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荒川洋治『文庫の読書』好評発売中です

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中公文庫創刊50周年記念 荒川洋治『文庫の読書』(900円+税)たちまち増刷。     尊敬する当代一の現代詩作家・荒川洋治さんの30年間の書評を精選した『文庫の読書』100冊の主要62冊に、『久保田万太郎俳句集』(恩田侑布子編・岩波文庫※2021年9月刊行5刷)を入集していただきました。  どれも今すぐ読みたくなる本ばかり。付箋紙で満艦飾になってしまいます。荒川船長を頼りに、七つの海に漂うよろこび。純文学が止まらない。丸谷才一の書評を凌ぐ、たのしくあたたかく立ち止まらせる書評芸術!  恩田侑布子のいまや座右の書、ほんとうに価値ある文庫です。

句会報告 5月7日

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2023年5月7日 樸句会報 【第128号】  太陽暦5月、[さつき]です。今回から季語が[夏]になりました。歳時記の冊が改まりました。実感としては まだ[夏]には早い感もありましたが、季節感は捉え直すものと思い直しました。  兼題は「立夏」「葉桜」「柏餅」です。特選2句、入選2句、原石賞3句を紹介します。         ◎ 特選  父母は茅花流しの向かう岸            活洲みな子 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「茅花流し」をご覧ください。             ↑         クリックしてください       ◎ 特選  紙兜脱ぎて休戦柏餅            上村正明 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「柏餅」をご覧ください。             ↑         クリックしてください        ○入選  初夏やタンクトップにビーズ植う                都築しづ子 【恩田侑布子評】  なんの飾りもないタンクトップに、細やかなビーズの光を添える。一人の手芸の時間を楽しむ作者に、心ときめく夏の日々の予定が想像される。ことに、句末の「植う」は秀逸。たんなるおしゃれさんではない聡明な作者の横顔が目に浮かぶよう。       ○入選  葉桜の校庭脇の土俵かな                都築しづ子 【恩田侑布子評】  相撲部のために校庭の隅に「土俵」がこしらえてある。すべすべして白い土俵の土と葉桜の配合がいかにも初夏の涼風を感じさせる。ひとけがなく静まっている土俵というものはいいもの。       【原石賞】真新しちちの墓石に緑さす                前島裕子 【恩田侑布子評・添削】  ついこの間まで肉体があって手に触れられた父が、墓石になってしまった。「真新しい」という句頭に思いが溢れる。おりしも白御影と思われる石に若葉のかげがさしている。墓石になった父が、地中から自分を励ましてくれるようだ。「生きているうちはしっかり前を見て歩きなさいよ」。原句は、「真新し」の終止形で上五に切れが生じ、中七の「ぼせきに」も軽い一呼吸があり、リズムがややたどたどしい。「真新しき」と打ち出したいが字余りになるので、上五は「真新まつさらな」として感動の焦点を絞り、「ぼせき」は「はかいし」とやわらかい調べにしたい。悲しみが言外に伝わるとともに作者の決意が感じられてくる。   【添削例】真新なちちの墓石緑さす       【原石賞】スマホおす付け爪のゆび薄暑光                前島裕子 【恩田侑布子評・添削】  現代の若い女性は爪先に凝る人が多い。ネイルアートや付け爪まで。それをスマホと取り合わせた動きのある光景がいい。ただし、「おす」は鈍い感じ。「すべる」にすれば、上滑りの生の在り方まで暗に感じられ、現代人の表層的な生の哀しみも微かににじむ。   【添削例】スマホすべる付け爪のゆび薄暑光       【原石賞】黒々と命名の「郎」の柏餅               都築しづ子 【恩田侑布子評・添削】  生まれてまず子供に名前をつける。この時の高揚感は生涯忘れられないもの。うやうやしく墨を摺り、真っ白な奉書紙にその名を大きく記す。親になった確かな感慨が迫る。原句はこうしたゆたかな内容に、のんべんだらりとしたリズムがそぐわずもったいない。「黒々と」ではマジックペンもあり得る。墨書であることを打ち出せばさらに格調が生まれよう。   【添削例】命名の「郎」の墨痕柏餅     【後記】  Zoom句会は毎回、参加者の一人か二人に小さな機械トラブルがありますが、「PCを買い替えた」「これを買い足した」とのご報告が相次ぎました。すっかり安定したという報告の方もあり、少しずつ安心しています。句会は、先生から「今回は好句が多かった」とのお言葉で、お点を頂戴した者も嬉しかったことでした。  私事ですが、坂井は東京で務めた新聞の後の地元紙での勤務も期限となり、ほぼ隠棲の身になりました。今後とも一層、よろしくお願いします。 (坂井則之) (句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です) ==================== 5月21日 樸俳句会 兼題は「卯波」「蜥蜴」「新樹」です。 特選1句、入選1句、原石賞4句を紹介します。             ◎ 特選  卯波立つ廃炉作業の発電所            猪狩みき 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「卯波」をご覧ください。             ↑         クリックしてください       ○入選  碌山の≪女≫漆黒新樹光                岸裕之 【恩田侑布子評】  長野県の碌山記念館は新樹の木立に包まれている。天井のステンドグラスから緑のひかりがさす。安曇野を生地とする夭折の彫刻家、荻原守衛(号・碌山)の代表作にして遺作「女」は、作者自身の、叶うはずもなかった片恋に発した、憧憬と懊悩を体現している。裸婦の漆黒の肌に移ろってやまない初夏の碧いひかりに魅せられる。       【原石賞】囀りに絢爛湧きぬ身内かな               見原万智子 【恩田侑布子評・添削】  「囀り」は春の季語で、五月下旬の句会投句には不適切。とはいえ、発想にめざましい詩がある。自然のなかで春鳥の豊潤な囀りに包まれていると、わが身の裡からも「絢爛」たるものが湧き立ってくるようだ。原句は中七の「湧きぬ」で切れ、囀りと自分の身とが分断されてしまった。句末の切字「かな」もはたらいていない。沸き立つ思いは一挙に書き下ろすべき。   【添削例】囀りに身の絢爛の湧き立ちぬ       【原石賞】寄せ返す頭痛卯の花腐しかな                古田秀 【恩田侑布子評・添削】  新緑は美しいが、神経の繊細なひとにはつらい時期でもある。朝から頭痛が寄せては返す波のよう。卯の花腐しの雨も降っていて、やるせない。暖かくなったとはいえ、足元や首筋は若葉寒である。原句は、「寄せ返す」が、やや辿々しい。「さざなみの」とすれば、「卯の花」の細やかな白い花ともひびき、愛誦性も増しそうだ。   【添削例】さざなみの頭痛卯の花腐しかな        【原石賞】緑蔭に水滴の兎と居れり                益田隆久 【恩田侑布子評・添削】  山居の新緑の木立に文房四宝の白兎の水滴。美しい光景である。とはいえ、内容は詩、読み下すと散文。句末の「居れり」は取ってつけたよう。つまり、原句は「緑蔭に水滴の兎」。ここまでで見事に完成した短詩、あるいは短律になっている。個人的には短律もいいと思うが、作者が定型の俳句にしたいなら、さらに「水滴の兎」の焦点を絞りたい。   【添削例】緑蔭にみみたて水滴の兎       【原石賞】沖の卯波海道の名はストロベリー               都築しづ子 【恩田侑布子評・添削】  言わんとするところは面白い。原句の「海道の名はストロベリー」は説明っぽいので、いっそ、ひと塊の固有名詞、「ストロベリー海道」にしてしまおう。いちごの赤い色の点在と、白い卯波とが引き立て合い、調べも軽快になる。   【添削例】ストロベリー海道よする卯波かな      

