名曲を引用しながら、この句は曲を超えて、若き日の恋が激しかったことを想像させます。ただでさえ鮮やかな血紅色の果物を、「裂き」とは強烈です。かつて女性の指に輝いていたルビーの指輪が、百も千も噴き出すようです。いまだ癒えない胸の疼きを宥めるように口ずさむ作者は男性に違いないと思わせます。女性なら裂く前に粒つぶを食べてしまうでしょう。

【原石賞】バイバイの声散り釣瓶落としかな
              山本綾子

【恩田侑布子評・添削】

原句のままだと、「釣瓶落とし」に暮れたので「バイバイの声」が散っていった、という因果関係になってしまいます。省略を効かせ、調べに注意することで句が一変します。余分な言葉は「声」です。「散らばる」ともできますが、より余白を広げましょう。

【添削例】バイバイのちりぢり釣瓶落しかな

【後記】
俳句の会に人をお誘いするというのは、なかなか難しいものだと近頃痛感します。例えばヨガやピラティスでお付き合いのある方にやんわりと俳句の話を振っても、恐ろしく反応は薄い。体を動かすことではなくて座学のお好きな方なら、と前職の繋がりや語学クラスでご一緒する方たちに話を持っていっても、やはりはかばかしい返事は返ってきません。
ブームだと言われているものの、やはり俳句はそれなりにハードルの高い趣味なのかもしれません。私自身、興味はあっても始めようかどうしようか、ずいぶん逡巡したことを思い出します。俳句の定義や句会とは何かも知らないまま恩田先生の門を叩いた私が少々変わり種であるのは間違いありませんが、それでも作句は心躍るもの。この楽しさを分かち合う仲間が自分の知人の中から見つからないか、現在孤軍奮闘中です。
 (成松聡美)
(句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)

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あらき歳時記 秋の暮

photo by 侑布子 2024年11月3日 樸句会特選句   投げ銭の帽子の歪み秋の暮 長倉尚世  大道芸に投げ銭はつきもの。当たり前の光景を当たり前でなくしたのは、ひとえに「帽子の歪み」です。くたびれた庇帽が目に浮かびます。いびつになった帽子の形に芸人の渡世の日々が偲ばれます。足早に迫る秋のたそがれの中、残光を浴びる帽子の縁の歪みを切り出してきた鮮度。リアルな臨場感を残す俳句です。 (選・鑑賞 恩田侑布子)

あらき歳時記 蓑虫

photo by 侑布子 2024年11月3日 樸句会特選句  蓑虫や母は父の死忘れゆき 活洲みな子  「母は父の死忘れゆき」のフレーズは、子としては淋しくても、超高齢社会のいまや、珍しいものではありません。世に増えつつある感慨を生かすも殺すも季語の斡旋一つです。「蓑虫」は意外性を持った最適解ではないでしょうか。老母はあれほど仲の良かった夫の死さえおぼつかなくなり、口数も喜怒哀楽の表情も減ってきています。枯れ葉や小枝の屑をつないで冬へ入る「蓑虫」のように、自分を閉ざしてゆきます。一筋の糸にすがって秋風に揺れる焦茶色の虫と、人間の老いのあわれが重なって胸を打たれます。救いは蓑虫を包む晩秋の日差しに作者の眼差しが浸透していることです。 (選・鑑賞 恩田侑布子)

あらき歳時記 釣瓶落し

photo by 侑布子 2024年11月3日 樸句会特選句  帰国便釣瓶落しの祖国かな 小松浩  作者は海外で旅行または仕事をし、日本の気象からはしばらく遠ざかっていたのでしょう。久々だわ、といった気分で「帰国便」が空港に着陸しようとすると、彼の国では明るかった時間に、早くも街は火灯しはじめ、タラップを降りる足元には「釣瓶落し」の闇が迫ります。にわかに胸に、この国の将来が重なって来るのです。二十一世紀初年は世界五位だった一人あたりGDPが昨年は二十四位になり、低落の一途です。急速に暮れる秋の「釣瓶落し」に、昭和のものづくり立国、教育立国のあとかたもない衰退が重なるやるせない悲憤慷慨。実感がこもっています。 (選・鑑賞 恩田侑布子)

あらき歳時記 穭田

photo by 侑布子 2024年11月3日 樸句会特選句  穭田の真中の墓やははの里 見原万智子  田舎では広い田んぼの真ん中に集落の墓があるのをよく見かけます。青田や稲田の中ではそうでもありませんが、秋の刈入れが済んだあとには目立つものです。「穭田」は薄い碧色のパサついた葉が伸び、刈った直後の田にはない、そこはかとなくさびしい明るさがあります。田んぼの中の墓に、母が眠っていようといまいと、ここはたしかに母のふるさとなのです。言外にこもるぬくもりに秋の澄んだ日差しがあり救われます。 (選・鑑賞 恩田侑布子)

