
2023年12月23日 樸句会報 【第135号】 暖かな日が続いていた後にやってきた寒波で、空気がピンと張った冬晴れの日。今年最後の句会がありました。
兼題は「数へ日」「鍋焼」「熊」。
特選2句、入選4句、△4句、レ4句、・8句。高点句と高評価の句があまり重ならなかったことから、それぞれの読みをめぐって活発に意見が交わされました。「鍋焼」の食べ方談義も楽しい時間でした。
◎ 特選
斎場のチラシかしまし冬の朝
林彰 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「冬の朝」をご覧ください。
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◎ 特選
警笛に長き尾ひれや熊渡る
小松浩 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「熊」をご覧ください。
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○入選
数へ日やかき抱きたき犬のなし
天野智美 【恩田侑布子評】 「かき抱きたき人」ではなく「かき抱きたき犬」で、とたんに俳諧になった。いつも一緒にいた小柄なお座敷犬が想像される。その愛らしかった瞳やら毛並みやら。もう一緒に迎えるお正月は来ない。「数へ日」が切実である。
○入選
星なき夜熊よりも身を寄せ合はす
見原万智子 【恩田侑布子評】 「星なき夜」でなければならない。一粒でも星が瞬けば童話になってしまうから。月もない真っ暗な夜。希望もない。声もない。が、「身を寄せ合はす」人がいる。飢えかけているときに一番食べものが美味しいように、絶望しかけている時ほど、愛する人がいる幸せを感じる。居ないはずの熊を感じるのは、作者が熊になりかわっているから。
○入選
数へ日の日毎重たくなりにけり
海野二美 【恩田侑布子評】 毎日は二十四時間で変化がないはずなのに、年が詰まり、あとわずかになると、言われるように一日が沈殿するように「重たくなる」。あれもしていない。こっちの片付けもまだ何もやっていない。どうしよう。日数が足りない。途方に暮れても、時間の流れは容赦ない。省略が効いていて、覚えやすい良さもある句。
○入選
鍋焼吹く映画の話そっちのけ
成松聡美 【恩田侑布子評】 映画の帰りに店に寄ったのだろう。今まで夢中で主人公や脇役の話をしていたのに、「鍋焼」が湯気を立てて運ばれてきた途端、もう映画なぞ「そっちのけ」。ふーふー。ずるずる。アッチッチと言ったかどうか知らないが、美味しく楽しく夜はふけてゆく。
【後記】
年末のあわただしい気分がありながら、句会の間は別の時間が流れているような気持ちにもなりました。
「“発見”が大事といつも言っているけれども、それは“知”“頭だけ”での発見ではなくて“知・情・意”があるものでなければ」との恩田先生の言葉に、詩的な発見のための構えについてあらためて感じるところがありました。また、「情、気持ちの切実さは十分に持ちつつそれに耽溺せず表現するのが俳句」との言葉も。難しい、ですが、その難しさを楽しむ気持ちで新年に向かえたらと思っています。 (猪狩みき) (句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)
==================== 12月12日 樸俳句会
兼題は「冬ざれ」「山眠る」「枇杷の花」です。
特選2句、入選3句を紹介します。
◎ 特選
テレビとは嵌め殺し窓ガザの冬
古田秀 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「冬」をご覧ください。
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◎ 特選
枇杷の花サクソフォーンの貝ボタン
益田隆久 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「枇杷の花」をご覧ください。
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○入選
枇杷の花いつか一人となる家族
活洲みな子 【恩田侑布子評】 枇杷はしめやかな花。半日陰を好むようで、遠目にはそれと知れない。トーンの低い冬の日差しに似合う。大きな濃緑の葉影に静まって地味に群れ咲く。「いつか一人となる家族」。この感慨にこれほどピッタリと収まる花は他にはないだろうと思わせる。
○入選
磔の案山子の頭ココナッツ
芹沢雄太郎 【恩田侑布子評】 案山子は秋の季語。ココナッツの頭はエキゾチック。作者は南インド在住の芹沢さんと想定して入選に。
