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「第16回一茶・山頭火俳句大会」報告

川崎拓音  樸会員 「第16回一茶・山頭火俳句大会」が11月8日(土)、東京都荒川区本行寺(月見寺)にて行われ、恩田侑布子先生が当日投句の選者の一人を務めました。大会の様子や、恩田先生の披講の結果について報告します。樸からは見原万智子さんと川崎拓音が当日参加しました。 金子兜太の提唱により始まったという本イベント。JR日暮里駅から徒歩数分にある本行寺は、小林一茶と種田山頭火の句碑があることで有名で、特に山頭火の句碑は都内で唯一本行寺にのみあるそうです。   冒頭、大会会長を務める月見寺住職の加茂一行氏が「こんなに明るく楽しげな俳句大会を催すことができました」とご挨拶されたように、本イベントは披講に加え、俳句にお囃子を合わせたパフォーマンスが披露されるなど、エンターテインメント要素も満載。「サロンタイム」では、邦楽囃子の演奏家・島村聖歌氏による鼓の紹介、芭蕉・虚子・山頭火・三鬼の句をイメージした和楽器の演奏、大会オリジナルテーマソング「一茶・山頭火讃歌」の合唱などが行われ、披講前にもかかわらず会場は大いに盛り上がっていました。   休憩を挟んでいよいよ披講に移ります。選者は以下の8名で、入選7句、特選1句をそれぞれ講評されました。 【選者(五十音順/敬称略)】 恩田侑布子(「樸」代表) 鳥居真里子(「門」主宰) 土肥あき子(「絵空」同人) ながさく清江(「春野」顧問) 行方克巳(「知音」代表) 能村研三(「沖」主宰) 麻里伊(「や」同人) 水内慶太(「月の匣」主宰) 披講は前半が事前投句、後半が当日投句で、恩田先生は当日投句の選を担当されました。以下、恩田先生の選と評です。 - - - - - - - - - - - -   特選  寒満月海馬取りだし洗ひたき 石川一猫 私たちの人生は、過去の記憶の蔵と共にある。人は過去の積み重ねの中に生き、記憶を脳の中に溜め込んでいます。この作者は、自分の脳の中の小さな海馬をつまんで、真水で綺麗に洗いたいと言っているのです。さらに、その水に洗われた海馬は、寒満月の下、見事なサラブレッドに変身します。一頭の馬が寒満月の煌々と照る大海原のムーンロードを駆け抜けていくのです。心情の形象化、そしてシュールレアリスティックな幻想。そのダブルイメージの美しさに、しびれました。 入選  返り花佳い人に逢ひに行くのさ 見原万智子 初冬の青空に咲く返り花は、しかし決して実を結ぶことはありません。作者はその返り花に共感しています。「逢ひに行くのさ」という口語表現が、心情を照れ隠しするようで効いています。作者は返り花のようなある種の不器用さを抱えながら、もうこの世にはいない、俗世の汚れに染まらない心の綺麗な人に会いに行こうとしているのでしょう。  待つと言ふほのめく日あり冬樹に芽 若山千恵子 一字ちがえばさらに素晴らしい句です。『ほのめく日あり』が『ほめく日のあり』ならば。「ほめく」はほてること。熱をうちに持つことです。そうして、心の中のひそかな懊悩が表現されていれば、立ちどころに切ない恋の句になりました。特選に選んでいたかもしれません。  ジャムの蓋どうにも開かぬ漱石忌 長尾かおり 漱石の文学に親しんだ方の句だと思います。ご存じのように漱石は自身の兄嫁にプラトニックな恋をしました。その純粋な生涯の恋ゆえに、私は漱石の中にはいつも満たされない思いがあったと思っています。この句は、香り高い薔薇のジャムの蓋が開かない句です。  冬帽のうしろ姿もわかる仲 松居舞 この中で一番明るい句だと思います。愛情があれば、冬帽をかぶっていても、どんな姿であってもその愛する人を気配で見つけられるのです。  茶の花の背中合はせに睦むかな 小泉良子 べたべたしていない、愛の句、いいですね。空気のようにただ居るだけの仲、茶の花のひっそりとした静かな佇まいに、心を通わせる愛を言祝いでいるのだと思います。  北窓を塞ぐ人形老いにけり 日山典子 この人形はきっと目の大きな可愛い妻、もしくは優しい姉。しかし、老いを免れることはできません。この作者はきっと長い間、家族の心に吹きすさぶ北風のついたてのような役割をされてきたのだと思います。  波郷忌や舌頭呪文の霜柱 大熊峰子 ユニークで面白い句です。波郷という人は切れを大切にしました。この作者も霜柱に事寄せて、俳句の切れをとても大事にしている作者だと思います。最高の句というのは、結局呪文の域にまでなるものです。   簡潔でありながら、司会者の方も仰っていたように「熱のこもった鑑賞」。今回は「海馬」の句の鑑賞に特に感じましたが、恩田先生の評を聞いているといつも、そこに書かれている(もしくはひっそりと連なっている)句の言葉一文字一文字を手のひらに載せて目を凝らしている先生の姿を想像してしまいます。「このように書かれているのだからこうも読めるはず」という読むことの無限の愉しさを、身振り手振りも含めて体現しているのが、恩田侑布子の披講なのではないか、とそんなことを思いました。 また、恩田先生の選では、樸から見原万智子さんの句が選ばれていました。見原さんはもう一句、鳥居真里子先生の入選にも選ばれました。以下、見原さんの句と鳥居先生の評です。  はればれと無才のまゝをゆく枯野 見原万智子 共感いたしました。私もほんとうにそうなので。——でも、枯野でもね、はればれとゆく気持ち。その気持ちが素敵だなと思いました。   イベントで披講された句のうち、筆者が印象に残ったのも本句。当日投句した2句とも選ばれず残念な気持ちでいましたが、見原さんの句に「はればれと」したまま、人生初となる俳句大会を楽しむことができました。 樸入会後、Zoom句会に参加して1か月と少し。画面越しにずっとお話ししてきた恩田先生、そして樸の句友に、ようやく生でお会いすることができた記念すべき日となりました。