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7月20日 句会報告

2025年7月20日 樸句会報 【第154号】 7月20日はリアル句会だった。通常のzoom句会ではパソコンの画面を通して対峙している面々が静岡市生涯学習センターアイセル21に集合した。久しぶりに顔を合わせれば話したいことは山積みだ。隙間の時間を見つけては話の花が咲いた。 句会の後半は師が講師を務める早稲田大学オープンカレッジでの秀句を鑑賞した。とくに、「夕焼や天には天のゴッホゐて」という名田谷昭二さんのスケールの大きく瑞々しい感性に大いに刺激を受けた。 兼題は「トマト」「サンダル」。入選2句、△3句を紹介します。  忘れたし手に白繭を転がして    恩田侑布子(写俳)   ○ 入選  白玉や母の話はまた元に                活洲みな子 【恩田侑布子評】 白玉団子を親子で向かいあって掬っています。たわいもない昔話が弾みます。老いた母の記憶はやさしく涼しげにまた元にもどってゆきます。はつらつとしていた頃にくらべ、頭脳の衰えが少しばかり感じられる昨今。白玉のなめらかな舌ざわりに、母の子として育った倖せをしみじみ思う夏の昼下がりです。   ○ 入選  満塁や灼くるシンバル灼くれど撲つ                小住英之 【恩田侑布子評】 下五のしつこいリフレインと字余りが効果的です。高校野球の満塁の場面でしょう。満塁は、天も地もひっくり返るかの興奮のるつぼ。応援団やチアガールの汗をかきたてるシンバルが球場に狂乱のように反響します。こんな酷暑の瞬間なら体験してもいい、いえ、ぜひ体験したいと思わせてくれます。   【△】  下思ひや日へ透かしたるラムネ玉               益田隆久  古書店に雨おしえらる麦茶かな               長倉尚世  揚花火鉄の貴婦人張り合ひし               佐藤麻里子   【後記】 俳句を始めて2年半が経つ。 入会当初に比べれば俳句への理解は大分深まったように思う。そんな中、これまで学んだ内容からはみだしていないことを確認し、リアル句会に投句した。 会員の選はまずまずだ。今日はよい評価がもらえるのではないか、期待が膨らんだ。 ところが師の選には1つも入らなかった。 理由は日記のような句であるから。 また小利口な70点の句を量産しても意味がないとも。 ガツンとハンマーで殴られたような気持ちになった。しばらくしてその言葉の本意が浸透し始める。ハンマーでガツンの次は冷水を浴びて目が覚めた、そんな感覚だ。 ああ、そういうことか…。 無自覚のうちに小手先の技術を覚えたことを師はすっかりお見通しなのだ。 改めて確信した。 俳句は面白い。 そして師恩田侑布子のもとで学ぶ俳句はとても面白い。 俳句作りにゴールはない。学び続け俳句のある人生を謳歌したい。  (山本綾子) (句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です) 天心へ発ちてつつまし蟬の穴    恩田侑布子(写俳) ==================== 7月6日 樸俳句会 兼題は暑中見舞、合歓の花。 原石賞5句、△2句を紹介します。   【原石賞】病む朝を蛾の垂直に羽休め               見原万智子 【恩田侑布子評・添削】 体調が悪いとつい気も滅入ってしまいます。そんな朝、「蛾」が「垂直に羽休め」というのですから、壁にひっそり止まっているのでしょう。「羽休め」では、作者にも蛾にも安堵が感じられ、くつろぎが出てしまいませんか。ここはものいわぬ蛾が「貼付く」陰気さを出したいところです。俳句ではやや使いにくい完了の助動詞「ぬ」が感触的にピッタリきます。夏の朝の作者の鬱陶しさや不安な体調も滲みます。 【添削例】病む朝を蛾の垂直に貼付きぬ   【原石賞】瑠璃釉に暑中見舞の氷見うどん               小住英之 【恩田侑布子評・添削】 細いけれど強いコシと餅のような粘りがある氷見の手延べうどん。実際のおいしさもさることながら、「氷見」という固有名詞がじつに効いていて、氷床に盛られた涼しさを幻覚します。自分で買ったのではなく、暑中見舞いの知友の気遣いのありがたさも。焼物の「瑠璃」も白いうどんの肌との対比が見事。一つ惜しいのは「釉に」です。単なる色彩の対比になってしまうので、「鉢」とし、卓上に氷見うどんが盛られた存在感を表現しましょう。 【添削例】瑠璃鉢に暑中見舞の氷見うどん   【原石賞】なつかしき癖字三行夏見舞               山本綾子 【恩田侑布子評・添削】 中七以降のフレーズ「癖字三行夏見舞」が出色です。それに比べると上五の「なつかしき」は平凡で、答えが出てしまいました。どうしたらいいでしょう。やり方は色々ありますが、一つの方法としては、この暑中見舞葉書を手にした時の質感を浮かび上がらせることです。「手漉き和紙に」とする風流路線もありますが、少しわざとらしくなります。「癖字三行」を書いてきた友だちの豪胆さが出れば、お互い元気に厳しい夏を乗り越えられそうです。。 【添削例】太ペンの癖字三行夏見舞   【原石賞】合歓咲くや七回忌了へ父の夢               活洲みな子 【恩田侑布子評・添削】 全体的にあたたかい気持ちがぼうっと感じられますが、句末の「父の夢」で、すべてが夢幻にすぎないように思われてきます。俳句は、どんなに夢や幻想に飛翔してもいいですが、最後の最後はこの現実に着地しなければなりません。そうすると語順を変える必要があります。父は亡くなったけれど、父が愛して庭に植えた合歓が今夏は咲いている。夢は実現したのだという内容にしましょう。「合歓」の花のやさしい余韻が残る句になります。 【添削例】七回忌了へたる父の合歓咲けり   【原石賞】淵碧き砦裸のピカソかな               佐藤麻里子 【恩田侑布子評・添削】 十九世紀以降、西洋の画家は宗教画から自由になり、自然の中で働き、くつろぎ、遊ぶ市民を画面に主役として描くようになりました。十九世紀後半から二〇世紀後半まで、一世紀近くを生き抜いたピカソの創作の源泉を「淵碧き」と捉えた素晴らしさ。しかし、「砦」は「芸術の砦」を思わせ。やや理に落ちませんか。ピカソはせっかく「裸」なので、碧の淵に遊び、創作のインスピレーションを得る開放感に解き放ちましょう。ピカソの天才を畏敬する秀句になります。 【添削例】碧々と淵に裸のピカソかな   【△】  向日葵や主治医の胸にアンパンマン               活洲みな子  等間隔警官配置沖縄忌               成松聡美   ラムネ飲むからんころんと月日かな  恩田侑布子(写俳)