あらき歳時記 卯波

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2023年5月21日 樸句会特選句  卯波立つ廃炉作業の発電所                    猪狩みき  メルトダウンを起こした福島原発である。太平洋から打ち寄せる卯波は、事故の前も後も変わらない。海原は無数の白い卯波を立てて夏の到来を告げる。が、陸に目を転じれば、一世代では解決できない廃炉作業が、未来永劫続いてゆく。歳時記では「卯波」の由来を、卯月の波、卯の花の咲く頃の波と説明するが、中国の『説文解字』では「卯」は門を開ける象形とされ、天門の意をもつ。万物が地を冒して出る、茂ることから、「顕現」の含意がある。掲出句は即物的な乾いた措辞が卯波の白さを引き立てる。季語の本意に、新たに、二十一世紀という時代の翳りを付け加え得た俳句である。                         (選 ・鑑賞   恩田侑布子)

『17音の青春』が発売されました

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『17音の青春 2023』(角川書店 2023・4・10)が発売されました。 第25回目の全国高校生俳句大賞は例年にも増して秀作揃いです。 夏こそ、31,000句から選ばれた若さのパンチを浴びてください。 ことのほか心打たれた10句をご紹介します。(恩田侑布子) 実るなと掴む乳房や春嵐     旭丘高校3年・渡邉美愛 向日葵の群ゆれてゐる忌中かな  徳山高校2年・大迫悠真 二ページで終わる戦争鰯雲    松山東高校3年・宇都宮駿介 炎帝の弾丸スロー走者刺す    西日本短期大学附属高校3年・早川彰太郎 雲泥が交わる干潟ここにあり   神奈川大学附属高校2年・里見直哉 やはらかき泡ほど苦し髪洗ふ   立教池袋高校2年 辻村幸多 夕凪やズボンをめくる手の血筋  慶應義塾湘南藤沢高校3年・魚池妃夏 竜淵に潜み列車は鉄橋へ     横浜翠嵐高校3年・齋藤妃樂 風船の日ごとに色の濃くなりぬ  興南高校3年・安和音南 文字と文字は塊になる夜焚火に  海城高校3年・尾崎寛太

