
photo by 侑布子 平茶盌天さはさはと畳かな 恩田侑布子 (『俳句』2025年6月号「八風」21句より) 「八風」の二十一句は、初夏と仲夏でそろえたという。そのなかに季語のない一句がある。無謀にもそれを鑑賞したくなった。 句は茶道のことをよんでいる。 まずは、薄茶をいただく客の立場で句をくり返しよんだ。「平茶盌」は夏季の茶の湯に用いられるとあるのでこれはわかる。しかし「天」と「畳」がわからない。 次に亭主になりかわり句をよんでみる。 するとストンと自分の中に落ちてきた。 客をもてなすために用意した「平茶盌」にお茶を点てる。あわが茶盌の広い口に「天」のようにひろがり「さはさは」とさわやかに涼しげだ。その「平茶盌」を「畳」におく。心の中で(ちょうどのみごろです。めしあがりください)と言いながら。これが詠嘆の「かな」なのではないか。 「畳」におかれた「平茶盌」は、客に委ねられる。 また客になりかわる。今度は「畳」より「平茶盌」を手にとり、亭主もてなしの「さはさは」と涼しく点った薄茶をあじわうことができ、初夏のすがすがしい気分になった。 恩田は「平茶盌」が季語になるようにと、願っている。ときいている。