まず案山子を「磔」とみたことに驚かされる。今まで衣紋掛けは連想しても、キリストの磔刑など、夢にも想わなかった。言われてみれば、案山子が痩せこけた磔刑像のキッチュなポップアートのように思えてくる。そこら辺のココナッツで無造作に頭を代用しているとなればなおさら。インドの原色の服装も見えてくる。名詞をつないで勢いのある面白い俳句だ。
○入選
きれぎれに防災無線山眠る
成松聡美 【恩田侑布子評】 よくある山村が目に浮かぶ。限界集落ともいわれる山間地の寒村だろう。「きれぎれに」の措辞がリアル。谷住まいの評者も日々経験しているが、山や木や風に遮られて明瞭には聞こえてこないもの。ばかばかしいほどゆっくりとした広報の声が風に乗って、だいたい何を伝えたいかだけはわかる、あいまいの国、日本。「空気が乾燥しているので火の元に気をつけましょう」とか。大したことは言っていなそう。山は安堵して眠りについている。

2023年10月21日 樸句会報 【第133号】 秋の吟行句会。本日は滅多に見られないほどの秋晴れに恵まれました。
藤枝市岡部町朝比奈地区に戦国時代から伝わる、朝比奈大龍勢を見に行きました。
ここは、俳人の村越化石さんの生誕地です。
また、大龍勢のすぐ隣の休耕田ではコスモス畑が見頃を迎えておりました。
茶室瓢月亭がある玉露の郷、昆虫館、あさぎまだらの乱舞、村越化石さんの句碑など素材が満載の吟行となりました。 「句友あり金木犀の香の中に」(恩田先生の句)
今日ほど、「句友あり」という喜びを実感したことはありませんでした。 「先駆けの子らの口上天高し」(前島さんの句)(本日の最高点句)
会場のどよめき、一体感、感動の瞬間。 「大龍勢龍の鱗は里に降り」(活洲さんの句)(本日の次点句)
四方八方に飛び散る生きているかのような赤青黃の龍たち。鱗と見立てた美しい落下傘や紙吹雪、この地と人々への豊祝。 特選3句 入選3句 △5句 レ14句 ・2句 計27句(出句は計50句)
◎ 特選
大龍勢龍の鱗は里に降り
活州みな子 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「大龍勢(花火)」をご覧ください。
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◎ 特選
露の玉点字の句碑に目をとづる
益田隆久 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「露の玉」をご覧ください。
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岡部町、大龍勢
先駆けの子らの口上天高し
前島裕子 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「天高し」をご覧ください。
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○入選
秋の苔弱き光をこはさぬやう
天野智美 【恩田侑布子評】 繊細な感受性がとらえた「秋の苔」の本意。岡部の玉露の里に建つ茶室瓢亭うらの山かげは、ささやかな万葉植物園の趣。藤袴とあさぎまだらの楽園をプロローグとして、林間に一歩ふみ入るや、冷やかな苔のしじまの小道になる。無造作に置かれた庭石にも苔がみっしり。「弱き光をこはさぬやう」といいさしたデリケートな句形と調べは内容と協奏し、ピアニッシモのひかりを漂わす。
○入選
大龍勢花笠受くる秋の水
天野智美 【恩田侑布子評】 龍勢の打ち上げ会場を途中で引き上げ際、本日最高と思われる高さへ上り、長い空中遊泳を果たした一本の竹竿が薄桃色の落下傘を広げてゆらめくように舞い降りてきた。これは、その長細い竹の尾が恥じらうように秋の川面に触れる瞬間である。秋真澄の空と水との間に、村人が丹精して作った花笠が舞う。天、水、人がかたみに照らしあう思いがけない静けさ。
○入選
秋うらら桂花の菓子を頬張れば
佐藤錦子 【恩田侑布子評】 木犀の花びらをいっぱい摘んで酒にしたのが桂花酒。香り高い酒を紅茶に滴らすのもいいが、漬けた花びらをこんもりとマフィンの上によそって食すのもいい。今回は吟行会場まで、未知の水素自動車で送迎してくださる仲間に恵まれ、恩田には、句友のみんなに配るマロン入り蒸しケーキを作る余裕が生じた。これもこじんまりした会だからできること。それを頬張って「秋うらら」とよろこんで下さる佐藤錦子さんの贈答句に感激した。贈答はよろこびの連鎖をひき起こす。これも現場でのナマの楽しい交流があればこそ。
【後記】
準備段階から藤枝在住の3人で何度も集まりました。
友情と結束が深まったことは大きな収穫です。
