8月4日 句会報告 

2024年8月4日 樸句会報 【第143号】

蝉の声が窓ガラスを貫き、室内にいても恐ろしく思えるほどの炎天ですが、外に一歩も出ずに句会空間にアクセスできるのはありがたいこと。しかし作句はそうはいきません。なるべく自然と触れ合い、言葉を模索する日々です。もちろん熱中症対策は万全に……
兼題は「原爆忌」「百日紅」。
特選3句、入選2句、原石賞1句を紹介します。

撲つたゝく空に出口のなき花火 恩田侑布子(写俳)

◎ 特選
 昨日原爆忌明後日原爆忌
             小松浩

特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「原爆忌(一)」をご覧ください。

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◎ 特選
 ギターの音川面に溶けて爆心地
             古田秀

特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「原爆忌(二)」をご覧ください。

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◎ 特選
 サンダルを履かずサンダル売り歩く
             芹沢雄太郎

特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「サンダル」をご覧ください。

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○ 入選
 スクールバスみな茉莉花の髪飾り
               芹沢雄太郎

【恩田侑布子評】

茉莉花はインド、アラビア原産。南インドのインターナショナルスクールに通う子どもたちの朝の光景が生き生きと感じられます。蒲原有明が「茉莉花」で歌った神秘的な悲恋の情調は、この句では一変します。つよい陽光の中で琺瑯のような白が少女らの黒髪に煌めき、原産地の豊穣な香りを湧き立たせます。

○ 入選
 火矢浴びて手筒花火の仁王立ち
                岸裕之

【恩田侑布子評】

新居や豊橋の手筒花火のハイライトシーンを巧みに造形化しました。胸に火筒を抱えて「仁王立ち」する姿こそ、まさに夏の漢の勇姿というべきもの。「火矢浴びて」も、頭上から降り注ぐ火の粉を言い得てリアルです。

【原石賞】異常気象をエネルギーにか百日紅
              海野二美

【恩田侑布子評・添削】

炎暑をものともせず、逆に楽しむように咲き誇る百日紅は「異常気象をエネルギーに」しているのかなと疑問を投げかけます。発想自体が非凡なので、遠慮がちな字余りの疑問形ではもたつきます。言い切りましょう。その方がずっとインパクトが強くなり、百日紅が咲き誇ります。

【添削例】百日紅異常気象をエネルギー

【後記】
今夏は広島へ旅行にいきました。平和記念資料館の展示に圧倒されながら、噴水と梔子の花に立ち直る力をもらいます。そして広島市現代美術館の、広島という都市の記憶をナラティブに展開する作品群に心がざわめきます。平和を希求し、選択すること、何よりそれができるうちにし続けることを心に刻みました。

 (古田秀)

(句会での評価はきめこまやかな6段階 ◎ ◯ 原石 △ ゝ ・ です)

青蘆やあふみの海へ婆娑羅さら 恩田侑布子(写俳)

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8月18日 樸俳句会
兼題は星月夜、花火。
特選1句、入選2句、原石賞2句を紹介します。

◎ 特選
 見上げねば忘れゐし人星月夜
             見原万智子

特選句の恩田鑑賞はあらき歳時記「星月夜」をご覧ください。

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○ 入選
 帰りぎは「またきて」と母白木槿
               前島裕子

【恩田侑布子評】

一読、切なくなる俳句です。離れ住んでいるけれどよく来てくれる娘に、つい甘えて「またきて」という老母。病が重いというわけではないけれど、老いが次第に進み、フレイルになってゆくさびしい姿が、白木槿のやさしさや儚さとひびいています。

○ 入選
 君くれしボタンを吊りて星月夜
                山本綾子

【恩田侑布子評】

今の中高生にもこんなジンクスが伝わっているのでしょうか。卒業式の日に、憧れの男子から学ランの第二ボタンをもらえると「君が本命だよ」の意になり、「両思いよ」とか、「失恋」とか、クラスの女子がときめき、密かに騒いだものです。作者は意中の人から胸の金ボタンをもらい、秋が訪れても大事なお守りとして部屋の天井から吊っています。離れた都市に進学したのかもしれません。いつか結ばれたいという思いが「星月夜」と響きかわします。ロマンチックで可愛い俳句。

【原石賞】ひとりも良し背中で見てる音花火
              都築しづ子

【恩田侑布子評・添削】

花火大会に集まる群衆をよく見れば、家族、仲間、恋人といった複数人の単位から構成されています。ところがこの句は「ひとりも良し」と言って、深い切れがあります。そこが内容と表現が一体化したいいところ。ところが残念なことに、中七以下は上五のせっかくの美点を損なっています。背中に眼はなく、「音花火」も無理な措辞なので、自然な表現にしましょう。若い日から体験してきたさまざまな花火の夜が鮮やかに作者の背中に咲き誇ります。

【添削例】ひとりも良し背中に聞いてゐる花火

【原石賞】二度わらし母を誘ひて庭花火
              坂井則之

【恩田侑布子評・添削】

認知症になった老親を「二度わらし」といいます。漢字では二度童子。線香花火など手に持ってする「庭花火」も効果的。認知機能は多少衰えても、まだ花火を手で持って楽しむことができ、子どものように無邪気にはしゃぐかわいい母なのでしょう。上五でぶっつり切れることだけが気になります。「二度わらしの」と字余りになっても、この句のゆったりした内容を損ねません。

【添削例1】二度わらしの母を誘ひて庭花火

夏の果瞑りてする微塵切 恩田侑布子(写俳)

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