ふじのくに茶の都ミュージアム 対談「茶の湯と俳諧」(11/9(日))

日本文化史学者 熊倉功夫氏と 樸代表 恩田侑布子の対談へお越しください  馬に寝て残務月遠し茶のけぶり  小夜の中山を過ぎ、芭蕉がこう詠んだのは、静岡県有数のお茶の産地 金谷の里でした。  その金谷(島田市)で、茶の湯と俳諧の奥深い関係性に触れる対談を、お聞きになりませんか?  登壇するのは、茶道史研究の第一人者である日本文化史学者の熊倉功夫氏(和食文化国民会議名誉会長)と、若き日に茶陶作家を目指した経験を持つ、樸代表の恩田侑布子(静岡新聞俳壇選者)。  当日は、静岡の自然や文物を詠んだ俳句についての対談のほか、前もって募集した俳句の中から恩田が選句した作品を、いくつかご紹介し鑑賞します。 【日時】2025年11月9日(日) 13:30~15:00予定(受付13時~) 【場所】ふじのくに茶の都ミュージアム 1階多目的ホール 【アクセス】JR金谷駅からバス・タクシーで約5分、徒歩約25分 【参加費】当日の観覧券(一般300円)が必要です 【定員】80名(事前予約制) 【観覧申込方法】ふじのくに電子申請サービス またはFAX: 0547-46-5007にてお申込みください *くわしくは下のチラシまたはホームページをご覧ください   対談で紹介する俳句を募集します 【題】・「茶」(季節自由) 「茶の花」(初冬)    ・「富士山」または「富士」(季節自由) 【締切】令和7年9月15日(必着) 【応募点数】お一人最大10句まで 自作・未発表に限ります 【応募方法】① ネットから ② FAX ③ ハガキ *くわしくは下のチラシまたはホームページをご覧ください *当日、紹介できるのは応募作品の一部です *俳句をご応募されなくてもご観覧いただけます 投句用紙をダウンロード→出力してお使いいただけます ふじのくに電子申請サービス