65歳過ぎてから新たな友人が出来たことは人生の僥倖です。俳句のお蔭です。
顔を見合わせてやる句会とZOOMでは情報量が全然違います。
ノンバーバルコミュニケーションの情報は大事です。
つまり顔の表情、しぐさ、声の波動の情報など。
帰りの車内でも、「吟行句会っていいね」という話で盛り上がりました。
遠方からの参加は大変ですが、それに見合う以上の収穫があります。
欠席された方も次回はぜひご参加下さい。 (益田隆久) (句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)
==================== 10月9日 樸俳句会
兼題なし、当季雑詠のみの句会でした。
入選1句、原石賞1句を紹介します。
○入選
うそ寒や喉のんどにのこる無精髭
活洲みな子 【恩田侑布子評】 感覚が利いている。朝は喉元の髭を剃り残したことに気づかなかったが、今気づいた。その時ふいに、この秋になってはじめて身に沁みる寒さを感じた。ルビが「のみど」なら、いっそう調べが内容にマッチします。
【原石賞】天空は豊饒の海鰯雲
岸裕之
【恩田侑布子評・添削】 入選で採られた林さんの解釈「夕空の風景として素晴らしい」という発言から、急に、句頭を一字変えさえすれば、たまゆらの代赭色の豊饒感が眼前に迫ってくることに気付かされました。 【添削例】夕空は豊饒の海鰯雲

2023年10月21日 樸句会特選句 大龍勢龍の鱗は里に降り 活洲みな子
日本三大龍勢の一つが五年ぶりに開催された。芭蕉の句、〈梅若菜鞠子の宿のとろろ汁〉の西隣の宿が岡部。旅籠だった「柏屋」から朝比奈川を車で数分遡れば玉露の里に出る。稲穂を収穫したての真昼の刈田に、思い思いの桟敷を広げ、連ごとに丹精をこめた龍勢花火をみんなで見物し、天空の技を競い合う。ガンタと呼ばれるロケット部に花火や落下傘など曲物を詰め、山裾から伐った竹に火薬を詰めて推進力とする。十数メートルの尾を持つ竹幹が、みるみる秋天を駆け登り、工夫の曲物を青空に花のように散らするさまは壮観である。
この句はまず「大龍勢」と祭全体を息太く打ち出し、次いで空中に弾ける花火やパラシュートや紙吹雪を龍の「鱗」と見立てたところ、技アリである。龍の鱗が、群衆の頭上にも家々にも、きらきらと降り注いでいるよ。谷あいの里に暮らす老若男女を丸ごと祝福する作者の慈愛にも包まれてしまう。 (選 ・鑑賞 恩田侑布子)

2023年9月10日 樸句会特選句
読み耽る昭和日本史虫の闇 活洲みな子 半藤一利の『昭和史』の戦前・戦後編二冊本だろうか。 加藤陽子の『さかのぼり日本史(2)昭和 とめられなかった戦争』だろうか。いやいや水木しげるの『昭和史』全八冊もある。そこには小中高の学校では教わらなかった日本の加害者としての謀略や狂気の実態が書かれている。「読み耽る」の措辞に、次々信じがたい歴史の展開に息を呑む実感がこもる。夜は更けても中断できない。ここに書かれていることも著者の一つの解釈であり、真相は一匹一匹の虫が抱く深い闇の中だ。しかも未だに解決されず、衰退する日本の今につながる問題も多い。虫の音はいよいよ澄みわたり、名もなく戦禍に斃れていった兵卒の声のよう。
(選 ・鑑賞 恩田侑布子)

2023年7月16日 樸句会報 【第130号】 連日のように熱中症警戒アラートが発表され、以前の7月の風景を忘れそうな日々が続いています。季語は、季節の変化を繊細に捉えて長い期間をかけて生み出されてきたのだと聞きますが、最近の気候変動によって今後も変化していくのでしょうか。そんな目で俳人の句を鑑賞するのも面白そうです。
今回の兼題は「涼し」「日傘」「ビール」、入選2句、原石賞2句を紹介します。
○入選
指ながき男の選ぶ日傘かな
小松浩 【恩田侑布子評】 先頃まで日傘は女性のものだった。紫外線の害がいわれ、猛暑日が増えた現在では、若い層を中心に男性でも日傘を差して歩く人が珍しくない。作者はまだ、やや抵抗のある世代らしい。店頭のメンズ日傘のコーナーにさっきから男性がいる。見るともなく見ていると、ほっそりと長い指が選びあぐねている。力仕事や農作業などとは、一度たりとも縁がなさそう。選んだ日傘もユニセックスの軽さ。現代の都会生活の一コマをさらりと描いて涼味がある。
○入選
父母の馴れ初め聞きし缶ビール
活洲みな子 【恩田侑布子評】 「父母の馴れ初め」に「缶ビール」が効いている。お見合いなどのかしこまった席ではなく、日常の場でひょんなことから出会ったという縁の不思議さ。プルトップ缶を両親と自分の三人で次々開ける軽快な響きと泡のさざめきは、仲の良い両親から生まれ育った満足感を存分に伝える。父と母の若かりし日へ楽しい想像が広がる句。
【原石賞】蝙蝠にベクトルの始点は何処?