あらき歳時記 茅花流し

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2023年5月7日 樸句会特選句  父母は茅花流しの向かう岸                    活洲みな子  土手や河川敷のそこここに茅花が群生し吹き靡いている。そんな大空の下を歩くと、胸の中の思いも広がってゆく。湿気っぽい南風に空も薄曇り、いつか亡き父母のことを思っている。幼かった日、茅花も卯の花も、名前など何も知らないみどりの野山に親に連れられて遊び呆けたっけ。茅花はほほけて銀色のひかりをすでに白く濁らせている。彼岸に行ってしまった両親との間に水量を増した川が流れている。座五の「向かう岸」を発見したことで、詩的真実が生き物のようにやどった。                         (選 ・鑑賞   恩田侑布子)

あらき歳時記 柏餅

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2023年5月7日 樸句会特選句  紙兜脱ぎて休戦柏餅                    上村正明  「脱ぎて休戦」がかわいい。柏餅もやわらかで、とびっきり美味しそうだ。「紙兜」は新聞紙なのか、大判広告のカラフルな紙なのか。いずれにしても、小さな色紙ではなく、大きな紙で初めて頭にかぶれる兜を親と一緒に作った喜びが溢れている。なんと平和な微笑ましい家族だろう。                         (選 ・鑑賞   恩田侑布子)