恩田侑布子が第16回一茶・山頭火俳句大会(11/8(土))の当日選者の一人を務めます

一茶、山頭火ゆかりの月見寺で  漂泊流転の生涯、国民的人気、という共通点を持つ小林一茶と種田山頭火。  金子兜太が提唱し、一茶、山頭火ゆかりの月見寺で開催されてきた「一茶・山頭火俳句大会」は今年で第16回を迎えます。  当日は入賞作品をスクリーンで披露する他、島村聖香さんの邦楽をお楽しみいただけます。また、昨年より大賞作品の句碑を境内に建立することとなりました。  応募方法には事前投句と当日投句があり、樸代表の恩田侑布子が当日投句の選者の一人を務めます。ふるってご参加ください(全作品掲載の作品集つき)。 ▫︎事前投句▫︎ 【作品・投句料】  四季雑詠3句1組 2,000円 何組でも可  未発表・自作に限る 有季定型・自由律どちらも可 【締切】2025年9月30日(火) 必着 【投句方法】郵送:下のチラシの応募用紙使用       Web:投句フォームより 【支払方法】①現金書留 ②定額小為替 ③銀行振込 *郵送先、銀行振込先等、くわしくは下のチラシをご覧ください ▫︎当日投句▫︎ 【作品・投句料】 当季雑詠2句1組 2,000円 何組でも可  未発表・自作に限る 有季定型・自由律どちらも可 【日時】2025年11月8日(土)     作品受付時間 10:30〜12:30  厳守     13:00開会     14:00~ 披講・表彰予定     17:00終了予定 【会場】月見寺(本行寺)東京都荒川区西日暮里3-1-3 【アクセス】JR日暮里駅 北改札口を左へ 徒歩1分 ▫︎主催 一茶・山頭火俳句大会実行委員会 ▫︎後援 荒川区・本阿弥書店・公益財団法人荒川区芸術文化振興財団 ▫︎お問合せ 一茶山頭火俳句大会事務局 投句用紙をダウンロード→出力してお使いいただけます 投句フォーム

わが恩田侑布子 一句鑑賞 6

        益田隆久

photo by 侑布子    ひいふつと子猿みいよう若葉風 恩田侑布子   (『俳句』2025年6月号「八風」21句より)    山を歩いているときだろう。子猿が何匹か目の前を通り過ぎたのだ。口角が思わず上がってしまう驚き。光景の意味を伝えることに重点を置くなら、「どこで、どんな瞬間に」を書く。例えば、「目の前を子猿飛び出し若葉風」・・・など。しかし光景を説明しようとするほど臨場感、実感から遠ざかる。  「あ、子猿だ、一匹、二匹、三匹・・・」と、思わず呟いた。光景を伝えることを省き、呟きをそのまま俳句にする。思わず漏れた「つぶやき」を息が声となって口から漏れ出るごとく。それは体感そのもの。そして体感ゆえの弾むようなリズム。  一度音読したら忘れない。大好きな一句の誕生。若葉風は動かない。子猿が「サッ・・」と横切り木立に消える。それは作者を思わず笑顔にしてしまった気持ち良い若葉風なのだ。