益田隆久 【恩田侑布子評・添削】 「ベクトルの始点は何処」が出色。確かに蝙蝠はどこから来たのか、そして、どこへ向かうのか、永遠の謎のよう。ただし、原句の「?」は、読み下した時のリズムの悪さを補うためのものに思える。調べの不安定さを解消するには、順序をひっくり返し、下五に五音の季語を据えるとよい。
【添削例】ベクトルの始点はいづこ蚊食鳥
【原石賞】日傘して区割の墓苑の果てもなし
天野智美 【恩田侑布子評・添削】 大都会の郊外に広がる広大な霊園だろう。住宅の何丁目何番地ではないが、墓地の住所もブロック割りされ、さらに縦横に伸びる通路には符牒が振ってある。のっぺりとした平面に茫漠と広がる墓石の群が見えてくる。まず、中七の字余りを解消し、次に、炎天を墓参に訪れて途方に暮れる思いと、うろうろと墓苑をさまよう姿の小ささを座五の「白日傘」に象徴させたい。
【添削例】果てもなき区割の墓苑白日傘
【後記】
今回は、樸俳句会にとって3ヶ月に一度の対面の句会でした。前後左右から声が飛び交い、心なしか会話も弾み、以前に行われていた対面句会の楽しさが蘇ってきました。
一方で、樸のZoom句会は10ヶ月目に入りました。静岡県外や海外に居る仲間が増え、これまで以上に多様な句に触れる楽しさを感じています。同じ兼題からこんなに自由な発想ができるのかと驚いたり、知らない言葉を目にして日本語の豊かさに触れたり…。まだまだ自分の感じている世界は小さいなぁと、反省することしきりです。
これからも多くの方に御参加いただき、樸俳句会の裾野を広くして豊かな句の世界に触れていくことと、たまにリアルにお会いして親交を深めていけることを楽しみにしています。
(活洲みな子) (句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です) ==================== 7月2日 樸俳句会
兼題は「夏至」「登山」「凌霄の花」です。
入選3句、原石賞1句を紹介します。
○入選
門柱と凌霄残る駐車場
天野智美 【恩田侑布子評】 「門柱と凌霄」だけが「残る駐車場」で、「だけが」が省かれている。すでに既存の家屋は解体され、更地になって駐車場として利用されている。しかし、まだ門柱だけは残り、凌霄花が取りついている。家族が住んでいたのか、旅館もしくは店があったのか、往時の夏と同じように咲き誇っているのである。真夏の凄まじさが感じられる。
○入選
緑蔭にボタンダウンは小紋柄
益田隆久 【恩田侑布子評】 おしゃれな作者は他人の服装にも敏感。江戸小紋のような和風の繊細な木綿柄を、アイビールックのボタンダウンに仕立てた気の利いた和洋折衷の夏シャツで、緑陰におやっと目を止める涼しさ。軽快な小品である。
○入選
禊祭
夏至の朝綱ゆったりと夫婦岩
上村正明 【恩田侑布子評】 伊勢の二見浦まで出かけて、暁闇から禊祭を修された作者。実地の海風に身をまかせたがゆえに「綱ゆったりと」の措辞が自然に口をついて出た。男岩と女岩は、猿田彦大神を祀る興玉大神おきたまのおおかみを拝する鳥居でもあり、日の出の遥拝所でもある。綱が海面上に弧を描いて、その果てから夏の朝日が登ってくる。太陽を崇拝し、根の国に憧れた古代人と、時を超えて一体化した夏至の朝ならではの満足感。品格ある吟行句。
【原石賞】浜通り蜥蜴の色に時止まり
益田隆久 【恩田侑布子評・添削】 前書きがないと、福島県の海岸地域である「浜通り」を連想する。作者は、小泉八雲が避暑地とした焼津の浜通りが「蜥蜴の色」という。ならば、全国の読者に誤解を与えないために「焼津」の前書きが必要になる。さらに地元の人が、毎年滞在してくれた八雲を偲んで「八雲通り」とも呼んでいるなら、その別称の方がより陰影があって面白い。句末は連用形で流してはもったいない。碧い時を止めよう。
【添削例】
焼津
八雲通り蜥蜴の色に時止まる

2023年6月4日 樸句会報 【第129号】 九州から東海地方では、例年より1週間以上早い5月29日ごろに梅雨入りしたとみられると、気象庁が発表した直後の6月第1週。早くも台風2号が日本列島に接近、梅雨前線を刺激して、各地に甚大な被害をもたらしました。樸でも、代表の恩田先生が避難所で不安な数時間を過ごされ、会員の中にも菜園の片付けを余儀なくされる方がいらっしゃいました。一方、句会は4月1日の吟行以降、豊作が続き、今回も特選3句・入選2句が生まれました。以下、紹介いたします。
