
恩田侑布子は2024年9月から、静岡新聞文芸欄「俳句」(月1回最終火曜日の朝刊に掲載)の選者を務めています。 その中から、特選、入選、秀逸に選ばれた樸会員の句を紹介します。 恩田侑布子 写真 2024年 10月 入選 ぱぱあつちいけ西日さすはうにいけ 芹沢雄太郎 11月 特選一席 秋澄むや母に五分粥喰む力 活洲みな子 [評] 病み衰えてゆく母の介護はつらいもの。ことに天高い日は。若かった頃の思い出が蘇ります。野や川で一緒に笑いころげたこと。大人になって楽しんだ旅。ベッドの母はまだ流動食ではありません。五分粥を食べられます。一日でも長生きして。秋真澄の祈りが句末の「力」に込められています。 秀逸 お使ひの袋引き摺り秋夕焼 芹沢雄太郎 12月 入選 レジ閉ぢて急ぐ背中や寒北斗 益田隆久 ルービックキューブ冷たし揃ふても 芹沢雄太郎 2025年1月 入選 枯木立感光液の水たまり 益田隆久 2月 入選 短日のバスを待ちつつにきび触れ 芹沢雄太郎 ラヂオ体操に初鴉来てゐたりけり 益田隆久 3月 秀逸 早春の怪獣膝を抱へをり 芹沢雄太郎 4月 特選三席 ひこばえや皆貧しくて皆笑ひ 益田隆久 [評] ひこばえは孫生(ひこばえ)の意で、刈られた木が春になって芽吹く命の再生です。傷めつけられても蘇る植物のいきおいと、失われた30年で貧しくなった庶民が笑いで温め合う日常を、「や」の切れ字で対比し、とりはやしています。句の底には思いやりがあります。こういわれるとトランプのスター気取りの顔が浮かんでくるから不思議です。 秀逸 蒼空や砂紋をのこし大河涸る 前島裕子 入選 三月の遅き回転木馬かな 芹沢雄太郎 5月 入選 図書館の本の汚れや霾れり 前島裕子 6月 入選 白藤の香り天降りて夜の重さ 益田隆久 7月 入選 麦の秋焼きたてホームベーカリー 前島裕子 重力の無きが如しやあめんばう 益田隆久 子と吾の汗合はさりて昼のバス 山本綾子 8月 入選 庭先にサンダル「キュッキュ」小さき客 前島裕子 トマト噛み忘れ去られし歌「友よ」 益田隆久 9月 入選 墓洗ふとなりもかども墓じまひ 前島裕子 10月 秀逸 開けし戸に客人のごと今朝の秋 山本綾子 人情に倦んで猫抱く秋夕焼 益田隆久 入選 戦場の瓦礫に番地虫の闇 活洲みな子 11月 入選 姉妹して父抱きかかへ十三夜 山本綾子 恩田侑布子 写真