わが恩田侑布子 一句鑑賞 5

         前島裕子

photo by 侑布子    平茶盌天さはさはと畳かな 恩田侑布子   (『俳句』2025年6月号「八風」21句より)    「八風」の二十一句は、初夏と仲夏でそろえたという。そのなかに季語のない一句がある。無謀にもそれを鑑賞したくなった。  句は茶道のことをよんでいる。  まずは、薄茶をいただく客の立場で句をくり返しよんだ。「平茶盌」は夏季の茶の湯に用いられるとあるのでこれはわかる。しかし「天」と「畳」がわからない。  次に亭主になりかわり句をよんでみる。  するとストンと自分の中に落ちてきた。  客をもてなすために用意した「平茶盌」にお茶を点てる。あわが茶盌の広い口に「天」のようにひろがり「さはさは」とさわやかに涼しげだ。その「平茶盌」を「畳」におく。心の中で(ちょうどのみごろです。めしあがりください)と言いながら。これが詠嘆の「かな」なのではないか。  「畳」におかれた「平茶盌」は、客に委ねられる。  また客になりかわる。今度は「畳」より「平茶盌」を手にとり、亭主もてなしの「さはさは」と涼しく点った薄茶をあじわうことができ、初夏のすがすがしい気分になった。  恩田は「平茶盌」が季語になるようにと、願っている。ときいている。

第15回北斗賞の授賞式が行われました

6月14日、東京新宿の京王プラザホテルで、第15回北斗賞(主催:(株)文學の森)の授賞式が行われました。受賞された古田秀さんは挨拶で喜びと感謝の言葉を述べるとともに、「現実に目を塞ぐことが賢く得であるとされる現代において、俳句は私たちに語るべき言葉を持たせてくれる」と、自らの俳句に対する深い思いを披露。会場の来賓席には、その堂々としたスピーチに温かい眼差しを向けて聞き入る恩田侑布子の姿がありました。   スケールの大きな挨拶で会場を沸かす古田秀さん   古田秀と恩田侑布子の晴れやかなツーショット  

応募締切迫る!

第62回現代俳句全国大会

投句締切 7月31日(木)(必着) 恩田侑布子が選者の一人を務める、第62回現代俳句全国大会の作品募集締切が7月31日(木)に迫りました。 本大会は、現代俳句協会の主催で年一回開催される、伝統ある大会です。協会員でなくても、どなたでも参加できます。 ふるってご応募ください!! [応募規定](抜粋) ◻︎ 3句1組・2,000円:何組でも可。ただし新作未発表作品に限ります。*前書き、ルビは不可。 ◻︎ 題詠1句(無料):昭和100年の今年は「昭和」を題材にした俳句を募集します。ただし題詠のみの応募は不可。 ◻︎ 投句料の振込方法および作品の送付方法 ⇩⇩⇩ こちらをご覧ください ⇩⇩⇩ 投句用紙をダウンロード→出力してお使いいただけます

わが恩田侑布子 一句鑑賞4

       馬場先智明

photo by 侑布子    八風へ起ちあがりけり青芭蕉 恩田侑布子   (『俳句』2025年6月号「八風」21句より)    八風(はっぷう)とは、「人の心を動揺させるものをまとめて風に喩えた八つの語〔利・衰・毀・誉・称・譏・苦・楽〕」(『仏教語大辞典』)とある。辞書を引かなければ皆目わからなかった。が、意味がわかって納得。世間で生きていくということは、この八つに絶えずさらされ続けるということだ。四順(利・誉・称・楽)の誘惑は逃れがたく、四違(衰・毀・譏・苦)からは逃げ出したい。異議なし。だから仏教ではこの八風に侵されない者を賢人としたのだろう。  掲句では、この八風に敢然と立ち向かおうとしている強烈な意志が読み取れる。「起」は、蹶起。俳壇から吹いてくる風には立ち向かい、過去の苦い記憶は消し去りたい。譬えは良くないが、さだまさしの「風に立つライオン」を思い出してしまった。恩田侑布子は、「八風」に顔を背けず、真正面から「さぁ、かかってこいや」と吠えるライオンなのだ。  「青芭蕉」は2メートルにもなるという大型の葉なので、吹いてくる風を全身で受けることになる。風が強ければ強いほど大きく揺らぐが、揺らぎながらも風に立ち向かうその姿に恩田侑布子の生き方が見えるようだ。こういう勁さが響いてくる挑発的な句に惹かれる。