兼題は「五月雨」「草取」「萍」です。
◎ 特選
人類に忘却の銅羅水海月
田中泥炭 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「海月」をご覧ください。
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◎ 特選
隠沼こもりぬにあすを誘ふ栗の花
田中泥炭 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「栗の花」をご覧ください。
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◎ 特選
空蟬はゆびきり拳万の記憶
益田隆久 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「空蝉」をご覧ください。
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○入選
五月雨や猫の遺ししアルミ皿
活洲みな子 【恩田侑布子評】 少しも止む気配のない五月雨。長梅雨です。ついこの間まで一緒にいた愛猫が、いまはもう、影も形もなくなってしまいました。ただ部屋の片隅に、いつも餌をよそっていたお皿がそのままになっています。改めて気づくと、ペラペラの銀色のアルミ皿でした。そうか、みゃーちゃんは一生この薄い銀色のお皿で食事をしたんだなぁと胸に迫ります。五月雨はただ家を包んで降り続くだけ。さ行音が内容にふさわしいやさしいリズムを醸す可憐な愛に満ちた作品です。
○入選
五月雨の垂直に落つ摩天楼
岸裕之 【恩田侑布子評】 ふつう雨はまっ直ぐ落ちます。しかし、五月雨が摩天楼の壁面スレスレを垂直に落ちる、それだけを改めて提示されると、日常空間が変容し出すから不思議です。高層ビルの千余の窓を擦過することもない無数の雨筋が、無機質の永遠を暗示し、非日常の静寂を幻出しています。省略の効いたミニマルアートを思わせます。
【後記】
樸の句会の楽しみ、奥深さは、特選や入選に選ばれる句を作れるようになるかということとともに、優秀な句を挙げる選句眼を養うことにもあります。初心者はまず作句よりも選句の力を身につけることが大切であるとの指導が毎回繰り返しなされています。作句の基礎をたたきこまれながら、選句にも真剣に臨み、先輩姉兄についていきたいと考えています。
(鈴置昌裕) (句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です) ==================== 6月18日 樸俳句会
兼題は「誘蛾灯」「河鹿」「南天の花」です。
特選3句、入選1句、原石賞1句を紹介します。
◎ 特選
寝袋の中の寝返り河鹿鳴く
活洲みな子 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「河鹿」をご覧ください。
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◎ 特選
待ち人にもはや貌無し誘蛾灯
見原万智子 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「誘蛾灯」をご覧ください。
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◎ 特選
花南天兄にないしょの素甘かな
島田淳 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「南天の花」をご覧ください。
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○入選
梅雨鯰南海トラフ揺さぶるや
