12月2日 句会報告

平成30年12月2日 樸句会報【第61号】

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       ( 静岡市・洞慶院 )   photo by 侑布子

例年になくあたたかな師走の二日目、12月最初の句会がありました。
今回は、入選3句、△2句、ゝシルシ8句、・ シルシ4句でした。
兼題は「鴨」と「冬木立」。
今回は○入選3句いずれも、恩田だけが採ったもので、高点句は全く別という結果でした。

                    
〇大八の幅の隧道蔦枯るる
             天野智美

「蔦の細道(東海道五十三次で一番小さな宿場・丸子の宿から岡部へ越える峠)の北側にある明治の隧道を詠んだ句ですね。やっと大八車が通れるほどの幅で、暗いトンネルです。出入り口に枯蔦が迫る山の狭い空も見えてきます。しっかりと写生が効いている。ゆるみのない措辞で、昔の隧道と往時の人々の暮らしを思いやる気持ちが表現されています。今昔の感じが、ものに託してしっかり書いてある。手堅い良い句です」
と恩田侑布子が評しました。

                                    
〇石畳当てなく暮るる漱石忌
             天野智美

「“石畳”の切れに、近代、イギリスを感じます。漱石は近代と真っ向から取り組んだ人。ロンドンに留学してノイローゼになり、その後ずっと近代的な個人主義のもんだいを考えた。“則天去私”を言いながら、則天去私の生き方はできずずっと近代と戦った人。いまだにわれわれも“近代”をのり超えていませんね。そういう漱石の苦しかった一生、そうして文豪となった漱石への畏敬の念が表れている句です。“石畳”という措辞がとても良い。“自然”の中で生きるのと全く逆の生き方、都市の文明と生活を暗示しています。中七の“当てなく暮るる”に作者は自分の心象を重ねている。うまくて、深い句だと思いました」と恩田が評しました。

                              
〇だらしなき腹筋眺む憂国忌
            芹沢雄太郎

「おもしろい句です。自分のたるんだ腹筋と三島の肉体を対比し、自虐し、自己を客観視する余裕がある。その奥にボディビルで肉体改造し自決した三島の生き方への批判もある。つまり二度のひねりが効いています。含みと味わいのある句。振り幅の広い豊かな句だと思います」と恩田の評。
 作者は「三島の自己陶酔には批判的だった。もっとゆるくでいいじゃない、と語りかける気持ちで詠んだ」とのことでした。

 
合評の後に、『石牟礼道子全句集 泣きなが原』からの句を鑑賞しました。

 おもかげや泣きなが原の夕茜

 さくらさくらわが不知火はひかり凪

 来世にて逢はむ君かも花御飯まんま
     
  などの句が人気でした。
恩田は『藍生』2019年2月号に「石牟礼道子の俳句論」十数枚を寄稿いたします。
               
『石牟礼道子全句集 泣きなが原』についてはこちら(注目の句集・俳人)
 

         
[後記]
「うまいけれどよくある句、パターン的によくある句、デジャビュ感のある句」という評が多かった今回。どうやって新たな表現を見いだしていくかは常に課題です。「自分の井戸を掘ることと、万象にオープンマインドでかかわっていくことを同時にやれるのが俳句の醍醐味」との恩田の言葉に、俳句の楽しさと難しさの両方を感じた句会でした。

次回兼題は、「冬至」と「セーター」です。  (猪狩みき)

20181202 句会報用-2
(焼津市・花沢の里 蔦の細道から尾根伝いに降りられる)
                     photo by 侑布子

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