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『よろ鼓舞』七句

20200503 よろ鼓舞上1

   恩田侑布子詞花集   『よろ鼓舞』七句   『俳壇』2020年1月号掲載の恩田侑布子作品7句と、連衆の選評です。   海山を股にかけたり初烏    家族一列初凪のまぶしさに   凧糸を引く張りつめし空を引く   甲板に狼乗れよ宝船   翠巒の照りまさりけり恵方道   皇后はキャリアウーマン女正月   梅花皮(かいらぎ)の糸底を撫で冬うらら       家族一列初凪のまぶしさに この家族風景はいいですね。穏やかな海からの光にみんな目を細めています。遠くを見るまなざしで。円くなっているのではなく一列に並んだ家族。新たな年を迎え、家族という集団の持つひとつの「意志」を感じさせます。下五の「まぶしさに」に余情があります。(山本正幸) 家族揃って迎える新年。家族一列がいいです。(樋口千鶴子) 一列、意図せざるも絵ができる。(安国楠也)    凧糸を引く張りつめし空を引く 手元にピンと張りきった凧糸の軋みがよみがえった。地上にあった頃はあんなに軽かった凧が上空に舞い上がった途端重くなるのを漫然と面白がっていた幼い頃。「そうか、初春の空と引っ張りあっていたのだ」とあの楽しさの理由に今さら出会えてうれしい。「引く」がリフレインすることで、糸が切れないよう慎重に操る様子が伝わる。(山田とも恵) 大宇宙とつながる。引きつ引かれつ宇宙と一体となる心持。(萩倉誠)   甲板に狼乗れよ宝船 世情に流されず孤独を恐れない狼の心を持つ者が歓迎される宝船。金銀珊瑚も七福神も見当たらないし、漕ぎ出す海は大時化、というイメージが浮かび、ここでの宝船は地球の比喩ではないかと思いました。果たして自分は地球号の乗船資格があるのか、問われている気がしました。(見原万智子) 夢始末。(林彰)    翠巒の照りまさりけり恵方道 新年、その年の神が来臨する方角にある寺社を参拝する道すがら、背後にある緑の連山に照りかえる光の束が、善男善女の行く手を祝福する鮮やかな景が目に浮かぶ。(金森三夢)    梅花皮(かいらぎ)の糸底を撫で冬うらら 井戸茶碗の高台に施された梅花皮。井戸茶碗の見所の一つとされている。その糸底を、穏やかな冬の日に撫でているのである。人目につかず茶碗を支える糸底を慈しむかのように撫でる作者の目は、冬の日差しのように穏やかで優しい。(島田淳) 「梅花皮」の感触はざらざらとしていかにも「冬」ですが、土の温かみと素朴な感じ、そして文字面の美しさから「冬うらら」がとても合うなと思いました。触覚と視覚の楽しさと文字面の全体のバランスが非常に調和していて素晴らしい句だと思いました。(古田秀) 発想の意外さと静けさがこころ穏やかにさせ他を圧倒する。冬うららとはこのことだった。(安国楠也)