4月2日 句会報告

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2023年4月2日 樸句会報 【第127号】  新型コロナウイルスの流行以来、夏雲システムやZoomを駆使してリモートで会の継続を図ってきた樸ですが、4月1回目の句会はついにみんなで吟行することが叶いました。静岡駅に集合し藁科川をさかのぼること45分ほど、山峡の大川エリアでの吟行です。坂ノ上の薬師堂や、茶畑の上をそよぐ栃沢のしだれ桜、さらに山奥へ行き春椎茸の榾場や山葵園を見学しました。その土地と直に心を交わすような季語体験はもちろん、こだわりの十割蕎麦や「深澤清馥」というお茶の奥深い味わい、夕食の山菜御膳や焼き椎茸など食事も素敵で、目も耳も舌も大満足の会となりました。  特選5句、入選3句を紹介します。         ◎ 特選  在の春啜る十割蕎麦固め            海野二美 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「春」をご覧ください。             ↑         クリックしてください       ◎ 特選  お薬師様見下ろす村に花吹雪            海野二美 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「花吹雪」をご覧ください。             ↑         クリックしてください       ◎ 特選  しめ縄の低き鳥居に春の風            猪狩みき 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「春の風」をご覧ください。             ↑         クリックしてください       ◎ 特選  うぐひすや渦を幾重に木魚の目            古田秀 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「鶯」をご覧ください。             ↑         クリックしてください       ◎ 特選  花朧坂の上なる目の薬師            天野智美 特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「花朧」をご覧ください。             ↑         クリックしてください       ○入選  菜の花や家々ささふ野面積                前島裕子 【恩田侑布子評】  飯田龍太は、「傾斜がきついのか、石垣を積んで平地を確保しなければ家が建たない」小黒坂に住み、「俳句は野面積の石垣に似ている」と看破した。野面積みは国土の七割が山間地のわが国になくてはならない擁壁と地固めの伝統技法である。作者は「菜の花や」と、まどかなひかりの黄色を画面いちめんに散りばめて、石工の力量だけで自然石を積み上げる工法こそ「家々」を支えているのだという。発想、表現ともに手堅い俳句だ。       ○入選  御仏のかひなのうちや花万朶                益田隆久 【恩田侑布子評】  花が咲き満ちると誰れしもそぞろに花の木に惹かれてゆく。大枝垂れ桜が天を覆えば、ことのほかの光景。栃沢吟行会での作者は、ほかの人が山葵沢や春椎茸のホダ場へ散策に行く間も、じっと大枝垂れ桜の下に腰を据えて、時を忘れたように句帳を広げていた。きっと「御仏のかひなのうち」に抱かれていたのだろう。法悦に近い陶酔美がある。       ○入選  なけなしの春子守りて犬吠ゆる                岸裕之 【恩田侑布子評】  一週間前にはびっしりと春椎茸がホダ木についていたのに、吟行当日は収穫後の原木が虚脱したように林立するばかり。目をさらにして探すと、ホダ場の隅に小さな春子がかろうじて幾つか見つかった。それを「なけなしの春子」といったのが愉快。がっかりしたわたしたちは、番犬にまで吠えられた。飼い主に忠実に躾られた犬は一見さんをドロボー扱いしたのだった。作者は「小唄」の名取りでもある乙な趣味人。滑稽味が躍如としている。       【後記】  今回は特選が5句も出るという豊穣な句会でした。何よりも、日ごろは画面越しの皆さんと同じ場所を歩き、それぞれに自然と出会い句作する体験は非常に楽しいものでした。また、吟行はその場で上手く作れなくても、後から思い返してふいに良い句ができることもあります。今回で言えば山里の清浄な空気の中で感じたものが、言語化される前の層として無意識の中に堆積していくのでしょうか。早くも次回が楽しみです。 (古田秀) (句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です) ==================== 4月16日 樸俳句会 兼題は「蜃気楼」「海雲」「竹の秋」です。 入選2句、原石賞4句を紹介します。       ○入選  燕来るシャッター開かぬ時計店                益田隆久 【恩田侑布子評】  どこもかしこも、日本の地方の駅周辺はシャッター街になりました。まさに衰退国家の現代詠です。昔は店内のたくさんの時計と燕が同時に時を刻んでいたのに、もう、時計店はシャッターさえ開きません。       ○入選  酢もづくの小鉢に海の遠さかな                小松浩 【恩田侑布子評】  目の前の「もづく酢」を「小鉢」まで焦点を絞って、手のひらに乗るかわいいサイズにしておいて、一挙に「海」の大きさと「遠さ」、遥かな感じがくるところ、対比の効いた巧みな空間構成です。しかも、うそいつわりのない実感に打たれます。長らく海辺で遊びくつろいだことのない、日々の労働に疲れた肉体の影を感じます。       【原石賞】天金に乱の付箋や夕桜                田中泥炭 【恩田侑布子評・添削】  天金の書に、付箋を何枚も斜めに貼ったところを「乱の付箋」としたところ、黒澤明監督の「乱」ではありませんが戦を連想してしまい、「夕桜」のもったりとした本意とずれます。「乱」ではなく「乱るゝ」と和語にし、季語もひらがなで柔らかくしたほうが、この句の元々もっていた唯美空間が生き生きと呼吸を始めます。   【添削例】天金に乱るゝ付箋夕ざくら       【原石賞】回覧板一軒飛ばす竹の秋                島田淳 【恩田侑布子評・添削】  実感はあります。でも、なぜという疑問が残りませんか。人は住んでいるけれど何か理由があって飛ばしたのか。それとも住んでいた方が、老人施設に入られたか、亡くなられたからか。とにかく「一軒」では曖昧すぎます。すっきり「空家」にすると、元の句のスピード感がよりイキイキして、竹の秋のへんに明るい空虚感が引き立ちます。   【添削例】回覧板空家を飛ばす竹の秋        【原石賞】もずく酢や昭和を生きし老ひ未いまだ                上村正明 【恩田侑布子評・添削】  誰にも読める漢字にルビを振るのはご法度です。「老ひ」は間違い。「老い」です。でも、内容は面白い角度から攻めています。ただ助詞一字で句を殺してしまいました。「し」の過去形だとヨボヨボなのに強がっているようにみえます。「て」にすれば、途端に季語の「もずく酢」が生きてくるから不思議です。   【添削例】もづく酢や昭和を生きて老い未だ       【原石賞】沢登り桃源郷あり幣辛夷しでこぶし                林彰 【恩田侑布子評・添削】  桃源郷を恋う句は世に多くありますが、蕪村の「桃源の路次の細さよ冬籠り」のように消極的な姿勢の句がほとんどです。これは「幣辛夷」の可憐でいながら清烈な春先の空気感をよく受けとめています。そこに今まで見たこともないアクティブな桃源郷への恋歌が生まれました。新味があります。   【添削例】しでこぶし桃源郷へ沢登り      

あらき歳時記 花朧

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2023年4月2日 樸句会特選句  花朧坂の上なる目の薬師                    天野智美  花がぼうっと朧にかすむ夕べ、石段を一つ一つお堂まで上ってゆく。坂を上れば、目の病に霊験あらたかなお薬師様が薬壺を掲げて待っていてくださる。嘱目の吟行句とは思えない完成度である。ひとえに「花朧」の季語の斡旋が手柄。これがもし、実際に訪れた「花の昼」であったら、とたんに一句はぼやけた。「花朧」だからこそ、眼病がこれ以上進まないようにと祈る切実さが伝わる。季語が作者の詩的真実になっている。                         (選 ・鑑賞   恩田侑布子)