林彰 【恩田侑布子評】 ひとたび南海トラフ地震が起これば、静岡以西に震度7、関東以西に大津波をもたらし、被害甚大な巨大地震となるそうだ。その原因が、あの太くて長い髭を持つ、もっさりおじさんのような「梅雨鯰」の動きにあるというから愉快だ。いや、震源近くになるかもしれないのに、面白いなんて言っていられない。恐ろしい。「揺さぶるや」という下五の問いかけが、梅雨鯰にも、日本全体にも向かっていて、結論を出さず、反響し続けるところがいい。
【原石賞】奔流は日を抱きこめり揚羽蝶
古田秀 【恩田侑布子評・添削】 言わんとするところにポエジーがあるが、やや隔靴掻痒の感。原句を読み下すと、座五のリズムがもったりし、「奔流」の勢いが死んでしまう。また「揚羽蝶」は黄色が目立つので、奔流と日にまぎれ、ぼやける。奔流の勢いを生かし、真夏の蝶の狂おしさを出すには、白波と対比的な「烏蝶」がいいのでは。
【添削例】烏蝶奔流は日を抱きこめり

2023年6月18日 樸句会特選句
寝袋の中の寝返り河鹿鳴く 活洲みな子 川の上流の渓谷にテントを張ったのか。あるいは、渓谷沿いにマイカーを停めて座席をフラットにし、夜泊するのか。いずれにしろ、シュラフに入ったものの、気分がどこか昂っていて寝付けない。辺りがふだんの生活とあまりにも違いすぎる。山奥の星の光は強く、闇の底に河鹿の声がときおり聞こえる。中七、シュラフの「中の寝返り」に実感がある。切れ切れに鳴く夜の河鹿に身体感覚が響き合ってリアルだ。
(選 ・鑑賞 恩田侑布子)

2023年5月7日 樸句会報 【第128号】 太陽暦5月、[さつき]です。今回から季語が[夏]になりました。歳時記の冊が改まりました。実感としては まだ[夏]には早い感もありましたが、季節感は捉え直すものと思い直しました。
兼題は「立夏」「葉桜」「柏餅」です。特選2句、入選2句、原石賞3句を紹介します。
◎ 特選
父母は茅花流しの向かう岸
活洲みな子 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「茅花流し」をご覧ください。
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◎ 特選
紙兜脱ぎて休戦柏餅
上村正明 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「柏餅」をご覧ください。
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○入選
初夏やタンクトップにビーズ植う
都築しづ子 【恩田侑布子評】 なんの飾りもないタンクトップに、細やかなビーズの光を添える。一人の手芸の時間を楽しむ作者に、心ときめく夏の日々の予定が想像される。ことに、句末の「植う」は秀逸。たんなるおしゃれさんではない聡明な作者の横顔が目に浮かぶよう。
○入選
葉桜の校庭脇の土俵かな
都築しづ子 【恩田侑布子評】 相撲部のために校庭の隅に「土俵」がこしらえてある。すべすべして白い土俵の土と葉桜の配合がいかにも初夏の涼風を感じさせる。ひとけがなく静まっている土俵というものはいいもの。
【原石賞】真新しちちの墓石に緑さす
前島裕子 【恩田侑布子評・添削】 ついこの間まで肉体があって手に触れられた父が、墓石になってしまった。「真新しい」という句頭に思いが溢れる。おりしも白御影と思われる石に若葉のかげがさしている。墓石になった父が、地中から自分を励ましてくれるようだ。「生きているうちはしっかり前を見て歩きなさいよ」。原句は、「真新し」の終止形で上五に切れが生じ、中七の「ぼせきに」も軽い一呼吸があり、リズムがややたどたどしい。「真新しき」と打ち出したいが字余りになるので、上五は「真新まつさらな」として感動の焦点を絞り、「ぼせき」は「はかいし」とやわらかい調べにしたい。悲しみが言外に伝わるとともに作者の決意が感じられてくる。
【添削例】真新なちちの墓石緑さす
【原石賞】スマホおす付け爪のゆび薄暑光
前島裕子 【恩田侑布子評・添削】 現代の若い女性は爪先に凝る人が多い。ネイルアートや付け爪まで。それをスマホと取り合わせた動きのある光景がいい。ただし、「おす」は鈍い感じ。「すべる」にすれば、上滑りの生の在り方まで暗に感じられ、現代人の表層的な生の哀しみも微かににじむ。
