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ふじのくに茶の都ミュージアム対談「茶の湯と俳諧」レポート

山本綾子  樸会員 牧之原の茶畑を雨粒がしっとりと濡らす令和7年11月9日。ふじのくに茶の都ミュージアムにて熊倉功夫館長と恩田侑布子先生による対談「茶の湯と俳諧」が開かれた。    「静岡が誇る俳人であり文芸評論家である——」。熊倉館長による恩田先生の紹介から会は始まった。 続いて、事前公募で投句された75名265句の中から選ばれた特選3句、入選12句が1句ずつスクリーンに映し出された。兼題の「茶」「茶の花」「富士」の斡旋により風土が滲む句が並ぶ。 ご自身の鑑賞をまとめたメモが行方不明になるという小さなハプニング。静岡弁で慌て者を意味する「あわっくい」という言葉も飛び出し、恩田先生の飾らないお人柄に会場の空気が和んだのち、1句ずつ選の理由が披露された。 深い共感性、郷土愛、人間愛による鑑賞が瑞々しい言葉で紡がれる。私自身日頃感じている静岡への敬慕をますます募らせる時間となった。 また、句の中にある、切れによる余白、時空を超えた句柄の大きさ、言葉選びの盤石さなど、俳句文芸特有の表現法にも触れた。学んでいる人にもそうでない人にも、その奥深さや面白さが伝わるお話だった。      熊倉館長と恩田先生の対談では「茶の湯と俳諧」の関係性が語られた。 ・茶の湯に精通した伊賀の藤堂家に仕えたことによる芭蕉の作句への影響 ・茶の湯におけるにじり口、扇など「結界」を意味する様式と俳句の「切れ」の共通性 ・茶の湯の「一座建立」、俳句の「座の文芸」に象徴される日本人特有の「衆の文化」 etc. お二人の知識と考察力により内容は広がりと深みを増し、大変聞き応えのある時間となった。 終了後は恩田先生との記念撮影を希望する参加者の列ができた。 豊かな日本文化の歴史と機微に触れる実り多き会となった。 個人的には樸句会で2年半培った知識により、どうにかお二人のお話についていけた自分に少しの満足感を得た。書き留めた調べるべきことの多さに、底なし沼であがいているような気持ちにもなり、己の無知を知った。勉学心を刺激し続けるだろう俳句と恩田先生に改めて感謝の念が湧いた。