10月20日 句会報告

2024年10月20日 樸句会報 【第145号】

10月20日静岡市の西、藁科地区にある洞慶院・見性寺・中勘助記念館をめぐる吟行句会が行われました。
「俳句にあいにくの雨はない」と聞きますが、そんな気持ちになる余裕もなく、当日、時折強く降る雨と風に、雨女を黙って幹事を引き受けたせいかしらん、とわが身を恨み、お昼に注文の天ざるを温かいお蕎麦に替えて頂いたのでした。
特選1句、入選1句、原石賞1句を紹介します。

◎ 特選
 身に入むや一灯に足る杓子庵
             活洲みな子

特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「身に入む」をご覧ください。

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○ 入選
 釈迦守るごと沙羅の実のとんがりぬ
               海野二美

【恩田侑布子評】

静岡市の古刹、洞慶院の吟行で生まれた句です。伽藍を過ぎた奥手の小川添いいに黄葉した姫沙羅が二、三本。秋のうらぶれた姿は初めてでしたが、よく見ると宝珠の先に針を突き刺したような実がついています。作者はそれを即座に、「釈迦守る」眷属に見立て、針を「とんがりぬ」と剽げた口語調で勢い付かせました。釈迦の涅槃を見守った沙羅双樹の故事にかよう姫沙羅の実の健気さがイキイキと感じられます。

【原石賞】自然薯や遠忌の客と隣りつつ
              古田秀

【恩田侑布子評・添削】

洞慶院の駐車場は、玄関に「自然薯、調理しています」の紙を貼り出す蕎麦屋の前です。吟行句会の全員が自然薯蕎麦を注文しました。作者はつられて「自然薯や」としましたが、「自然薯」は山から掘った薯で、道の駅などの売店を想像させ、「遠忌の客」との関係が曖昧になります。遠忌客と隣り合って蕎麦を啜った情景にすれば、山寺門前にある蕎麦屋の晩秋の気配が立ち上がります。

【添削例】とろろ蕎麦遠忌の客と隣りつつ

【後記】
初めての吟行句会でした。
普段の句作に使う時間を考えると、数時間で3句なんて・・と心配でたまらず、句会場の予約のついでに、洞慶院で事前に俳句を作ってしまおう!と一人で内緒の吟行をしました。
ところが、後ろめたい気持ちでものを見るせいか、全く俳句ができません。結局、当日軽いパニックに陥りながら、数だけは三句を投句しました。
1.対象(感動)を掴む
2.対象(感動)の掘り下げ
3.対象(感動)を表現するための言葉選び
これは、10/6のzoom句会で、恩田先生が俳句を作る時の三つのポイントとして、お話してくださったことです。
当日にはすっかり忘れてしまって、あわあわするばかりでした。
次の吟行句会の時には、短時間で三つのポイントを押さえることができるように、少しは成長をしていたいと思いました。
最後になりましたが、山本さんと幹事を務めさせていただき、恩田先生はじめ皆様のアドバイスとご協力で、吟行句会が無事に終えられたこと、お礼申し上げます。
ありがとうございました。
 (長倉尚世)
(句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)

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10月6日 樸俳句会
兼題は水澄む、敗荷。
特選1句、入選2句、原石賞1句を紹介します。

◎ 特選
 鍋に塩振つてガンジー誕生日
             芹沢雄太郎

特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「ガンジー誕生日」をご覧ください。

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○ 入選
 零れ萩はせを巡礼鳴海宿
               林彰

【恩田侑布子評】

芭蕉が『笈の小文』の前半で詠んだ、〈星崎の闇を見よとや鳴く千鳥〉には「鳴海にとまりて」の前書があります。芭蕉が伊良子の保美に流された杜国を訪ねる序章として、闇と星と千鳥の声が幻想的な句です。その鳴海を作者が訪ねました。名詞句を畳み掛けた句は三枚の絵を次々に重ねてゆくよう。ことに上五の「零れ萩」に杜国との儚い恋を暗示するあわれが添います。芭蕉を一人の「巡礼」と捉えたところも出色。芭蕉への遠い唱和として、艶のある俳句になっています。

○ 入選
 水澄むやさんさ太鼓の天に舞ふ
                山本綾子

【恩田侑布子評】

「さんさ」は岩手県各地に伝わるはやしことば。岩手の盛岡や遠野に伝わる盆踊りが「さんさ踊り」。田んぼの水路も川の流れも清く、お囃子に乗って胸に担ぐ「さんさ太鼓」を打ち鳴らします。「天に舞ふ」の下五で一気に、祭り太鼓の響く秋空に、色とりどりの帯の翻る陸奥に拉しさられるのは私だけではないでしょう。澄み渡る秋の風土詠です。

【原石賞】秋霖や瓦礫の中に春樹の本
              活洲みな子

【恩田侑布子評・添削】

目の付けどころが素晴らしく、「秋」と「春」の対照的な取り合わせも効いています。日本各地が地震や洪水の災害に見舞われ、能登の洪水と土石流は、元日の大地震に次ぐ自然の猛威に胸が潰れました。災害後にも絶え間なく降る秋雨と、崩壊家屋の隙間に覗いている村上春樹のデリケートな非日常を含む世界が印象的です。やや説明的な「中に」を直しましょう。

【添削例】秋霖や瓦礫にまざる春樹の本