【添削例】スマホすべる付け爪のゆび薄暑光
【原石賞】黒々と命名の「郎」の柏餅
都築しづ子 【恩田侑布子評・添削】 生まれてまず子供に名前をつける。この時の高揚感は生涯忘れられないもの。うやうやしく墨を摺り、真っ白な奉書紙にその名を大きく記す。親になった確かな感慨が迫る。原句はこうしたゆたかな内容に、のんべんだらりとしたリズムがそぐわずもったいない。「黒々と」ではマジックペンもあり得る。墨書であることを打ち出せばさらに格調が生まれよう。
【添削例】命名の「郎」の墨痕柏餅
【後記】
Zoom句会は毎回、参加者の一人か二人に小さな機械トラブルがありますが、「PCを買い替えた」「これを買い足した」とのご報告が相次ぎました。すっかり安定したという報告の方もあり、少しずつ安心しています。句会は、先生から「今回は好句が多かった」とのお言葉で、お点を頂戴した者も嬉しかったことでした。
私事ですが、坂井は東京で務めた新聞の後の地元紙での勤務も期限となり、ほぼ隠棲の身になりました。今後とも一層、よろしくお願いします。 (坂井則之) (句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です) ==================== 5月21日 樸俳句会
兼題は「卯波」「蜥蜴」「新樹」です。
特選1句、入選1句、原石賞4句を紹介します。
◎ 特選
卯波立つ廃炉作業の発電所
猪狩みき 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「卯波」をご覧ください。
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○入選
碌山の≪女≫漆黒新樹光
岸裕之 【恩田侑布子評】 長野県の碌山記念館は新樹の木立に包まれている。天井のステンドグラスから緑のひかりがさす。安曇野を生地とする夭折の彫刻家、荻原守衛(号・碌山)の代表作にして遺作「女」は、作者自身の、叶うはずもなかった片恋に発した、憧憬と懊悩を体現している。裸婦の漆黒の肌に移ろってやまない初夏の碧いひかりに魅せられる。
【原石賞】囀りに絢爛湧きぬ身内かな
見原万智子 【恩田侑布子評・添削】 「囀り」は春の季語で、五月下旬の句会投句には不適切。とはいえ、発想にめざましい詩がある。自然のなかで春鳥の豊潤な囀りに包まれていると、わが身の裡からも「絢爛」たるものが湧き立ってくるようだ。原句は中七の「湧きぬ」で切れ、囀りと自分の身とが分断されてしまった。句末の切字「かな」もはたらいていない。沸き立つ思いは一挙に書き下ろすべき。
【添削例】囀りに身の絢爛の湧き立ちぬ
【原石賞】寄せ返す頭痛卯の花腐しかな
古田秀 【恩田侑布子評・添削】 新緑は美しいが、神経の繊細なひとにはつらい時期でもある。朝から頭痛が寄せては返す波のよう。卯の花腐しの雨も降っていて、やるせない。暖かくなったとはいえ、足元や首筋は若葉寒である。原句は、「寄せ返す」が、やや辿々しい。「さざなみの」とすれば、「卯の花」の細やかな白い花ともひびき、愛誦性も増しそうだ。
【添削例】さざなみの頭痛卯の花腐しかな
【原石賞】緑蔭に水滴の兎と居れり
益田隆久 【恩田侑布子評・添削】 山居の新緑の木立に文房四宝の白兎の水滴。美しい光景である。とはいえ、内容は詩、読み下すと散文。句末の「居れり」は取ってつけたよう。つまり、原句は「緑蔭に水滴の兎」。ここまでで見事に完成した短詩、あるいは短律になっている。個人的には短律もいいと思うが、作者が定型の俳句にしたいなら、さらに「水滴の兎」の焦点を絞りたい。
【添削例】緑蔭にみみたて水滴の兎
【原石賞】沖の卯波海道の名はストロベリー
都築しづ子 【恩田侑布子評・添削】 言わんとするところは面白い。原句の「海道の名はストロベリー」は説明っぽいので、いっそ、ひと塊の固有名詞、「ストロベリー海道」にしてしまおう。いちごの赤い色の点在と、白い卯波とが引き立て合い、調べも軽快になる。
【添削例】ストロベリー海道よする卯波かな
代表・恩田侑布子。ZOOM会議にて原則第1・第3日曜の13:30-16:30に開催。