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10月20日 句会報告

2024年10月20日 樸句会報 【第145号】 10月20日静岡市の西、藁科地区にある洞慶院・見性寺・中勘助記念館をめぐる吟行句会が行われました。 「俳句にあいにくの雨はない」と聞きますが、そんな気持ちになる余裕もなく、当日、時折強く降る雨と風に、雨女を黙って幹事を引き受けたせいかしらん、とわが身を恨み、お昼に注文の天ざるを温かいお蕎麦に替えて頂いたのでした。 特選1句、入選1句、原石賞1句を紹介します。 ◎ 特選  身に入むや一灯に足る杓子庵              活洲みな子 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「身に入む」をご覧ください。 ↑ クリックしてください ○ 入選  釈迦守るごと沙羅の実のとんがりぬ                海野二美 【恩田侑布子評】 静岡市の古刹、洞慶院の吟行で生まれた句です。伽藍を過ぎた奥手の小川添いいに黄葉した姫沙羅が二、三本。秋のうらぶれた姿は初めてでしたが、よく見ると宝珠の先に針を突き刺したような実がついています。作者はそれを即座に、「釈迦守る」眷属に見立て、針を「とんがりぬ」と剽げた口語調で勢い付かせました。釈迦の涅槃を見守った沙羅双樹の故事にかよう姫沙羅の実の健気さがイキイキと感じられます。 【原石賞】自然薯や遠忌の客と隣りつつ               古田秀 【恩田侑布子評・添削】 洞慶院の駐車場は、玄関に「自然薯、調理しています」の紙を貼り出す蕎麦屋の前です。吟行句会の全員が自然薯蕎麦を注文しました。作者はつられて「自然薯や」としましたが、「自然薯」は山から掘った薯で、道の駅などの売店を想像させ、「遠忌の客」との関係が曖昧になります。遠忌客と隣り合って蕎麦を啜った情景にすれば、山寺門前にある蕎麦屋の晩秋の気配が立ち上がります。 【添削例】とろろ蕎麦遠忌の客と隣りつつ 【後記】 初めての吟行句会でした。 普段の句作に使う時間を考えると、数時間で3句なんて・・と心配でたまらず、句会場の予約のついでに、洞慶院で事前に俳句を作ってしまおう!と一人で内緒の吟行をしました。 ところが、後ろめたい気持ちでものを見るせいか、全く俳句ができません。結局、当日軽いパニックに陥りながら、数だけは三句を投句しました。 1.対象(感動)を掴む 2.対象(感動)の掘り下げ 3.対象(感動)を表現するための言葉選び これは、10/6のzoom句会で、恩田先生が俳句を作る時の三つのポイントとして、お話してくださったことです。 当日にはすっかり忘れてしまって、あわあわするばかりでした。 次の吟行句会の時には、短時間で三つのポイントを押さえることができるように、少しは成長をしていたいと思いました。 最後になりましたが、山本さんと幹事を務めさせていただき、恩田先生はじめ皆様のアドバイスとご協力で、吟行句会が無事に終えられたこと、お礼申し上げます。 ありがとうございました。  (長倉尚世) (句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です) ==================== 10月6日 樸俳句会 兼題は水澄む、敗荷。 特選1句、入選2句、原石賞1句を紹介します。 ◎ 特選  鍋に塩振つてガンジー誕生日              芹沢雄太郎 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「ガンジー誕生日」をご覧ください。 ↑ クリックしてください ○ 入選  零れ萩はせを巡礼鳴海宿                林彰 【恩田侑布子評】 芭蕉が『笈の小文』の前半で詠んだ、〈星崎の闇を見よとや鳴く千鳥〉には「鳴海にとまりて」の前書があります。芭蕉が伊良子の保美に流された杜国を訪ねる序章として、闇と星と千鳥の声が幻想的な句です。その鳴海を作者が訪ねました。名詞句を畳み掛けた句は三枚の絵を次々に重ねてゆくよう。ことに上五の「零れ萩」に杜国との儚い恋を暗示するあわれが添います。芭蕉を一人の「巡礼」と捉えたところも出色。芭蕉への遠い唱和として、艶のある俳句になっています。 ○ 入選  水澄むやさんさ太鼓の天に舞ふ                 山本綾子 【恩田侑布子評】 「さんさ」は岩手県各地に伝わるはやしことば。岩手の盛岡や遠野に伝わる盆踊りが「さんさ踊り」。田んぼの水路も川の流れも清く、お囃子に乗って胸に担ぐ「さんさ太鼓」を打ち鳴らします。「天に舞ふ」の下五で一気に、祭り太鼓の響く秋空に、色とりどりの帯の翻る陸奥に拉しさられるのは私だけではないでしょう。澄み渡る秋の風土詠です。 【原石賞】秋霖や瓦礫の中に春樹の本               活洲みな子 【恩田侑布子評・添削】 目の付けどころが素晴らしく、「秋」と「春」の対照的な取り合わせも効いています。日本各地が地震や洪水の災害に見舞われ、能登の洪水と土石流は、元日の大地震に次ぐ自然の猛威に胸が潰れました。災害後にも絶え間なく降る秋雨と、崩壊家屋の隙間に覗いている村上春樹のデリケートな非日常を含む世界が印象的です。やや説明的な「中に」を直しましょう。 【添削例】秋霖や瓦礫にまざる春樹の本

あらき歳時記 身に入む

photo by 侑布子 2024年10月20日 樸句会特選句  身に入むや一灯に足る杓子庵 活洲みな子  小説『銀の匙』で有名な中勘助が第二次大戦中に疎開していた「杓子庵」は静岡市葵区新間の山里にあります。、「一灯に足る」の措辞通り、茅葺の廬で六畳一間きり。厠も風呂もなく、縁側どころか玄関さえありません。還暦近いとはいえ、よくもここで新婚生活が送れたものだと胸が詰まります。しみじみと骨身にしみる冷気と侘しさが「身に入むや」の切れに込められ、戦時下の逼塞間や、相次いで肉親と愛する嫂を失った憔悴感を際立たせます。杓子菜の種を撒くのは、これから始まる冬のことです。 (選・鑑賞 恩田侑布子)